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68.長閑(のどか)

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68.長閑(のどか)




 アルゼ側との会談も終わり、アギラカナはいったんハミラピラトラ星系外縁部まで移動し、そこで超空間に突入した。


 行き先は太陽系ではなく、以前のアギラカナが浮かんでいた太陽系から2光年ほど離れ、周囲に多くのハイパーレーンゲートが設けられている恒星間空間だ。


 アルゼとの交渉で、アルゼ領内へハイパーレーンゲートの建設まで考えたがお互い時期尚早(しょうそう)との意見で設置は見送られた。今後、交易などを行うのならば設置したほうが良いだろう。そのほかにはアルゼ側は、当方との技術的交流を望んでいたようだがこちらには何のメリットもない話のため予備交渉の段階でその考えは断念させている。



 超空間での五日間。外部との接触が絶たれるため、NETで遊ぶこともできず、非常に暇である。


 ここのところ、いつもの将官連中はみんな忙しいようで、長官室に現れないし、彼女たち以外だれも構ってくれる者もいないので、長官室の座席に座り、暇そうアピールをしながら、机の上のモニターに映し出した外周部の第八層、第九層で行われている地層作成工事を眺めていた。


 岩石が砕かれ地層を形成していく作業が延々と繰り返されているだけで、普通ならすぐ飽きてしまうような光景だし、遠目から見ると一辺数キロもある岩石でさえ小石に見え、迫力のかけらもない。さらに作業は遅々として、とても進捗(しんちょく)しているようには見えないため面白みはどこにもない。テラフォーミングの前段階である地表部分の造形が完了するにはこれから数百年を要するという話だ。


 それでも飽きもせず、その光景を見ていると、コーヒーを用意して運んできてくれたマリアが見かねたのか俺に話しかけてきた。


「艦長、コーヒーをれました、どうぞ」


 モニターから目を放し、マリアの方に向いてマグカップに入ったコーヒーを受け取る。一緒に出されたお茶菓子はコーヒーには合わなそうな、大福もちだった。それもヨモギの入った緑の大福だ。


「ほう、これもマリアが作ったのか? うまそうだ」


「ありがとうございます」


「どれ。……、うまいな。甘すぎないところがいい」


「練習したかいがありました」


「マリアは何でも上手にこなすな」


「失敗はかなりしていますが、人前ではそれを出さないだけです」


「隠れて努力してるわけだ。偉いな」


 すこし、マリアをおだててやると、顔を赤らめたマリアが話題を変え、


「艦長、ハミラピラトラ星系で入手した情報を分析した結果ですが、マルコ提督が、元帥位を得るようです。同時に5等爵から4等爵に陞爵するようです」


「うちに理解のある人間が、向こうで地位を得るのはいいことだな。あの国も、旧日本軍のように元帥位は名誉称号だったかな?」


「はい、軍での階級は大将のままです。正式には4等爵、宇宙軍大将、元帥アイーシャ・マルコという呼称になるようです」


「ずいぶん偉そうだな」


「艦長も何かそれらしい名称を考えますか? 大アギラカナ帝国始皇帝とか?」


「マリアも冗談がうまくなったじゃないか。よく始皇帝なんか知ってたな」


「はい、いま私のマイブームは料理の他にそのあたりの創作物を読むことなんです」


「趣味を持つことはいいことだ。他のバイオノイドの連中もいろいろ趣味を持ち始めているようで良かったよ」


「ありがとうございます。話を戻しますが、アルゼでは枢密院という皇帝直属機関で政府の方針が決定されるようなのですが、マルコ提督はその枢密院議員にも選任されるようです。これまで議員を務めていた二人の元帥が病気療養という名目で罷免されるようです」


「罷免というのは何かやらかしたってことか?」


「どうもその二人の元帥は、アギラカナに対して強硬意見を持っていたそうです。あの時期にアギラカナに対して妙な動きを高位の者がしてしまいますと帝国の致命傷になる可能性もありましたので、妥当な処遇ではないでしょうか。現在の枢密院の構成議員はマルコ提督をはじめ対アギラカナ穏健派が主流になっていると思われます」


「ずいぶん詳しいな」


「今回は、アギラカナがアーゼーンに接近した際、広範囲かつ高い確度の情報の取得を進めることができました。今後、陸戦隊の特殊戦部隊をアーゼーンに送り込めれば、同程度の情報の取得が継続的に可能になります」


「部隊を送り込むなら、早めに大使館を考えないといけないな」


「アーゼーンには複数の軌道エレベーターも設置されているようですから、地表に大使館を設置することにこだわらなくても問題ないと思います」


「それで?」


「一個雷撃戦隊を送り込み、旗艦の軽巡洋艦を大使館にしてもいいのではないでしょうか?」


「旅行者がいる訳でもないし、向こうとの連絡が速やかかつ、ワンクッション置くことが設置の理由だからそれでもいいか。ただ、軽巡クラスだと福利厚生設備もそろっていないし、アギラカナから人を上陸させないことが前提なら、もう少し設備の整った艦の方が良いんじゃないか?」


「それでは、軽巡の船殻を利用して、攻撃用兵装を取り外した専用艦を作りましょう」


「そのほうがいいな。すぐ建造できるのかな?」


「軽巡の船殻には余裕がありますから、数日で完成します」


「いつもながらすごいな」


「ありがとうございます」


「仕事の話はこんなところか、あと考えておかなくてはいけない案件はあったかな?」


「地球関連は問題ないようですし、今回の一連の作戦で消費した反物質、特に反中性子の備蓄を急ぐことと、探査機をアルゼ周辺にばら撒いていくことが必要ですが、どちらも順調ですので急を要する案件はいまのところないようです」


「それじゃあ、これから、ゆっくりしてもいいんだな。一条にアギラカナに連れていってやると先日約束したことだし、ジャンプアウトしたら、迎えをやるとするか。私邸周辺のサクラは終わってしまったが、庭の池の辺りのアヤメはそろそろじゃないか?」


「つぼみはだいぶ大きくなっていますので、ジャンプアウトして一週間ほどで満開になりそうです」


「そのあたりに一条の招待を合わせるとしよう」


「手配しておきます」


「頼んだ。少し早いが今日はこのあたりにして、私邸に戻って庭仕事でもするか」


「それでは私もお手伝いします」


「そうか、ありがとうな」




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