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74.第一次移民計画

74.第1次移民計画1




 一条たちを地球に運んだ軽巡洋艦クレインが明日にはアギラカナに戻ってくるだろうから、俺もすぐに地球に向かおうと思う。



 ゼノの発生元の中性子星に大遠征をおこなう前、もう十数年前になるが、アインと地球人の疎開について話し合ったことがあり、その時の話で、地球上の生物の精密な遺伝情報を取得していこうということになった。


 いまもその計画通り、遺伝情報取得のため地球上をドローンが飛び回っているらしい。今までの作業を通じ、推定ではあるがすでに地球上の生物種のうちその七割がたのしゅの情報を得ていると聞いている。今の時点で成体の大きさがある程度ある生物はほぼ網羅もうらしているそうなので、何があっても一安心だ。また、AMRや太陽系クルーズを通じての人の遺伝情報取得もかなり進んでいるようで、少なくとも日本人の三割にあたる遺伝情報はすでにプールしており、クローンにはなるが日本人という遺伝子集合体が個体数の少なさから絶滅することはないと聞く。


 俺自身、すでにアギラカナ人としての自分の方が日本人としての自分よりも大きな比重を占めていることは自覚している。いずれ俺が死んだら、私邸の庭のマリアさんの桜の隣に俺の骨を埋めてもらって、その上にソメイヨシノの苗木を植えてもらうよう、今のマリアに指示している。その上での移民・疎開計画なので、地球人にとっては少し辛口になるかもしれない。


 地球からの脱出計画については、大まかな方針は先ほどの会議で伝えているので、最終的には、アインやマリアが計画をまとめるだろうが、俺もある程度具体的に考えておくとしよう。



 そう思って、執務室の机の上のモニターに第二層の立体地図を映し、最初のテストケースとなるはずの第一次の移民計画について考え始めた。


 まずは、移民を受け入れる場所。おそらく将来的には地球人の避難所リフュージとなる場所だ。


「さーて、どこら辺に最初の移民村を作るか?」


 などと、文明・都市シミュレーションゲームのつもりでいろいろ考え始めてしまった。


 最初の十年間で年あたり多くて五万人くらいを募集して様子を見るか? 日本以外と国交を結んでいないため最初の移民は日本人からにならざるを得ないな。年五万だと、日本でいう地方の小都市規模。最初はそんなものでいいか。



 住居、電気・ガス・上下水道の基本インフラは整えるとして、その他の部分は自給自足してもらいたい。本人たちもそのことについてはさすがに納得するだろう。そのためには、農業・水産業の一次産業が重要になる。多くのシミュレーションゲームはそうだしな。シミュレーションゲームを参考にしていいのかどうかは疑問だが。今は素人の考えるただのたたき台だ。


 アギラカナには今まで通貨はなかったが、労働の対価として、また移民たちの士気モラールの維持のためにも、新しく通貨も必要になる。そのまま円の行使を許してしまうと、地球での個々人の資産の格差が移民先に持ち込まれてしまう。ある程度は止むをえないとは思うが、新生活のスタート時点での格差が極端だと困る。


 アルゼ帝国とも今後交易が始まる可能性もある。交易そのものは初めのうちは物々交換となるだろうが、何か価値を計る共通の尺度としての通貨があると、不均衡が生じたとしても為替の調節だけで是正が済むだろうから新通貨を造ろう。バイオノイドたちにも給与というものを支払ってみるか。こちらの方は士気が常時100パーセントのバイオノイドだ。士気モラールの維持という意味はないのだろうが、なにか、自分のために消費することを覚えてもらうことも、アギラカナ人として大切なことだろう。


 あと必要なのは、教育と医療か。医療はまず問題ないな。


 移民の中には、若年者もそれなりの人数がいるだろうから、教育については平和教育を除いて日本に準拠か。まあ、最初の内は日本の教育関連の企業とタイアップしてオンライン授業などでもいいかも知れないな。


 いまのところ税金を移民から徴収する必要は全くないが、国民皆兵のバイオノイド並みとは言わないまでも、人頭税的な意味合いも持たせて、なんらかの国家に対する義務は負ってもらおうと思う。数年の兵役義務を課すか。


