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41. 宇宙戦艦アギラカナ2

41.宇宙戦艦アギラカナ2




 もう何年も経つが、親父が亡くなる数日前、久しぶりに意識がはっきりした親父と交わした約束を思い出した。


「圭一、お前の会社に一条佐江と言う名前の子がいるだろう」


「良く知ってるな、去年、俺の下に配属されてきた子だ。その一条がどうした?」


「圭一、その子に何かあったら力になってやってくれ」


「何でだ?」


「大人の事情だ。察してくれ」


「良くはわからんが、親父の最期の頼みだ、引き受けた」


「頼む……」


 大人の事情が何なのかは想像するしかないが、俺も安請け合いをしたものだ。ただ、一条は自分の両親は既に他界していると言っていたことを思い出して、親父の最期の頼みだしできることはしてやろうと思っただけだ。




 重力スラスターを複数まとめ、ゼノを閉じ込め自滅させる重力井戸を効率よく作り出す重力装置とその引力に抗するためのカウンターの重力スラスターをまとめて、ゼノブラスターと名付け、軽巡以上の戦闘艦に取り付けることにした。能力に余裕のある大型艦には多数のゼノブラスターを取り付ける方針だ。ただ、カウンターの重力スラスターは、複数の重力井戸の位置をうまく調整すれば不要となるので、一考の余地はある。


 また、中性子星を重力崩壊させブラックホールにしてしまう装置をNSコラプサー(中性子星崩壊砲)と名付けた。砲とは言っているがもちろん砲身などはない。二十四基の巨大な重力スラスターとそれに関連するエネルギー装置、照準装置、制御装置からなる兵器システムだ。


 アギラカナには、NSコラプサー一式と、多数のゼノブラスターを取りつける作業の他、ジャンプドライブを取り付ける作業が行われている。作業が進められる間、往復二十四年間の時間を潰すため、映画やら、ドラマ、アニメなどのコンテンツを大量に購入した。もちろん食材もだ。食材は無酸素状態で冷凍保存するとかなりの長時間保存が可能らしい。まあ、無くなったら無くなったで、精密生体情報は主要動植物で揃っているので、簡単にアギラカナ内部で生産できるそうだ。




「一条、俺は明日から少し長く留守にするから、俺のいない間、アインと相談してうまくやって行ってくれ」


「わっかりましたー」


 いつもと同じように、一条が元気に返事を返した。頑張ってやっていってくれ。


「それと、先輩今までありがとうございました」


 そのまま、ぺこりと頭を下げた一条が七階に下りていった。アインにでも事情を聞いたのか。


 アインと秘書室の面々、工作艦、強襲揚陸艦AA-0001-ブレイザーには、太陽系に残ってもらうことにした。ブレイザーは当初、陸戦歩兵が一個大隊欠員だったが、今は完全充足四個大隊+八個小隊、増強一個連隊三千六百名の陸戦隊員が乗艦している。俺が四半世紀後に地球に帰ってきたら、一条が地球大統領になってるかも知れんな。アギラカナ不在時の日本への金属資源供給用に複数の大型輸送船も資源を満載して用意してあるのでこちらの方も問題ないだろう。




 往復二十四年か……




「ジャンプドライブ起動、目標4U 0142+61、最接近可能位置」


「目標4U 0142+61、最接近可能位置。ジャンプドライブ起動二十秒前、十九、十八、……、三、二、一、起動!」





 あれから、十二年。一言で言うと暇だった。それで俺はへたな小説を書きまくった。帰ったら俺は小説家になるんだ。ん? まずい、これはフラグか? それはないな。


 ペンネームはそうだな、山のふもとで遊んでいる人、山口遊子ヤマグチユウシ、なかなかいいペンネームだ。現アギラカナ代表の書いた小説だ、売れないわけがない。


 もう数分でアギラカナは目標位置に到達し、通常空間に復帰する。艦の外の超空間は観測不能だそうだ。俺はアギラカナの中央指令室の艦長席で状況を見守っている。通常空間に復帰すれば、そこはゼノの本拠地ともいえる場所だ。すぐに作戦が始まる。俺も流れに流されてとうとうここまで来てしまった。気を引き締めよう。


