08. もらった宇宙船を見に行く1 到着
08. もらった宇宙船を見に行く1 到着
そしてとうとう出発当日の午前九時。
俺は、マンション一階のエントランスに置いてある長椅子に腰かけていた。もちろん手ぶらだ。
アインさんはうちのマンションに九時五分前に到着した。彼女はいつもの服装だが、今日はあのカバンは持っていない。
二人でエレベーターに乗り込み、前回と同様マンションの屋上から連絡艇?に乗り込んだ。
小さくなっていく日本列島、地球もどんどん小さくなっていく。変な振動もなければ音もしないし、座席に張り付かせるような加速感もないので実感がわかないがかなりのスピードが出ているのだろう。
アインさんは隣の座席で目をつむっている。寝てるのだろうか?
特に話すこともないし、星の海も三十分も見ていれば飽きてきたので、俺も目をつむった。
宇宙旅行二度目にして星の海に飽きてしまった。わがことながら感動薄いと思う。これが宇宙飛行士だったら数年に及ぶ過酷な訓練のさき、やっと宇宙に出られたことで感動もひとしおだったろう。
目を閉じているうちに、うつらうつらとしてすこし寝てしまったようだ。
腕時計を見ると、十時間ほど寝てたらしい。そんなに疲れていた自覚がなかったので十時間も眠れた方が驚きだ。一時間ほどしか寝てない気がどうしてもする。
右手に大きく木星が見える。木星の輪っかがうっすらと見えた。ああ、木星にも輪っかがあるんだなあ。期待の大赤斑はここからでは見えないようだ。
「木星までの飛行は実時間十一時間の予定でしたが、設備の整っていない連絡艇では何かと不便ですので、約二時間と感じるよう山田さんの感覚を調整をさせていただきました」
やはり、俺は十時間寝てたらしい。いや、やっぱり自分にとっては一時間か?
「前方に見えるのが、この連絡艇の母船、工作艦SII-001です。その左手の円盤がハイパーレーンゲートです。ハイパーレーンゲートの手前が今回山田さんをアギラカナにお送りするS2級巡洋艦、その周りの小さい六隻の宇宙艦がP2級駆逐艦です」
「右の白丸と、左の白丸は同じように見えますが。あとは赤い円盤と白い三角のですか?」
「工作艦も巡洋艦もどちらも、S2級船殻を使用していますので、外観はほとんど同じです。また、稼働中のハイパーレーンゲート面は赤く見えるようです。
S2級のSは球形を、P2級のPはピラミッド型を表しています。数字の2は、その形で2番目の大きさという意味です。山田さんがご理解しやすいよう地球準拠で表しています。ここにいる六隻の駆逐艦はどれも雷撃装備ですので、戦隊の旗艦となる軽巡洋艦一隻と随伴する駆逐艦六隻で一個雷撃戦隊というくくりになります。
もちろん雷撃と言っても地球のような魚雷やミサイルを主力兵装として撃つわけではありません。雷撃戦隊の主要兵装は、反物質を封じ込めた大型対消滅弾です。これが直撃すれば船殻を直接破壊出来ますので、船殻を持つ大型艦であれ一撃で撃破可能です。まあ、簡単には直撃できないようですが。
言うまでもありませんが、対消滅弾は惑星攻撃などにも有効です。地球くらいの大きさで無防備の惑星ですと駆逐艦に搭載された大型対消滅弾一発で地表の生物は特殊な微生物を除き絶滅するでしょう。それでは、このまま巡洋艦に着艦します」
恐ろしいことを平気で言う人だなあ。
目の前の球形の軽?巡洋艦?は直径が720メートルほどだそうだ。近づくにつれてその巨大さに圧倒される。スカイツリーの高さが630メートルほどだ。ひょろ長い棒じゃなくて、それが真ん丸だぞ。でかい。話しぶりからこの軽巡洋艦は大型艦ではないらしい。大型艦はどれだけでかいんだ! それにハイパーレーンゲートとかいう赤い円盤、こっちは直径が3キロもあるそうな。
目の前に直径が720メートルの球体の赤道?部分にスリットが開いている。ぶつかるかと思うほどの速度で急接近。うわぉー! 正直アレがすくんでしまった。そのスリットの中に連絡艇が飛び込んでいった。
飛び込んだ先は、着艦デッキというらしい。かなり広い。高さも30メートルくらいか。今乗っている連絡艇より若干大き目の円盤型の宇宙船が十隻ほど並んでいる。連絡艇が着艦すると、すぐに飛行場で見るようなボーディング・ブリッジが伸びてきて、先端が連絡艇にくっ付くかどうかというところで止まった。
「こちらへどうぞ」
視界がゆれると、ボーディング・ブリッジの中に立っていた。本来、短距離転送で連絡艇への出入りが可能なのでボーディング・ブリッジは不要なのだが、慣例上使用しているそうだ。連絡艇側の転送装置に問題がある場合には連絡艇をこじ開けることも出来、緊急時の対応が迅速に行われるそうだ。また、ボーディング・ブリッジを歩いている間に、検疫が行われ、予期せぬ微生物などの侵入がここで阻まれているという話だ。
アインさんに先導されて巡洋艦の艦内を進む。
通路の床面に埋め込まれた照明が足元から順に前方へ流れて進行方向を示している。突き当りと思しき壁に近づくと、そこは扉だったらしくその個所が無音で開いた。しばらく歩いて何度か扉をくぐると、エレベーターホールのようなところに出た。そこは実際エレベーターホールだったらしく、待つこともなくエレベーターに乗り込むことができた。ここまで乗員らしき人には出会っていない。
あいかわらず、加速感も減速感もないまま扉の開いたエレベーターから降りると、そこはこの巡洋艦の心臓部、中央指令室ということだった。
正面と左右は壁の代わりに、宇宙空間が見える。外の景色が映し出された巨大なスクリーンなのだろう。
いままで前を歩いていたアインさんが一歩後ろへ下がる。
「ようこそ、S2級巡洋艦LC-0001へ」
イケメンがそこにいる。イケメンの隣には、スレンダー美女。その左右には銃?を持った人が三人ずつ並んでその銃を上に掲げている。警備兵?宇宙船も船ならば陸戦隊なのか?
