055 バール・ヴィンテール
ここビシュ城の裏庭は、かつて大きな噴水と広い花畑でまるで絵の様な美しい風景が広がっていた。
しかし現在は深い緑一色の草原と、水の出なくなってしまった噴水。そして倒れ込む数多の兵士。昔の面影など全くないと言っても過言ではない状態だった。
その中に、倒れそうになりながらも戦い続ける兵士たちの姿があった。
「……小さいくせになかなかやるなぁ。」
息を切らしながらそう言った背の高い男は、ゼロ・フォン・ヴォルケ。ヴォルケ家の次男。つまり、フィリップの弟だ。
対するのは、アカツキ義勇団のバール・ヴィンテール。拳にパワーを込め、攻撃のチャンスを伺っている。
バールはフグマールの隠れ家での訓練で、パワーで武器を作って戦うスタイルから、素手で戦うスタイルへと変えていた。
「戦闘のスタイルを変える?」
「ええ。実は元々素手で戦わせるつもりだったんだけど、そのためにはまず違う戦い方もマスターして欲しくて。」
そう提言したのは師匠のディープだった。今の状態なら素手でも戦える。これまで彼の成長を隣で見守ってきた師匠はそう判断したのだ。
そして今、ロスクルド帝国のゼロと渡り合っている。
するとゼロが突然、こんな事を言い出した。
「なぁ、戦争に敗れた俺たちがどうやってまたここまで力をつけることができたと思う? 」
「知りたくないね。そんなの」
急な質問にバールはそう答えるも、ゼロは話を続けた。
「実はさ、敵の捕虜の中に、とんでもねぇパワーを出せる奴がいたんだ。本当にすげぇ量だった。それでよ、そいつのパワーをなんとかエネルギーとして使えないかって考えたんだ。」
バールが顔をしかめる。国のためなら何でもする。そんなやり方が気に入らなかった。
「そいつ確か、ビバ帝国の奴だったなぁ。暴れ回るもんだから、俺が気絶させたんだ。」
調子よさそうにぺらぺらと話し続けるゼロ。その捕虜が自分の住むビバ帝国の者だったと聞いて、バールの心にはさらに怒りが込み上げてくる。
「それでよぉ、そいつの頭開いて、脳みそちょっと弄ったらパワーが出る様になったんだ。それで技術者達と開発したパワーを吸い取る機械でな、そいつのパワーをエネルギー資源として運用することに成功したんだ。」
そして、ゼロの口から衝撃的な事実が告げられる。
「確かそいつ、ボルト・ヴィンテールっていったかな? 」
ボルト・ヴィンテール。それは、バールの父親の名前だった。ロスクルド帝国はバールの父を利用して、国力を高めていたのだ。
「そいつの家族がいたら言っといてくれ。ありがとよって」
へらへらと笑いながら話すゼロの顔面を、バールは思い切り殴った。ゼロの体は浮き、近くにあった大木に身体を打ち付ける。
「な、なんだよ……」
急な攻撃に驚くゼロだが、バールの表情を見てさらに驚いた。彼が見たものは、歯を食いしばり、涙が出るほど胸を詰まらせ、ただひたすらに怒るバールの姿だった。
「俺の……俺の名前を教えてやるよ……」
バールは涙を流しながら拳にパワーを集中させ、それを震わせながらこう叫んだ。
「俺は……バール・ヴィンテールだ!!!」
パワーを込めた拳が、寄り掛かっていた大木ごと彼を吹き飛ばした。




