052 永訣
東陣営。
ビシュ城の正面では、アランの奇襲によって1人の兵士が倒れてしまった。
「トゲゾウさん!!」
クロガネが急いで駆け寄るも、今度はレイが邪魔をしてくる。
「バンズ!手を貸してくれ!!」
クロガネは近くにいたバンズに協力を仰ぐ。人数差で有利な状況を作りたかったのだ。
「へっ!俺を忘れるなよ。」
トゲゾウへの攻撃を終えたアランが戻ってくる。これで人数の差は無くなってしまった。
しかし、ここで意外な人物が参入してくる。
それは、他の敵兵の相手をしていたビュウだった。以前より大きくなった弓と速いスピードでアラン目がけて向かってくる。
油断していたのか、アランは驚いた顔をしている。
そしてビュウは、
「お前の…相手は……俺だぁぁぁぁぁあ!!」
そう叫びながら強力なパワーが込められた矢をアランに放った。
その横で、倒れている1人の兵士。名をトゲゾウという。彼は六槍師の1人で、多くの弟子を持つ。その内の1人、モエが彼のもとへ駆け寄っていた。
救護係を務めることもあるモエは、得意の回復用の羅天術で彼の治療をしている。
「師匠……すぐに治療しますから……もう少し頑張ってください……。」
先程まで敵兵と争い、かなり疲弊しているはずの彼女は、目に涙を浮かべながら彼の手当てをする。
そんな彼女を安心させるように、柔らかい表情をしながらトゲゾウはこう言った。
「もういい。き、君は戦闘へ戻りなさい。ほら、君の助けが必要ですよ。」
師匠の言葉を無視してまで治療を続けるモエを諭す様に、ゆっくりとトゲゾウが話を続ける。きっと脚はひどく痛んでいるだろう。
「み、見たら分かる通り、私の脚はもう使い物にならない。それにこんなに血が出ているんだ。君なら分かるだろ?いくら羅天術で脚の状態が良くなったとしても、血までは増やせないんだ。治ったとしてもわ、私は動くことはできないよ。」
分かってはいたが、改めてその現実を知らされたモエの目からは涙が溢れ出る。
「……私が……私が安全な所まで運びますから!だから……だからもう少しだけ続けさせてください!」
嗚咽混じりに泣きながら話すモエを、優しそうな表情でトゲゾウが見つめる。
「……モエ。師匠から最初で最後の命令です。」
「命令」という言葉を使って今までに無かったくらい強く押し付けた。
「戦闘に戻りなさい。今すぐに。」
「できません!もうすぐ終わりますから、もう少しだけ……」
トゲゾウの柔らかな表情はだんだん力の無いものに変わっていく。
「……君は……君は本当に強くなった。日々の鍛錬を怠らなかった証拠です。これなら安心して国を、いや世界を任せられる……。」
そう言って目を閉じたトゲゾウを、モエが見つめる。
「師匠……? 」
「時間だ。私はまだここで君の戦いを見守っているから、君の成長した姿、見せてください……。」
最後の方はほとんど聞き取れなかった。多量の出血で意識を失ってしまったトゲゾウは、そのまま帰らぬ人となった。
遠くでクロガネ達が奮闘している声が響く。しかしそんなものはモエの耳には全く届いていない。そして彼女は、子供の様に大きく口を開けて泣き叫んだ。




