21. 片務的防衛義務宣言
ご指摘を頂き、前話で発電出力の単位をKWhと書きましたがkWに直しました。 KWhは電力量の単位でした。
21. 片務的防衛義務宣言
日本政府から誠意ある回答をもらうことができ、今回の交渉は力ずくではあるが大成功に終わった。日本国民に対してもアギラカナに好印象を抱いてもらえたと思う。
俺は日本国以外と国交を結ぶ気がないのだが、そうすると、いろいろな意味で宝の山であるアギラカナと唯一国交を結ぶ日本国が、国際社会において孤立する可能性が出てくる。そういったことが起こらないよう各国に対し、釘を刺しておく必要がある。
アギラカナとしては、除染作業の次は原発跡地の再開発と大使館設立だ。
無償同様の円借款も1兆円も用意してもらったので、友好のためにも、この金は日本企業に還元する必要がある。
原発跡地の短時間での開発は、アギラカナにしかできないのでどうしようもないが、大使館の方は日本の建設会社を使うことでお金を落としたいところだ。しかしこちらも残念なことに、工期が一年近くかかりそうなので、こちらで本体部分を建設することとした。少々の時間がかかっても問題のない、大使館の周りの外構の工事あたりは外注しようと思う。
原発跡地を再開発し、核融合発電所を作ることは、核融合発電プラントを工作艦から持ってきて据え付けるだけでほとんど終わるので簡単なのだが、送電の規格などを日本側の電力会社とすり合わせる必要があるため、担当に秘書室のアレキサンドラ・ナバイテを選任し電力会社に派遣することとした。とはいってもせいぜい二、三日もあれば彼女の仕事は終わると思う。受け入れ側も気を使うだろうがお互い頑張ってもらいたい。
アギラカナは日本国に対し非常に友好的な国家であり、日本国の懸案であった、原発事故の後処理もアギラカナが無償で行った上、日本政府が間を置かずアギラカナと国交を結んだというニュースが世界を駆け巡った。
各国政府からの日本政府に対する問い合わせも激しくなったが、日本政府は、ニュースで報じられた情報以上を伝えることはなかった。東京に駐在する主要国の大使が、高位の政府関係者に面会を求めたが多忙を理由に拒絶された。さすがに駐日合衆国大使だけは、外務大臣と面会することができたが、新たな情報を得ることはできなかった。
そして、週の明けた月曜日、東京証券取引所は定時にオープンした。全銘柄買い気配スタート。東証始まって以来ではなかろうか。結局、前場の引けまでに値の付いた銘柄は全体の数%でその他の銘柄は、軒並みストップ高で気配が張り付いたままになっている。このまま売り注文がなければ、比例配分も行われず、当日寄らずでほとんどの銘柄が取引を終了しそうである。場外取引ではすでに、ストップ高の10%程度上の値段で大口の買い注文が出ていたが、売り手のないままで約定はしていない。
為替相場の方は、先週金曜日、東京時間で夜間、急落したドル円相場だったが、昼の時点ですでに先週木曜日の水準を超え、10%ほど円高が進んでおり、さらに円高が進みそうだった。本来、為替相場は、この時間帯はディーラーが昼休みを取るため取引は低調になるのだが今日は海外の銀行からの注文が朝から大量に入り、ディーリングルームの電話は鳴りっぱなしで、休憩などできる雰囲気ではない。
初日のような電波ジャックはさすがにできないので、今回は、録画映像を各テレビ局とインターネットの大手動画サイトに渡し、正午に放送するよう依頼した。映像データは放送十分前の午前十一時五十分まで内容が分からないよう時限封印を施している。
「お昼のニュースの時間です。アギラカナの山田代表からビデオメッセージが届いていますので、今日最初のニュースの前にお伝えします」
「アギラカナの山田です。わが国は、日本国と無事国交を結ぶことができました。これからもよろしくお願いします。
ご存じの通り、われわれは、日本国と交易を行うため国交を結んだわけですが、日本国以外の国に対し交易をおこなう予定はありません。この放送をご覧になっている、各国の皆さん、はっきり申し上げます。アギラカナは日本国以外の国と国交を結ぶ意思はありません。なお、このことについて、日本国政府は全く無関係ですのでよろしくお願いします。
次に、日本国政府も含め、初めてこのメッセージでお知らせしますが、アギラカナは、日本国に対し本日、日本時間午後0時より、片務的防衛義務を負うことを宣言いたします。
片務的防衛義務とは、日本国が他国から攻撃を受けた場合、アギラカナへの攻撃とみなし、アギラカナが何らかの対抗措置をとるというものです。この日本国への攻撃は、物理的攻撃のみを指すものではないことに注意してください。さらに、日本国の領海、領空、EEZ等、日本国の主権のおよぶ領域への無断進入も、アギラカナへの挑発と見なし同様の措置を取らせていただく場合があります。逆に、アギラカナが攻撃されたとしても、日本国は一切の義務を負いません。
日本国内のアギラカナの今後の資産、権益を守るための措置ですので、思いやり予算などいただくことはありません。
アギラカナはこういった状況が起こらない限り、日本国以外の国々の皆さんに対し一切の干渉を行いませんのでご安心ください」
「ただいま、御覧いただいたビデオメッセージは国内各テレビ局と大手動画サイトにけさ届いたもので、この時間に放送するよう依頼されたものです」
この放送の後さらに円高が進行したのは言うまでもない。株式市場では、ほとんどの銘柄の気配値がストップ高に張り付いたままなのは変わりなかったが、やや防衛関連銘柄にはストップ高での売り注文も出始めたようである。




