36. 閑話02 旅客宇宙船ASUCA
32話で星間生命体ゼノの質量を200万トンから400万トンとしていましたが、下限を100万トンに訂正します。申し訳ありません。
36. 閑話02 旅客宇宙船ASUCA
生物の生体情報読み取り用のドローンは、第一次の走査対象をある程度の大きさ以上の動植物に絞ることで、陸上一平方キロを平均三十分ほどで走査可能になったが、日本の陸地だけでも38万平方キロあるわけで、一機のドローンで七十六万時間。千機で七百六十時間、約一カ月かかる。
447万平方キロの日本の周りの海も含めると、四百日かかる計算だが、海は、水深分走査が必要なので陸地の五、六倍の時間がかかるかもしれない。こればかりにリソースを割くわけにもいかないので、千機上限で当面対応していこう。二次以降はより小型の生物を対象とするよう考えているがいつになるかはわからない。
一条は、月視察で味を占めたのか、今度は、宇宙船で太陽系クルーズがしたくなったようだ。しきりに勧めてくる。一条が今後視察するしないは別として面白そうではある。世界には二十万トンを超える客船もある。橋の高さの関係で超大型客船が着岸できない横浜港でも、宇宙船なら橋の下をくぐる必要もないので寄港可能だ。
世界有数の海運会社、商船日本に協力を依頼し、新たに株式会社ソーラー・クルーズを合弁で立ち上げた。アギラカナ51パーセント、商船日本49パーセントの出資比率である。名づけはもちろん一条だ。アギラカナが旅客用宇宙船を提供し、ソーラー・クルーズが旅客宇宙船として運営するわけだ。このソーラー・クルーズにアギラカナ側からも役員を派遣する必要があったが、まさか俺が役員になるわけにもいかず、俺以外の日本人アギラカナプロパーは一条しかいないので、代表取締役副社長として押し込んでやった。
51パーセントの出資比率をもつアギラカナから派遣されているため、一条は副社長ではあるが、社長を含む全役員の解任権を持っている。ただ、妙なハンコを押して日本の法律に引っかからないことを祈る。
一条は最初、社長に次ぐ役員報酬を全額返上すると言い出したのだが、意味もなく役員報酬を返上すると他の役員が役員報酬をもらいづらくなるので貰っておけと言ったところ、ニヘラと笑って、
「それじゃあ他の役員さんに悪いのでいただいておきます」
と返されてしまった。すでに、一条は平取ではあるが、ANL(全日本航空)の役員に名を連ねておりかなりの役員報酬を貰っている。
お金を何に使っているのか尋ねたところ、
「これだっていう日本株を買っとけば大儲けです。先輩みたいな素人なら儲けはそこそこですが日本株のインデックスファンドを買っとけば間違いなし」だそうだ。
株に投資しているらしい。仮に株ですっからかんになろうと、大使館で食、住は保証されているからいい気なものだ。後は、新たに『公認・アギラカナ御用達』というよくわからない商標を登録し、その使用料を徴収して、結構な金額を得ているようだ。一般公務員がそんなことをすれば、大問題になり、即、懲戒処分ものなのだろうが、一条はアギラカナの大使館勤務の公務員だ。ボスである俺がその程度のことは気にしていないので、問題は全くない。ただ一条の商才に驚いただけだ。
旅客宇宙船の運航には、入出港関連のため資格を持つ船長ほか数名を雇えばどうとでもなるが、クルーズ船の場合、月への往復便と違い訓練された客室係を多数用意する必要がある。商船日本にもクルーズ客船用の接客係に余裕がないようで、接客係の幹部クラスはなんとか都合してくれるそうだが、一般の客室係の派遣は難しいと言われた。
ここまで来たら、とことんやりましょうという一条の言葉に乗せられたのかもしれないが、宇宙での客室係を養成する専門学校を作ることになった。接客業のプロと呼ばれる多数の講師陣を揃え、六カ月間の地上教育期間の後、AMRで三カ月の実習訓練を終えると、本人の希望に沿う形でAMRかソーラー・クルーズに採用され配属される仕組みだ。
艤装まで完了した宇宙船をソーラー・クルーズに引き渡し、クルーズ用旅客宇宙船として大分県にある大神造船所内で内装工事を突貫作業で行っており、専門学校一期生の卒業するまでには竣工する予定である。
竣工後の名称は旅客宇宙船ASUCA。妙なアニメにはまってしまった一条が命名した。次に作る旅客宇宙船の名前も、既にSHIRLEYと決めているのだそうだ。専門学校一期生は全員そのASUCAに配属されることが決まっている。
こういった事情により、旅客宇宙船ASUCAの船籍は日本国で登録している。総トン数は50万トン。これは現在世界最大の大型クルーズ船の二倍以上の総トン数である。国土交通省の測度は免除された。
ASUCAの運航予定経路。
日本のいずれかの国際港から出航。
惑星位置により順序は前後するが水星(太陽)、金星、火星の内惑星をめぐり
火星、木星間のアステロイドベルトを突っ切り木星、土星の順に外惑星二つ廻ったのち、
最後に、AMRに寄港して、出港時とは違う日本の国際港に入港。
キャッチコピーは「九泊十日の豪華宇宙客船で行く、太陽系宙の旅」
もちろん、国別対日友好度を参照したチケット販売を行う予定である。
木星近傍の工作艦やハイパーレーンゲートはステルス機能により、可視波長を含め電磁波的観測は困難になっている。そのため、木星を周る宇宙客船からは視認されない。
【補足説明】
ステルス機能
ステルス機能と表記しているが、質量探知には効果がない。対光線兵器防御用としてアギラカナの宇宙船などは装備している。ゼノの発する中性子線には効果が薄い。
測度:船舶の寸法を実測しその容量を計算して総トン数とするようです。総トン数は船舶の登録に必要ということでした。詳しくはWEBで。
一隻目の旅客宇宙船の名前は、『収納士』のアスカの大昔の名前です。豪華客船の飛鳥とは無縁です。二隻目は同じく『収納士』に登場するシャーリーですね。
一条はあれよあれよとVIPの階段を駆け上がっていきます。そのうち世界で最も影響力のある百人に選ばれるかもしれません。
大分県にある大神造船所は、旧海軍工廠っぽいですね。造船所はどこでもよかったんで、大神の名前を出してみました。超大和型実現してほしかったです。




