33. 緊急会議
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33. 緊急会議
光速の15パーセントの速度を維持したまま降り注ぐゼノにより、イプシロンIaが閃光を発しながら崩壊して行く。惑星から舞い上がった巨大な破片は小惑星となり惑星をめぐるリングを形成しつつある。すべてのゼノがイプシロンIaに激突し終わった後に残ったものはリングをまとい白熱した光球のイプシロンIaの姿だった。その間、ゼノの活動停止に伴う高強度中性子線は観測されていない。
イプシロンIaから8天文単位(AU)離れた位置から惑星が崩壊する様子を観測する探査艦EP-0011の指令室。指令室内の探査部員は声も立てず、中央スクリーンに映し出される惑星の死を見守っている。
艦長ライナ・フランテは考える。
これがゼノの繁殖行動なのか? 一つの星があっという間に崩壊してしまった。繁殖を終え、いつゼノが活動を再開するのか見守る必要がある。何にしても、迅速な対応をするためには、当艦の資材を利用し早急にハイパーレーンゲートを建設する必要がある。建設だけなら工作艦をアギラカナから派遣してもらえば早いのだが、この星系に最も近いハイパーレーンゲートのあるイプシロンⅡは3光年先だ。そこからこの星系まで10年かかる。当艦の資材だけでは小型のハイパーレーンゲートしかできないが工作艦が通れる大きさなら、何とでもなる。やるしかない。
「イプシロンIaに観測衛星を射出」
「本艦は、外惑星イプシロンIbに再び進出し、小型ハイパーレーンゲートを建設する」
――イプシロンIaに観測衛星を四基射出。……完了。
――……EP-0011、小型ハイパーレーンゲートを建設開始します。
一条が月の露天風呂風大浴場で頭上の半月状の青い地球を見上げながらぼーとしていたころ。
重大な問題が発生したため幹部による緊急会議を行いたいとコアのアバター、マリアさんから緊急通信が入り俺はLC-0001-フーリンカに乗って急いでアギラカナに戻った。今回俺に同行したのはアイン一人だ。
アギラカナコア内、艦長公室に隣接する作戦会議室。
ゼノ発見の報告を受け招集された作戦会議だ。アギラカナ艦長である俺のほかの参加者は、管理AI、コアを代表するマリアさん。航宙軍アマンダ中将、探査部ドーラ少将、兵站部フローリス少将の三人の宇宙軍揮下の各部門トップと俺の秘書のアインの五名。俺は正式な会議と言うことなので、襟の三個の金ボタンを付けた大将服を着ている。今日の俺の肩書はアギラカナ宇宙軍司令長官だ。
アイン以外の五人は既に会議室で俺を待っており、俺が部屋に入ると全員が席を立ち上がり、
「司令長官閣下に敬礼!」
アマンダ中将の掛け声で、三人の高級将官が例の敬礼をするので、恥ずかしながら俺も答礼した。もう、そういうのいいから。マリアさんは軍属扱いなので俺に敬礼する必要はない。
「……ここまでが、探査艦EP-0011からの報告です。現在探査艦EP-0011はエリダヌス座イプシロンIaの観測を継続しつつガス巨星であるイプシロンIb近傍で小型のハイパーレーンゲートを建設中です。何分工作艦でない探査艦のため完成目途は今のところ不明ですが一年以内には完成させると報告を受けています」
探査部のドーラ少将が光球と化した惑星を映し出したスクリーンの前で説明を終えた。
ハイパーレーンゲートの話が出たので、それを受けた兵站部のフローリス少将が、
「この探査艦による小型ハイパーレーンゲートが完成し次第、こちら側に対になるハイパーレーンゲートを建造し、速やかに工作艦を送り込む予定です」
その発言に俺は頷き、
「ゼノの再活動時期がわからないかな?」
誰にともなく尋ねるとマリアさんが答えてくれた。
「正確な再活動時期は分かりませんが、記録にある通りなら二年は活動を再開しないとみてよいでしょう。
活動再開後の個体数はイプシロンIaの重金属元素の推定賦存量から、おそらく四倍の三百万程度に増加すると思われます。
探査艦EP-0011の精密調査前でしたので正確な予測は出来ません。活動を再開したゼノは、おそらくイプシロンI星系に最も近いイプシロンⅡ星系に移動すると思われます」
「今回のゼノ以外にゼノがどこかに潜んでいる可能性は有りませんか?」
「可能性は大いにあります。恒星間空間の索敵が必要です。索敵だけですから無人探査機で十分です」
「索敵についてはそれで頼みます。あと、惑星の中に潜り込んでいるいまの状態のゼノを攻撃する手段はありませんか?」
