25. お帰りシステム
サブタイトルは適当です。
25. お帰りシステム
敷地内の安全確認が終わり、午前七時、上空より核融合発電プラントの時と同じく二隻の一般作業艇が降下し、土木用ナノボットを大使館建設予定地に散布し始めた。
散布された土木用ナノボットは記憶した作業プログラムに従い、大使館ビルの地下部分に相当する場所を浸食し始め真下に向かって穴を作っていった。さらに、土壁が崩れないよう、取り込んだ物質で擁壁を作りながら浸食を進め、最終的に底面の床を形成して作業を終え自壊した。不要な土砂と湧水は作業艇で回収している。作業艇が、地上と上空のAA-0001のあいだを何回か往復し、最後の不要物を積み込んで上空に昇って行って見えなくなってしまった。
警察によって黄色い封鎖テープが張られた立ち入り禁止区域の外から何かあったのかと足を止めていた通行人が、最初二隻の宇宙船(一般作業艇)が降下して来たことに驚き、この空き地がアギラカナの大使館用にと東京都から政府が買い上げた土地だったことを思い出した。
その空に浮かんだ宇宙船が何かを散布したと思ったら、封鎖テープの先の空き地に発泡スチロールを火であぶったような感じで、大きな穴が二つあき始めた。見守る人たちが早送りの特撮じみた変化に見とれていると、今度は上空から大きな物体がゆっくりと下りて来た。その物体がいまあいた穴の中にすっぽりはまり、濃いグレーのスモークガラスが全面に張られたように見えるビルが目の前に建っていた。
そのころには、周囲に人だかりができ始め、そこらじゅうでスマホを構える人が動画を撮ったり写真を撮ったりしていた。
そういった人たちは、アギラカナの驚異の技術を目の当たりにして先日国交を持ったばかりの宇宙船国家の実力をある意味恐れるのだったが、自分たちはこれから世界が急激に変化していく、その現場に立ち会っているのだと実感し身震いするのだった。
俺は、現場の状況を、いつものようにAA-0001の仮執務室の机の上に置いたモニターで眺めていた。
核融合発電プラントの時も、整地して排水溝を作った程度の作業だったし、今回もビルの形をした宇宙船を土台の上に着陸させただけなので、作業といえば穴を掘ってその穴を補強しただけ。安心して見ていることが出来た。
大使館が設置された後、間を置かず物流ターミナルの方の設置も終わってしまった。実にあっけない建設工事となってしまった。
午前九時には作業は終了したのだが、大使館建設場所を挟む隅田川からの運河の対岸に集まった見物人はその場を動かず大使館を見守っていた。
出来上がった大使館ビルは、実質宇宙船なので内部構造も宇宙船そのものになっている。完全に外部と遮断されても、空気と水は循環再生し、エネルギーは数十年単位で自給できる。食料については、一般のバイオノイドが口にするチューブに入った栄養食のみではあるがこれも循環再生され自給できる。食料の循環再生の意味はご想像の通りである。
エネルギーについては、軍艦の場合は短時間で高出力が必要なため反物質を燃料とした対消滅型ジェネレーターと主に水素を燃料とした多段式核融合ジェネレーターを併用で使うそうだが、今回の大使館では、高出力の必要な高速時の機動力は当然だが必要ないため、水も燃料として利用できる多段式核融合ジェネレーターのみが採用されている。
そのころ、尖閣周辺空域。
「こちら、P1-〇〇19、鹿屋基地応答願います」
『こちら鹿屋』
「指定空域に到着しました。これより哨戒任務にあたります」
『鹿屋、了解』
「機長、やっぱりいますね。大陸中国の海警ですかね? SS-3(非音響対潜員)何隻いるか分かるか?」
「レーダーですと、十二隻です」
「この状況で、ここまで出張ってくるとは、連中、アギラカナが怖くないのかねー」