「LC-0001の艦長を務めますカブラ・ハイナンテです」
どう見ても日本人顔のイケメン。三十代前半に見える。黒いボディースーツの首回りは詰襟っぽくなっていて、片側の襟に銀ボタン?が二つ並んでいる。階級章かなんかだろうか。帽子はかぶっていない、スポーツ刈り的な髪形。後で知ったが、ヘルメットはかぶっても帽子をかぶる習慣はないらしい。某宇宙戦艦の艦長はかぶっていたが、宇宙船の中じゃ日差しの強いところもないうえに、帽子をかぶっていると汗をかいたりしたら蒸れて若ハゲになりやすいからな。
「どうも、山田です」
「副長のアーサ・ナバイテです」
こちらも日本人顔の美人さん。二十五歳くらいに見える。こちらは銀ボタンが一つ。やはり、階級章っぽい。よく見ると詰襟は、別の生地で黒い縁取りがされているようだ。艦長さんは黒髪だけど、こちらはやや茶髪でやはりベリーショート。
「山田です。よろしくお願いします」
二人の着る黒いボディースーツはよく見ると黒に近い紺色で、表面がテカらないように加工されており、魚のうろこ状の模様?が見える。ここで、左右の警備兵が持っていた銃を細い方を持って太い方を下にして床に下した。
「この部屋は、艦の中央指令室になります。艦内のほとんどの操作は、この中央指令室でおこなうことができます。どうぞ、こちらの戦隊司令席にお座りください。慣例で、戦隊司令の席は設けていますが、通常、雷撃戦隊には司令は配属されませんので、現在、当艦の艦長の私が戦隊司令を兼任しております。
アギラカナ到着までのしばしの間ですが、ごゆっくりしてください」
今いるところから一段下がった場所には、黒っぽいボディースーツのような体にフィットしたものを着たオペレーターらしき人たちが椅子から立ち上がってこちらを見ている。右手でグーを作って、左肩口に当てている。敬礼のようだ。ひーふーみー……、左右に五人ずつで十人ほどいる。
俺も答礼として、右手でグーを作って、左肩口に当ててみたら、みんな席についてくれた。
ここに座っているように言われたので、一段高い場所にある戦隊司令席に座る。アインさんは俺の横に立っている。
少し前にある席に艦長さんが座る。副長と警備兵たちは、部屋を出て行った。副長さんは副指令室に席があるそうだ。警備の人はその辺を警備するんだろう。よくはわからない。
「ハイパーレーンゲート全正常! 対航艦ありません」
「ハイパーレーンゲートに進入する。戦隊発進!」と艦長さん
「係留ビーム解除! 戦隊、発進!」
「係留ビーム解除! 戦隊、前進微速!」
「ハイパーレーンゲート進入 三十秒前、二十九、二十八、……、三、二、ハイパーレーンゲート進入」
「進入」の言葉と同時に、前方スクリーンにはみ出すように薄赤く見えていたハイパーレーンゲートが消えた。右側面の壁に映し出されていた木星も見えなくなった。ほかの星は変化あったのか? これは微妙なところか。
星々については、あまり変化を感じられなかった。おそらくゲートの先でもゲートに入る前と同じ方向で艦が出て来たのだろう。
「全艦正常にハイパーレーンゲート通過完了しました」
「戦隊全艦正常」
「戦隊は、これよりアギラカナ第1宇宙港に向かう。戦隊巡航速度まで増速。進路、アギラカナ第1宇宙港!」
「戦隊巡航速度まで増速。進路、アギラカナ第1宇宙港!」
艦長さんが俺の方を振り返って、
「あと二時間ほどで、アギラカナ第1宇宙港第1桟橋に接岸します。アギラカナ第1宇宙港第1桟橋はアギラカナ艦長専用桟橋ですので、これまでどの艦も接岸したことがありません。わが艦が初めてになります!」
何だかこの艦長さんは、傍から見ても嬉しそうに見えるし、気合が入っているみたいだ。
どうも、アギラカナの艦長は特別な存在で、特別待遇らしい。まあ、大きさが惑星規模の宇宙船の艦長ということならさもありなん。
だけど、権利に伴う義務? そもそも、このアギラカナがどこにどう沈むのかという疑問もあるが、例えば昔の戦艦なんかだったら、艦が沈むときは、一緒に運命をともにするといったようなことは、まさかないよな?
いまさらながら、何でみんな日本語が話せるの? 疑問に思って、後でアインさんに聞いたら、みんな俺のために日本語をインストールしてくれたらしい。単位なんかも、日本仕様に変更したそうだ。時刻も日本国明石標準時と同期させたそうで、それで不都合は全くないらしい。地球にない概念なんかは適当に造語を作るのだが、日本語はそういう点で簡単便利といわれた。日本人でよかった。
この作品は、更新が遅いので、暇つぶしにでも
堀口明日香の短編シリーズ
https://ncode.syosetu.com/s3330f/ もよろしくお願いします。