「ゼノが潜り込んでいる惑星自体が邪魔で、超大型の対消滅弾を撃ち込むことで惑星自体は吹き飛ばせてもゼノに対する効果は限定的です。通常弾での攻撃ですと、溶融して液化してしまっている現在の惑星がさらに熱くなるだけで効果はないと思います」
「いま攻撃できないということは、ゼノの活動再開を待ちつつ、我々は戦力を強化していくということですね。前に聞いた話だと、有人攻撃機とゼノのキルレシオが30対1、無人だと10対1でしたか」
みんなが頷く。
「それと、有人攻撃機一機に対して六機の無人攻撃機が随伴出来るとも聞いています。言い方を変えれば、無人攻撃機をフルに随伴させた攻撃機一単位のキルレシオは90対1と考えていいわけですね?」
航宙軍のアマンダ中将の方を向いて尋ねと。
「いいえ、先ほどのキルレシオですが、対ゼノ戦闘の戦闘方式が確立されていないゼノ戦争最初期のものです。説明は省きますが正規の攻撃機パイロットが上限である随伴無人攻撃機六機で出撃した場合、おそらく今の数字の90対1が150対1以上になるかと思います」
「そうなんですか」
頷くアマンダ中将。
『三百万のゼノの撃破には、その百五十分の一、二万の有人攻撃機と十二万の無人攻撃機があればいいということか。しかし、それだと三百万のゼノは全滅できるけど、こちらも全滅してしまう。
戦力比を少なくともゼノの二倍以上に出来なければまずいんじゃないか? 消耗を極力避けるためには五倍は欲しい。五倍なら十万の攻撃機単位か。宇宙生物相手にランチェスターの法則が効くかはわからないけど、だいぶこちらの消耗は防げるはずだ』
何にせよ、今回の対ゼノ作戦のかなめは攻撃機のようだ。
今回のかなめの攻撃機隊の整備可能性について兵站部のフローリス少将に確認しなくてはいけない。
「フローリス少将、二年後に有人攻撃機を十万程度揃えられそうですか?」
「攻撃機には装甲を施しませんから、機数については全く問題ありません。ただ、パイロットをどれだけ増やせるかということですが、十万までなら何とかいけると思います」
「有人機に随伴する無人機の数は増やせませんか?」
「パイロットが無人機を指揮管制できる機数は今の六機で限界ですが、無人機の自律性を高めて何とか対処出来れば数を増やせると思います。総合的パフォーマンスがどの程度上昇するかは不明です。しかし初撃の打撃力は確実に上がります」
それはそうか、パイロットは随伴六機で戦闘力が最大になるよう最適化されているんだろうからな。初撃は撃ちっぱなしのミサイルを撃つなら数が多く撃てる方がいいし、そこに連携はさほど関係ないしな。
「戦力強化に繋がる可能性のあることはやって行きましょう。あとは今作ってるハイパーレーンゲートが出来たら、工作船を送り込んで本格的なゲートを作るんですよね? ゼノの侵攻するだろうイプシロンⅡの方向の反対側に複数ゲートを用意したらどうですか? ゼノは前面以外はそんなに堅くはないということですし、うまくすればゼノの後方から一気に攻撃できそうです。昔は守るべき惑星を抱えた状況で撤退は難しかったかもしれませんが、今度はこちらが攻撃側で負けそうならいつでも撤退できます。人的消耗は極力避けましょう」
その後も会議は続き、以下の結論を得た。
無人探査機を大量に生産し、恒星間空間を移動中のゼノを早期に発見するため広範囲に索敵する。
索敵後は監視ステーションを恒星同士を結ぶ線上に置き警戒システムを構築する。
パイロットの確保。(休眠中のパイロットを早期に休眠解除し訓練を開始する。これから製造するバイオノイドはパイロット枠を大幅に増やす。ただし、新造バイオノイドについては今回の作戦には間に合わない)
攻撃機パイロットの能力は既に限界なため、随伴無人攻撃機の自律性能を強化し有人攻撃機に随伴可能な無人攻撃機の数を増やす。また攻撃機の継戦能力も高める。
反物質、特に対ゼノを念頭に反中性子の備蓄を増やす。
エリダヌス座イプシロンI星系にハイパーレーンゲートを複数個設置する。
対消滅弾、対消滅誘導弾を満載にした無人のおとり艦をイプシロンIa周辺に設置し、自艦が破壊されるまで、惑星から飛び立った直後で加速前のゼノを片端から撃ち落とす。
以上をこれからの目標とすることとし会議を終えた。今回のゼノとの戦いは何とかなりそうだ。会議に出席した面々も心配そうな顔をしたものは一人もいなかった。
会議の後、少し考えたのだが、
どうしてゼノは宇宙船を襲うのか? 奴らが宇宙船を襲う理由が分からない。繁殖のために惑星が必要ならいくらでも宇宙に浮かんでるだろうに。もしかして、超質量の船殻を狙ってるんじゃないか? 奴らにとって、狩りたくなるようなおいしい獲物なんじゃないか?