「閣下、作戦開始に際して、お言葉を」


 航宙軍アマンダ中将。今回の長期作戦でも俺の副官を務めてくれている。


「諸君、この十二年間よく耐えてくれた。これからが正念場だ。作戦を成功させてゼノの禍根かこんを断とう」



「アギラカナ、通常空間に復帰します。……、十、九、八、……、二、一、今!」


 灰色だったスクリーンに、青白く光り輝く中性子星4U 0142+61が映し出された。


「……アギラカナ、全艦正常」「4U 0142+61までの距離、0.5AUです」


 通常空間に復帰後、地球に残ったアインと短い超空間通信を交わし、互いに異常のないことを確認した。





 スクリーンには主星の超新星爆発で、過去存在した伴星からいったんは吹き飛んだガスや砕け散った惑星の残骸が渦を巻きながら青白い中性子星に引き寄せられていく。


 形のあるものは直径20キロの中性子星に接近するにつれ、その大重力により砕かれ最終的にはプラズマガスになっていくのだが、以前観測機からもたらされた映像そのままに、プラズマガスが徐々に凝縮していき一つの形が作られてゼノが発生した。生まれたばかりのゼノは、徐々に加速しながら中性子星から離れていき前方に待つゼノの集団に溶け込んでいく。そのようなゼノが中性子星のいたるとこらから湧き出てきている。



 ゼノを排除しつつ中性子星に接近し、NSコラプサーにより、中性子星4U 0142+61をブラックホールまで重力崩壊させ、速やかに撤退することが今回の作戦の流れだ。ゼノの撃破が目的ではないことと、速やかに撤退する必要があるため攻撃機隊は出さず、アギラカナとゼノブラスター搭載可能な軽巡以上の戦闘艦で作戦を進めることとした。


 超空間を航行した十二年間でかなり戦力を増強できた。


 機雷艦   72

 軽巡洋艦  42(ゼノブラスター4基装備、正4面体の頂点数)

 重巡洋艦  36(ゼノブラスター12基装備、正20面体の頂点数)

 特型重巡洋艦 4(ゼノブラスター20基装備、正12面体の頂点数)


 および、宇宙戦艦アギラカナ(ゼノブラスター多数+NSコラプサー)



「アギラカナに接近するゼノを排除しつつ中性子星4U 0142+61に接近する」


「アギラカナ、前進微速」



「閣下、正面から向かって来るゼノはやはり硬そうですね」。航宙軍アマンダ中将、今回も俺の副官だ。


「最後の正念場ですから、なんとか踏ん張りましょう」


「アギラカナからの距離1AU内のゼノの総数七百二十万、なおも増加しつつ、接近中」



「全シャフト開放!」


 アギラカナには、船殻素材で装甲された1辺60キロの正六角柱状のシャフトが複数あり、外部と艦内に複数ある宇宙港をつないでいる。そのシャフトは、シャフト入り口およびシャフト内数カ所で、同じく船殻素材を用いた装甲板で塞がれていたが、その装甲板がたたまれシャフトが解放されていく。


「全機雷艦発進!」


 七十二隻の機雷艦がアギラカナから全周に放たれた。


 機雷艦に吸い付けられるように接近したゼノが対消滅弾の迎撃に会い閃光を放ち崩壊していく。アギラカナ周辺のゼノの密度が徐々に下がって行った。



「全艦、展開せよ。展開後は、速やかにゼノブラスター起動し、接近するゼノを排除せよ」




「全艦発艦完了しました。全シャフト閉鎖します」


「全シャフト閉鎖確認」


「全艦、ゼノを排除しつつ展開中」


 軽巡洋艦は艦の周りにゼノブラスターの重力井戸を正四面体の頂点となるよう四個展開し釣り合いを取っており、重巡洋艦では艦の回りに重力井戸を正二十面体の頂点となるよう十二個、特型重巡洋艦も艦の周りに重力井戸を正十二面体の頂点となるよう二十個展開している。


 各艦は、自艦の周りの重力井戸を複雑に回転させながら、さらに各艦ともゼノブラスターが互いに干渉しないようアギラカナの周囲を複雑な軌道を取りながら周回し、ゼノをからめとる。


 アギラカナ周辺の空間のいたるところで、ゼノブラスターに飲み込まれたゼノが閃光を放ちながら崩壊していく。ゼノブラスターの間隙かんげきを突いたゼノは、近接防御用対消滅弾の集中砲火を浴び崩壊していく。



