28. 宇宙港
28. 宇宙港
日本政府の各省庁から派遣された五名も七階のオフィスに慣れたころ。
七階のオフィスは、だだっ広いフロアーに一条も含めた六個のビジネス机だけが並んで置いてある状況でスタートした。あまりにも広いフロアーにぽつんと島がある状況で、落ち着かないと一条が言うものだから、衝立で囲うようにしてやった。机の一群の他に七階にあるのは簡単な食堂と休憩所、トイレくらいなので一条の言っていることは理解できる。
初めのうちは商社からでも人を引っ張って来ようと考えていたので無駄に広いスペースが余っているわけだ。今のこのスタッフでうまく回っているようなので人員増については具体的には動いていない。必要なら一条あたりから何か言ってくるだろう。
「先輩。これから私は、先輩のことをどう呼べばいいですか? やっぱり山田代表とかですか?」
「外では代表だな。ここの中なら好きに呼べばいい。だからって『おい、圭一!』はダメだぞ」
「それも面白そうですが、今まで通り、先輩で」
こういった会話があったため、一条は、今まで通り俺のことを先輩と呼ぶ。
今は、八階の執務室。
「先輩、少しいいですか?」
隣の席に座る一条が話しかけてきたので、頷いた。
「下のみんなで雑談してた時の話なんですが、みんなアギラカナの中が見たいって言ってるんですよね」
「中が見たいっていうのは、行ってみたいっていうことかい?」
「ええ、あのお空に浮かんでる宇宙船に乗ってみたいって言ってるんですよ。私もですけど」
「うん? ひょっとして、お前たちはあの船がアギラカナと思ってるのか?」
「だって、宇宙船国家なんでしょ。違うんですか?」
「あれは大きいけど、ただの宇宙船だぞ。下の階にいる全員あれをアギラカナと思ってるのか?」
頷く一条。
そういえば、しょっぱなにAA-0001を背景にして、テレビに出たもんな。みんな勘違いしてんのか。日本政府からの出向者もみんなそう思ってるのなら、日本政府の認識も国民の認識もそうなんだろう。
とはいっても、上の揚陸艦一隻であれほど世界をビビらせた後で、いまさらアギラカナの全貌なんて紹介できないぞ。
「そういえば、アインさんたちみんな、先輩のこと、代表じゃなくて艦長って呼んでますよね。どうしてなんですか?」
それもあるか、
「アギラカナというのは、お前の言う通り宇宙船なんだ。その艦長が俺なわけだ。船長でなく艦長なのは、アギラカナは武装した軍艦だからだな。今、上に浮かんでるのは、強襲揚陸艦という軍艦で、アギラカナはあんなのと比べても格段に大きい宇宙船だ」
今の説明ですら信じてなさそうな顔だ。アギラカナが地球よりも大きい宇宙船だとはとても言えない。
「艦長。アギラカナを紹介して、地球の皆さんをこれ以上威嚇しても良い影響はなさそうですから、このままAA-0001を当面アギラカナと思ってもらうことにしてはどうですか?」
「そうするか」
「作戦行動中の軍艦に一般人を乗せる訳にもいきませんし、アギラカナを見たいというのは単純な好奇心からでしょうから、何か好奇心を満たせるような適当な施設を作ってみてはどうでしょう」
執務室の連中が集まって議論が始まった。
「その施設とは、例えばどんなもんだ?」
「日本の皆さんが喜ぶようなアミューズメントパークとかどうでしょう」
「面白そうだが、それだと手間がかかりそうだし、ノウハウが全くないぞ」
「それでは単純に、月にでも宿泊施設を作ってはどうでしょう。月の上から地球をただ眺めるだけでも喜ばれると思います。この大使館と同じように適当な宇宙船を流用した施設を作って月に置くだけですから簡単でしょうし、平和的な月利用ですからどこからも文句は出ないでしょう」
「そいつはよさそうだな。ということは、月ツアー用の空港というか、宇宙港というか、そういったものを作る必要があるな。宇宙港の周りも発展するだろうし」
「先輩、私たち月に行けるようになるんですか?」
「ああ、もうすぐな。月ツアーを計画している海の向こうの会社には悪いが、こっちが先に月ツアーを始めてやろう。国交省あたりから出向してきてたのが一条のところにだれかいただろう。一条は、そいつに、うちが宇宙港を作って月ツアーを始めたいからと言って日本政府との調整を頼んでくれ」
そのあと、ああでもないこうでもないと一条を挟んで議論だか雑談だかが始まった。一条もみんなと馴染むのが早いやつだ。
みんなの話を聞きながら考えたのだが、
宇宙港の建設場所などは、日本政府の意向次第だが、俺の考えだと成田のあたりなら交通の便は関東近辺からだとそうでもないが、飛行機が使えるところからとなるとそれほど悪くはないだろうし、今の空港設備も流用できるうえに土地もありそうだからどうだろうか。
翼のない飛行機型の宇宙船を作れば、そのまま空港が使えるじゃないか。乗客を乗せたら邪魔にならないとこまでタキシングしてそこから真上に離陸するだけだ。そうすると、成田にこだわらなくてもパスポート管理のできる国際空港ならどこでもいいのか。
「こういうのはどうだ。……」
みんなも、それなら簡単だしすぐに対応できるというので、
「一条、この案を日本政府に伝えるよう手配してくれ。
アインたちは、日本政府から了解が取れたら、翼を取った旅客機型の宇宙船と月での宿泊施設の製作の方を頼む」




