20. 除染
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誤字報告ありがとうございます。
20. 除染
会談を終え、われわれはいったんH3級強襲揚陸艦AA-0001に引き上げた。無論護衛の艦載機もわれわれを護衛してそのまま撤収している。
その日の午後六時には、官邸に置いてきた通信機から除染対象区域からの作業員や重要資材の退去が完了したとの連絡が入った。
木星近傍の工作艦SII-001で建造済みの除染用作業艇四隻と一般作業艇二隻はすでに発進済みで、地球到着は六時間後の予定である。 工作艦SII-001は今現在出力1億kWの核融合発電ユニット四基と付随装置を製造しており、予定通り明日中には完成するらしい。
除染用作業艇は、円柱形の宇宙船で、中に放射性物質を吸収、無害化するナノボットを満載しており、それを対象地域に散布することで除染する。散布されたナノボットは、地面の中に浸透して、出会った放射性物質をその体内に取り込み短時間で元素変換処理を行って無害化する。最長稼働時間は七二時間で、それを過ぎると自壊し、自分自身も無害化するように調整している。
見積もりでは、対象区域のナノボット必要量は除染用作業艇二隻分で賄えるということだったが、多めに除染用作業艇を送り込むことにした。
一般作業艇は、対象区域に残る施設や積み上げられた未処理の廃棄物の撤去を行い、鉄材などの不要物や除染用ナノボットでは除染できない核燃棒などを、上空の強襲揚陸艦AA-0001に運搬する役目を担っている。
翌日、午前七時五十分、暫定の母艦となるAA-0001にいったん格納されていた二隻の一般作業艇が除染作業区域に向け発艦。
七時五十五分、一般作業艇が除染作業区域上空に到着。
当該区域を囲むよう多くの報道陣が、その距離では不要なはずの防護服を上から下までしっかり着込み、カメラを構えて状況を見守っていた。
海上には、数隻の白い船体に青い縞模様の入った巡視船が出て、一般船舶が作業区域に近づかないよう監視しており、近づきすぎた船舶にはマイクで警告を与えている。
午前八時ちょうど。作業開始。
二隻の一般作業艇が、南北から廃屋となった原発の建屋に接近し、前面から白い霧のようなものを噴霧し始めた。これは、コンクリート破壊用に調整されたナノボットで、コンクリートの粒子の結合力を弱めたうえで振動させコンクリートを破壊していく。役目を終えると短時間で自壊する。
ナノボットが吹き付けられたコンクリート製の建屋は、一部の鉄骨や金属部分を残し砂状となって崩れ落ちていった。
一般作業艇は、次の建屋に移動し、同じ作業を繰り返し、二十分ほどでその作業は終了してしまった。そのあと、多数ならんだ汚染水タンクの上蓋を取り外してまわり、作業が完了すると除染用作業艇の邪魔にならないようにいったん高度を上げ待機態勢に入る。
そのころには4隻の除染用作業艇も、降下して作業を開始しており、除染用ナノボットを対象区域に対してかなり低空から散布し始めた。
見た目は大規模農場での空中からの農薬散布のようであり、実際、ナノボットそのものは、白い粉末に見える。散布作業は、袋詰めされて野積みになった廃土や汚染水タンク、建屋の跡地、隣接する海上でも行われている。その作業も短時間で終了し、四隻の除染用作業艇はそのまま、AA-0001に引き上げていった。
一時間ほどして、待機していた二隻の作業艇が再び降下し、一隻は除染用ナノボットにより既に除染の終った鉄筋、鉄骨、その他の鋼材、周辺部材の回収を始めた。溶融してしまった原子炉本体は切断解体後回収している。もう一隻の作業艇はナノボットが内部に進入できない燃料棒などの回収を始めた。
回収品で満載状態になった作業艇が何度か荷下ろしのためAA-0001を往復し、除染作業そのものも午前十一時までに終了した。
AA-0001の指令室内の担当オペレーターによると、放射性物質は予想通りの深度までしか地中に浸透していなかったようで、四十八時間もかからず対象地域の除染は完了する見込みだそうである。
日本政府より、昨日の電波ジャックについて、国内法では犯罪ではあるが、意思疎通のためやむを得ないとの超法規的判断で免責されたと伝えられた。そのため今回はあらかじめ日本政府に対し、正午に三分間ほどテレビ電波を借りることをお願いし、承諾を得ている。国営放送NKHはもとより、民放各社も了承してくれたそうだ。
午後0時。
「アギラカナの山田です。本日も皆さんの電波をお借りして申し訳ありません。昨日の日本政府の発表の通り、除染対象区域の除染作業と、建屋、原子炉、残置された核廃棄物、核燃料などの解体撤去作業を午前八時より行い、先ほど、午前十一時までに無事作業を完了したことをお伝えします。放射能等が事故前のレベルになるには、あと二日、四十八時間必要ですが、現状でも防護服を着けず炉心跡地に行くことも可能です……」
数十兆円が必要と言われていた被災原発の最終処理が、アギラカナにより短時間かつ無償で行われたわけである。
日本国政府は、二日後、原発跡地の放射線量を測定し、除染完了を確認後、緊急閣議を開き以下のことを決定した。
1)アギラカナを正式に国として承認する。
2)アギラカナの代表をミスター山田とする。(この時点で、代表名の呼称と山田圭一の下の名前が不明だったため)
3)東京23区内の政府の所有する土地をアギラカナに無償で貸与し、大使館の建設を許可する。具体的には、東京都と交渉し、晴海ふ頭周辺の東京都の所有地を国が購入しアギラカナに貸し出すこととした。 都知事の内諾は、閣議前に得られている。
4)アギラカナに対し、原発跡地を無償で貸与し、その上に原発跡地での核融合発電所の建設を認める。
5)アギラカナに対し、1兆円を無利子、無期限で貸与する。
この閣議決定のうち、立法化が必要なものは、委員会審議を飛ばし、そのまま両院の本会議に掛けられ賛成多数で可決され、速やかに公布後、即日施行された。