「アギラカナ、全ゼノブラスター起動警告。起動五秒前、三、二、一、起動」


 アギラカナ周辺でゼノを排除中の艦船に対し、アギラカナが周囲に複数の重力井戸を展開する警告をおくった。


「アギラカナ、全ゼノブラスター起動しました」


 ゼノブラスターが作る重力井戸のレンズ効果で艦の全貌が揺らぐ。



 その間もアギラカナは中性子星に接近を続けている。そして、


「NSコラプサー射程内に4U 0142+61中心部を捕らえました」


「アギラカナ停止。中性子星との相対位置固定」


「アギラカナ停止。位置固定しました」


……


 こちらが沈む前に、NSコラプサーで中性子星を重力崩壊させることができれば勝利だ。アギラカナ、艦隊のみんな、踏ん張ってくれ。




……


 目の前のスクリーンには周辺が重力のレンズ効果でゆがんだ青白く輝く中性子星が輝いている。その光を受けて指令室の中は青白く見える。周囲の空間は、ゼノが重力井戸の中に取り込まれ崩壊するときに発する閃光で埋め尽くされている。


「機雷艦DM-0024信号停止、質量拡散確認。撃破されました」


「機雷艦DM-‥‥‥」


「……アギラカナより半径0.1AUのゼノの掃討完了。残存機雷艦27」


「軽巡LC-0024、質量拡散確認。爆沈しました」


……




 軽巡LC-0001-フーリンカ、指令室。艦長カブラ・ハイナンテ。


 指令室正面のスクリーンに守るべきアギラカナが映し出されている。中性子星からの青白い光を白色の船殻が反射しており、いつも以上に青白く輝くアギラカナのまわりでは、多数のゼノブラスターの作る重力井戸が渦を巻くようにその光をねじ曲げている。背景の宇宙空間では至る所で、ゼノの崩壊と思われる閃光がきらめいている。


 ドゴゴゴゴー!


 艦内に轟音が響き、艦が大きく揺れた。本来大きな音が発生することも、揺れることもない艦が大音響たてて揺れたと言うことは、重力制御装置が何基かいかれたのだろう。


「艦長、U2、U3区画の船殻接合部が破られました。周辺隔壁も破壊された模様です」


 正面スクリーンが切り替わり、LC-0001の船体図が映し出された。被害個所を表す赤い色が急速に広がっている。既に副指令室を示す個所は赤く点灯している。副長のアーサは先に逝ったようだ。


「ゼノブラスター二基機能停止。艦のジェネレーター機能低下、出力60パーセント。補助ジェネレーター起動‥‥‥現在出力75パーセント。徐々に低下しています」


「ゼノブラスター更に一基機能停止、作動中のゼノブラスター、カウンタースラスターの位置修正しました」


「ゼノ、上方二時方向より突っ込んできます」


「近接防御、ありったけの対消滅弾を撃ち込んでやれ」


 あと一撃同じ個所を抜かれると艦は沈む。頼む、撃ち落してくれ。ゼノブラスターが一基しかない状況ではいずれ艦は沈む。アギラカナ艦長専用艦として指定され、その後航宙軍で最初に個艦名フーリンカを得たこの艦が今回の戦いで名前に恥じない働きができたか心配だが悔いはない。


 被弾個所に突入間際のゼノの前面に無数の閃光が走り、ついにゼノの前面外殻が破壊され一気にゼノの崩壊が進む。その崩壊の閃光の中からもう一体、更に後方より数体のゼノが現れ、そのままLC-0001の先の被弾個所に吸い込まれていった。




「軽巡LC-0001-フーリンカ、ゼノの自爆攻撃集中しています。通信途絶しました」


「……軽巡LC-0001-フーリンカ、質量拡散確認。爆沈しました」


‥‥‥


「特型重巡HL-0001-インスパイア、大破」


「重巡HL-0004、大破」


‥‥‥


「NSコラプサー焦点、4U 0142+61中心部に設定」


「設定完了」


「NSコラプサー起動、カウンタースラスター起動」


「全NSコラプサー起動完了、カウンタースラスター起動完了」


「NSコラプサー、出力上昇。現在20パーセント、25パーセント……、100パーセント」


「4U 0142+61中心部、圧力上昇中。臨界まで50パーセント、55パーセント‥‥‥、4U 0142+61中心部圧力、重力崩壊圧力に到達。重力崩壊始まりました。現在のシュワルツシルト径0.2キロ、徐々に増大中」