【補足説明】
正規の攻撃機パイロット
パイロットとして製造、訓練されたバイオノイド。並列思考能力を付与された上、空間把握能力も大幅に強化されている。随伴機を有機的に運用出来る。ゼノ戦争後半は、正規の攻撃機パイロットが払底したため、ほとんどの有人攻撃機は、定数を大きく下回る無人攻撃機しか随伴させることができなかった。そのため被撃破率が大きく上昇した。また、惑星防衛戦が主体であったため、ゼノの衝突による惑星崩壊後、ほとんどの攻撃機は対消滅弾を消費し尽くすまで戦った末、自爆攻撃を敢行し消耗した。
船殻
中性子過多の超高密度物質で出来ている。形成後の加工は不可能。反中性子による対消滅反応でしか直接破壊は出来ない。船殻を有する艦船が対消滅反応以外で撃破されるのは、船殻同士の接合部や外部との接続用に開けられたスリットなどに攻撃を受けた場合だけである。超質量のため、船殻を有する艦船は加速に質量の影響を受けない重力スラスターを用い航行する。
重力スラスター
推進体(艦船や攻撃機)の進行方向に重力の井戸を作り出し、その井戸の中に推進体が落下し続けることで推進力を得る。加速に推進体の質量は影響しない、推進剤を必要としない、推進体の向きに影響を受けないなどの利点が大きいが立ち上がりが遅いため急な機動には向かない。他の推進体との干渉を避けるため、重力井戸は推進体のごく近くまたは内部に発生させる必要がある。光速の30パーセント程度まで加速可能。
プラズマスラスター
推進剤をプラズマ化し高速で噴出することで推進力を得る。低質量の宇宙船の機動力確保のため使用される。機動性が必要な攻撃機は重力スラスターとプラズマスラスターを併用している。
攻撃機
船殻を持たないため防御力は低い。その半面重力スラスターとプラズマスラスターを併用し高速機動が可能。推進剤を使い果たすと機動性は極端に低下する。主な攻撃手段は小型対消滅誘導弾と対消滅弾および光線兵器。反物質を燃料とする小型大出力の対消滅型ジェネレーターのみからエネルギーを得る。陸戦隊で使用する大気圏内作戦可能機、水中作戦可能機は、大気圏内や水圏内では、プラズマスラスターの使用は危険であるため、ラダーを併用しつつ吸入した流体を高速で噴出するなどして機動する。
宣伝です。
短編童話『赤い花』
URL: https://ncode.syosetu.com/n8830fx/ 「冬の童話祭2020」非参加作品です。
さらに
短編童話『かちかちやまifルート(ウサギがタヌキにとどめを刺さなかった場合)』
URL: https://ncode.syosetu.com/n8930fx/ よろしくお願いします。「冬の童話祭2020」参加作品です。
さらにさらに
短編童話『悲しいワニガメ』
URL: https://ncode.syosetu.com/n9070fx/ これも「冬の童話祭2020」非参加作品です。よろしくお願いします。
 




