001 出会い
今から5年前、世界中を巻き込む大きな戦争があったらしい。
ある国は隣国に裏切られ、またある国は戦争に敗れ国力をかなり制限されたそうだ。
そして戦争を止める活躍をした者達は六槍師という名と世界平和に貢献した勲章を与えられた。
時は現代。世界は一つになり、戦争を止めた英雄たちの活躍もあって犯罪数も減少。人々は平和でのどかな暮らしをしていた……はずなのだが。
「待てー!!!」
エプロンを巻いた小太りの男と、身長の高い男がある1人の少年を追いかける。
「遅えなぁ。それじゃあ俺に追いつけねえよ」
短い黒の髪を揺らしながら、いともたやすく距離を広げる。
「け、警察に通報するぞ……!」
「こんなことしてただで済むと思うなよー!!」
二人の男はそう叫んだが、少年は気にも留めなかった。
「へへっ慣れたもんだぜ」
(あんたなんか、、死んでしまえばいいのよ )
少年の頭に、過去の記憶が浮かび上がる。
「こんな事になったのも、全てあいつのせいだ」
この少年、バール。
5年前の戦争で父親が死亡。それによりヒステリックになった母親に、9歳の時に捨てられてしまう。それからは街を転々とし、食べ物を盗みながら生活する日々を送っている。今日はラドンヌのパンを盗んだらしい。
「やっぱラドンヌのミルクティーパンはうめえなぁ。あいつら追ってくる前に逃げとかないとな」
バールは走り続ける。この街は一番物が盗みやすいらしい。何度も来たことがあるので道は完全に覚えてしまっていた。
「うるせぇ!!もっと酒飲ませろ!!ん??」
いつもの角を曲がると、そこには1人の見知らぬ女性がいた。赤みがかった茶色の髪を、腰まで伸ばしている。
バールは、避ける間も無くぶつかってしまった。
何か柔らかいものにぶつかった様な、いやとても弾力があり力強いものに当たった気がした。