02. いきなり宇宙船の艦長に1
いきなりブックマークを頂きました。ありがとうございます。そこのあなたです。というわけで予定外ですが、第2話を投稿します。
02. 宇宙船の艦長に 1
工作艦SII-001より報告。
――現在、ナノボット定着率3%
――定着、活性化したほぼ全てのナノボットが、最大大陸の東に位置する島嶼に集中しています。
……
――不活性ナノボットは自壊した模様。
――定着率が閾値に満たない個体内の活性化済ナノボットを非活性化します。
――定着率が閾値を超える個体数は、4体。内3体は若年のため、候補から除外しナノボットを非活性化します。
――候補対象個体の周辺調査及び接触を行います。
――候補対象個体が1個体のみのため、周辺警護を実施します。
――特殊作戦部所属バイオロイド12体を覚醒させます。
――内バイオロイド6体を調査、接触用に再設定します。
――残りバイオロイド6体を周辺警護用のため特殊戦仕様に再設定します。
……
――調査、接触用バイオロイド再設定完了。内1体を通信特化型に再設定します。
……完了。
――警護用バイオロイド再設定完了。
――通信特化型バイオロイド、アギラカナ・コアに接続。……完了。
――対象バイオロイド全12体を覚醒させます。
……
通信特化型バイオロイドをアギラカナ・コアに接続? 中央指令室の艦長席で自動ログ装置から流れる合成音声を聞いていた艦長がやや不審に思ったが、アギラカナからの直接指示があったものと理解してそのことは記憶から削除した。
俺が会社を辞めて、十日が過ぎた。
その間、会社の人事から、年金関係の書類とか健康保険がらみの書類が送られて来た。
一条からも何度かメールがあったが俺はもはや会社を辞めた人間。 適当に返信して済ませておいた。俺が会社を辞めたせいで、俺のいた部署はそうとう忙しくなったみたいだ。
すまんな、一条。だからと言って、何もしてはやれんが。今度奢ってやるといった言葉は、無職の俺に遠慮してか、メールでは蒸し返されていない。普段は無神経な後輩だったがそういうところはちゃんとしてるのかと感心した。
いま俺が住んでいるのは40平米弱のワンルームマンション。 中古で買ったものだ。3年前におやじが亡くなった時の遺産でローンの残金は全額支払い済みだ。母親は、父親の亡くなるちょうど10年前に亡くなっている。俺も一人っ子だが、両親とも一人っ子、四人いる祖父母もすでに他界、その他の親戚もいるのかもしれないが俺にはわからない。少なくとも戸籍上、俺は天涯孤独だと思っている。
自分の蓄えのほか、親の残してくれたものがそれなりにあったので、経済的には余裕がある。就活はそのうちでいいだろう。この齢だから、そのうち、そのうちで何年もたってしまう可能性もあるけどな。
昨日撮りためていたTV番組を遅くまで見ていたので、今朝起きたのは8時過ぎだ。朝食用に残しておいた昨日の食べかけのピザを冷蔵庫から取り出しレンジで温める。湯沸かしポットに水をつぎ足し、スイッチを入れてインスタントコーヒーをマグカップに入れ湯が沸くのを待つ。
これまで、度の強い近視用メガネを掛けていたのだが、三日ほど前のこと、最近目が疲れるなーと思って眼鏡を外したら、その方がくっきりはっきり見えた。
会社を辞めたら目が良くなってしまったようだ。よっぽど目に悪い仕事をしていたのかなあ。目のほかにも、体調も非常によろしい。快食、快便、快眠だ。腹周りに付いてきた脂肪も心持ち減ったんじゃないだろうか? はて? 思い当たる節は会社を辞めたことくらいだが、体重を後で測っておこう。
湯が沸いたので、マグカップに注ぎ、温めなおした昨日の宅配ピザと一緒にテーブルに運ぶ。
さすがに、いきなり何の予定もない十連休は長い。ピザを食べながら、今日は何をしようかと考えていると、
リリリーン、リリリーン……