「ゼノの発生、止まりました」


「シュワルツシルト径、3、6.5、12、……19、4U 0142+61の直径を超えます」


4U 0142+61が一度全周に閃光を発しそして、暗黒に飲み込まれていった。


 前方の、中性子星4U 0142+61が、事象の地平線に飲み込まれ、最後に残ったのは真っ黒い円盤が1つ。これまで、前面スクリーンは中性子星を捉えるため大幅に輝度を落としているため背景の星々は全く見えなかったのだが、中性子星の光が消えたことにより、背景の星々がレンズ効果で丸くゆがんで事象の地平線を囲んでいるように見える。周辺物質や逃げ遅れたゼノがプラズマ化して閃光を放ちながら事象の地平線に飲み込まれ最後には赤い光を放ちながら消えていく。




「作戦は成功した。損傷艦を優先し、全艦艇は速やかにアギラカナに撤収せよ」


「全シャフト開放……」


 軽巡洋艦、    残存28、喪失14

 重巡洋艦、    残存34(内大破8)、喪失2

 特型重巡洋艦、  残存4(内大破1)

 機雷艦、     残存6、喪失66


 今回の作戦で多くの艦、バイオノイドを失った。


「閣下、彼らは義務を果たしたまでです。気に病む必要はありません」


 そう言ったアマンダ中将に振り向く。


「閣下、ご存じかと思いますが、私と、エリス、ドーラ、フローリスは、第一期のバイオノイドです。アーセンからアギラカナが出航した時の初代クルーでした。多くの同胞がゼノと戦いこのアギラカナを守るためたおれていきました。生き残ったバイオノイドのうち多くはそのまま寿命が尽きていきましたが、われわれはアーセンがゼノに打ち勝つ未来を信じ休眠を選びました。そして閣下のおかげで、休眠から目覚めゼノに打ち勝つ未来を掴むことが出来ました。…感謝します。

 今日は閣下の私邸で祝勝会を盛大に行いましょう」



 作戦の成功を地球にいるアインに伝えた。「おめでとうございます」。と言ったアインの声がうわずっていた。


「……全艦アギラカナ内に収容確認しました」



「全シャフト閉鎖!」


「全シャフト閉鎖確認」


「アギラカナ、全艦正常」


「ジャンプドライブ起動、目標、太陽系外周部 地球より20AU」


「目標、太陽系外周部、地球より20AU。ジャンプドライブ起動二十秒前、一九、一八、‥‥‥、二、一、起動!」



【補足説明】

 バイオノイド

 多数のアーセン人の生体情報を組み合わせて求められる機能に最適化された生体ロボット。環境の変化に対応するため個体のバリエーションは非常に多く、冗長性を持たせている。アーセン憲章下で生産されたバイオノイドには生殖機能はないが、アギラカナ憲章下で生産されたバイオノイドには生殖機能が付与されている。義務の遂行に対して強い条件付けがなされている。個体の寿命は百三十年ほどあるが、機能が急激に低下し始める百歳ほどで自死を選ぶ者が多い。



コメディー『アギラカナ外伝、法蔵院麗華~無敵のお嬢さま~』

URL : https://ncode.syosetu.com/n4131fy/ よろしくお願いします。外伝は、時系列的には本編の30話の少し前くらいからスタートしたお話になります。


短編集『遊斎志異』

https://ncode.syosetu.com/n0032fy/ よろしくお願いします。



追記

 ちなみに、アギラカナのアルファベット表記はagi-rakanaです。

 マリアはセカンダリー・コアのアバターなので数十世代目のマリアです。アインはご想像にお任せします。

 予定では12年後にアギラカナは太陽系に登場します。その時、地球や日本はどうなっているでしょうか。こちらもご想像にお任せします。



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散っていったクルーの皆さん、おつかれさまでした どうか安らかに 祝勝会は微妙かなw 初回は慰労会くらいが良さげ 翌年以降祝勝記念式典とかが良いかもね
 山口遊子さん、こんにちは。  エピソード41まで、拝読致しました。  山田、いい奴だなぁと思ってたら。  まさかの作者様でしたか!  いやーヤラレタなー  ある程度読み進めてから感想書こうと思っ…
取り敢えずゼノの発生源を消滅させて勝利?
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