 義務教育は六歳から一八歳までとして、そのあと一八歳から二十一歳までの三年程度の兵役義務は体を鍛える意味でもちょうどいいだろう。すでに兵役年限を過ぎている者については、それ相応の社会奉仕を義務付けよう。兵役を終えて初めて高等教育である大学に進めるようにしようか。移民募集要項に書いておけば応募者が激減するだろうが、義務を果たす気が一切ないような者に来ていただきたくはない。


 いずれの教育機関や軍務での教官はバイオノイドになるのだから、いじめなども起きにくいだろうし。なかなかいいんじゃないか。




 受け入れた移民の中には、そういった生活になじめない者や不満の声を上げる者が必ず出るだろうからそういった者はすぐに本国、今回は日本に送り帰すことになる。


 募集要項の中に問題があれば送還するむねちゃんと記載して、ある程度の日本円を持たせて帰してやれば問題ないだろう。送り帰すにあたって日本国籍を離脱していると問題なので、十年間はお試し期間と言うことにして、日本国籍を持ったままで長期滞在扱いにしておいた方がいいか。送り帰した人間が日本で肩身の狭い思いをしないよう、一条の持つ企業群で雇ってもらうのも悪くない。一条の企業群を一種のセーフティーネットとして使わせてもらおう。


 移民の中には、当然各国のスパイも潜り込んでくるだろうが、アギラカナにいる分には悪さが出来るとは思えないので大丈夫だろう。コアに侵入することは不可能なのだから特に秘密にすることはなにもない。外周部でいくら情報を集めて本国に送ってもらっても移民の宣伝になるだけなので、逆に来てもらった方がいいかもしれない。


 受け入れの決まった移民の健康については、日本各地に受け入れ用の施設を作ってそこで検診と治療を行った上で宇宙船に乗せてアギラカナに来てもらうようにしよう。それだけでも移民希望者が多数集まってしまう可能性があるか。受け入れ施設は東京・名古屋・大阪・福岡・札幌の五カ所もあればいいな。


 うーん。……、そうだ。……、


 不謹慎ではあるが、ゲーム感覚でいろいろ考えをめぐらしていくうちに楽しくなってきた。



「艦長、コーヒーをお持ちしました。どうしました? なんだかご機嫌のようですが?」


 マリアがコーヒーをいれて持って来てくれた。どうも、俺の顔になにやら出ていたらしい。


「ありがとう。マリアは移民のことはどう思う?」


「そうですね。移民の方々の数が百億程度までなら、中間層の空いている場所にそれ(・・)用のプラントを増設するだけで、何の問題もなくアギラカナで養っていけると思います」


「それは、移民の連中は仕事をしなくていいという意味かい?」


「はい。衣食住は全てアギラカナが無償で提供できますので、特に労働は必要ないかと思います」


「それだと、朝から寝るまで何もせず、ただ食べて、寝ての生活になってしまう。それだと人間がダメになってしまうぞ」


「そのあたりはよくわかりませんが、放っておけばなにがしかの仕事を始めるんじゃないでしょうか? 例えば、娯楽のためのコンテンツの制作とか、芸術的な作品の制作とか」


「素養のある人間だったらありそうだな。ある程度の規模の社会にはそういったものが必ず現れそうだ。まして、衣食住が保証されていればその比率はかなり高くなるだろうな。そういったものへの支援をある程度していけばそれなりのものが出来上がるかもしれないな。いや、それなりのものを作ってもらわないといけないか。

 そっちはその線でいいか。あと、俺は移民連中にはこのアギラカナに対する何らかの義務を負わせたいので、短期間の兵役を考えているんだがそれはどう思う?」


「体を鍛えるという意味では、いいかもしれませんが、兵士として役に立つのかというと、一般の地球人用に調整した身体強化用のナノマシンを投与したところで、全く役に立たないと思います」


「厳しい意見だけど、やっぱりそうだよな。しかし、ある程度のアギラカナに対する帰属意識も生まれると思うんだがな」


「どうでしょう。逆に厳しい訓練に音を上げて逆効果の可能性もあるかと思います」


「難しい問題だな」



ハイファン『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』

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― 新着の感想 ―
危機がくるのが自分が死んだあとになるからねぇ 種族に対する責務を自認自覚できる個体が今の(リアル)世界に、どれくらいいるだろうか 孫世代のために身を粉にする。 うーん。動機づけが最大の課題か。
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