ボーと考えていると、電話が鳴った。最近の若者は持たない人も多いようだが、うちには固定電話がある。
『もしもし。山田さんのお宅でしょうか?』
「はい。山田ですが。どちらですか?」
『アギラカナと申します。山田さんに折り入ってご相談があり、お電話差し上げました』
アギラカナ? 外人さんだろうか? 日本語が普通に上手だけど。変な勧誘はお断りなのだがアギラカナという聞きなれない名前に興味を持った。
「えーっと? アギラカナさん? 相談とは?」
『一言で言えば、山田さんをヘッドハンティングさせていただきたいというご相談です』
「この僕を? ですか?」
『そうです。山田さんをです』
俺をヘッドハンティング? 何かの冗談だろうか? 業界で名を売るようなことは今まで何もしていなかったはずだが。危ない勧誘だったらいやだが、今は暇だから話を聞くくらいいいか。冷やかしで話を聞いてみるか。
近くの喫茶店で話をうかがうと言ったところ、少し込み入った事情があるので、俺のマンションに直接来るという。
普段の俺なら見ず知らずの人を家に上げるとは思えないのだがどういう訳か簡単に承諾してしまった。まあ、十日もお店の人くらいしか、人と接する機会の無い生活を送ってきたわけで、その反動が出たのかもしれない。
食器などの洗い物をしながら、待つことしばし。
彼女の指定した時刻の五分前ピッタリに、マンションのエントランスからのチャイムが鳴った。
インターフォン付きのビデオ越しに映る先方は、電話越しの声から予想した通り、年齢は二十代前半の女性だった。服装は黒に近い紺の女性用ビジネススーツ。下はタイトスカート。ややウェーブのかかったショートヘアの黒髪は、きっちりと後ろになでつけられ、ヘアピンのようなもので固められている。ザ・ビジネスウーマンといった感じのややきつめの顔をした美人さんだった。
「エントランスのドアを開けますので、504号室まで上がってきてください」
一分もあれば五階のここまで上がってくるだろう。
ピンポーン!
ダイニングテーブルの向かいに座ったアギラカナさんが一度立ち上がり、ビジネスカードを渡してきた。こちらも立ち上がり、それを受け取りながら、今無職なのでビジネスカードはない旨を断っておく。
『アイン・アギラカナ』
と名前が書いてあるだけのビジネスカードだった。会社名も、連絡先も何も書いてないまさにカードだった。
「えーと?」
この人、顔は日本人に見えるけど、どこの人なんだろ?
「先ほど、お電話では、ヘッドハンティングとお話しさせていただきましたが、正確には、スカウトということになります」
「ヘッドハンティングとスカウト? 同じ意味に聞こえますが」
「はい。スカウトです。つまり、山田さんをわれわれの組織のトップとしてスカウトさせていただきたいと思っています」
「組織? 会社ではなく? しかもトップ?」
言っている言葉はわかるが、何を言っているのかわからない。何だこりゃ?
「はい。われわれの組織はこの国でいう法人組織ではありません。またわれわれの組織にはとある事情から、現在トップが不在です。ですので、山田さんの資質を見込んだうえで、われわれの組織のトップとなっていただきたいわけです。ここでは証明できませんが、われわれの組織は膨大な資産を保有しており、山田さんが心配するような不良資産を抱えているような組織ではありません」
「そ、そうですか。それで、その組織のお名前は何というんですか?」
「とりあえず、アギラカナと名乗っています」
「ということは?」
「はい。私が現在、この国における組織の暫定的な代表を務めさせていただいています」
「そうですか? ……」
「山田さん、お時間がもう少しおありでしたら、お付き合いくださいませんか? もう少し詳しくご説明できると思いますので」
「失業中の身ですので、もちろんかまいませんよ」
「それでは、ご案内します。少し歩きますが、すぐそこです」