「とりあえず、様子見に来たんでしょうね」
「機長、真下にいるみたいです。039A型です」 SS-1(音響対潜員)が下に潜む潜水艦を発見した。
「今度は潜水艦か? 海警の船がどうなるのか確認に来たんだろうな」
「そろそろ、あいつら、尖閣の領海に侵入するぞ。海保に連絡頼む」
『こちらタコ(戦術航空士)、下方に見える船舶集団を大陸中国海警と確認。10分後に領海に侵入すると思われます。潜水艦は039A型に間違いありません。潜望鏡深度で停止しています』
「こちら、P1-〇〇19、鹿屋基地応答願います」
『こちら鹿屋』
「大陸中国海警と思われる船舶集団と潜水艦一隻を尖閣領海付近で発見。警告のため船舶集団に接近する」
『鹿屋、了解。…〇〇19少し待て。いま、「こんごう」より連絡があった。尖閣上空100キロに宇宙船と思われる飛翔体を発見したそうだ。おそらくアギラカナだ。目標から離れて旋回して別命を待て』
「P1-〇〇19、了解」
「アギラカナが俺たちの上にいるそうだ。旋回して様子を見る。記録を忘れるなよ」
「機長、最近の大陸中国の漁船は、空を飛ぶんですかね? 仲良く空を飛んで行っちゃいましたね」
「上のアギラカナが何かしたんだろうな。お気の毒なことだ。それで、下の潜水艦はどうなった?」
「急速潜航後、進路を南西にとったようです。パッシブからじきに外れます。ソノブイ撃ちますか?」
「いや、もったいない。記録は取ったんだろ? すぐに鹿屋に送ってくれ。哨戒続けるぞ」
「あの空飛ぶ漁船たちはどこへ行くんすかね?」
「さあな、出て来た港に戻るんじゃないか」
AA-0001内の仮執務室。
「少し休憩しよう。お茶を頼む」
大使館の建設というか、設置も終わり、俺は仮執務室で〇レンディーの入ったマグカップを片手に寛ぎながら、机のモニターでニュースを見ている。
「こちらは、今日の気になるニュースです。複数の小型の船舶がなんと空を飛んでいたというもので、台湾海峡を航行中の複数の船舶が空飛ぶ船を目撃したようです。こちらが、インターネットで公開された映像です。きれいに並んで飛んでますねー。……
そして、こちらの写真もインターネットからですが、大陸中国沿岸の漁港からのものです。岸壁の上にきれいに並んだ漁船が空を飛んでいた漁船ではないかといわれていますが確認はされていません。私には空を飛んでいた船と見た目は同じに見えますがいかがでしょうか? ……」
船べりに出てた人間はいなかったと思うが、吹き曝しで上空1000メートルを時速250キロで飛ぶのは怖いと思うぞ。乗組員にはかわいそうなことをしたが、難儀な国に住んでいたと思って諦めてくれ。
「今回、対象が十二の牽引ビームで吊り上げましたが、数が多くなると一般作業艇では、処理能力が不足します。今現在も日本海側のEEZに多数の漁船が接近しているようなので早めに専用の作業艇を工作艦に作らせましょう。四隻ほどあれば十分と思います。戦闘用ではありませんから、短時間で建造できると思います」
「それじゃあ頼む。今回みたいに入ってきたら元の港の岸壁の上に丁寧に置いてやってくれ」
日本海から南シナ海にかけて存在する船舶は全て監視対象としている。どこから出航しようと分け隔てなく元の港にお帰りいただくことができる親切システムを船舶が発するAIS(自動船舶識別装置)情報と組み合わせて構築してもらった。AISもつけずに航路を外れて日本のEEZや領海に侵入した船舶がお帰りシステムの対象となる。
P1のクルー配置が分からなかったため、搭乗員数がP1と同じP3Cと同じと仮定しています。 哨戒飛行はこんな感じかなと想像で書きました。
「上空1000メートルを時速250キロで飛ぶ」 は完結しましたが『収納士』 の宣伝です。 あちらを読んでいらっしゃる方だと分かると思います。




