10. もらった宇宙船を見に行く3 幹部紹介
10. もらった宇宙船を見に行く3 幹部紹介
俺専用らしいシャトルを降りると一人の女性が立っていた。
「山田さんのご到着をお待ちしておりました。私はアギラカナの管理AI:コアのアバターでマリアと申します」
「初めまして、山田です」
「時間が時間ですので、食事にしましょう。このアギラカナの主要メンバーも同席しますのでよろしくお願いします。こちらへどうぞ」
……
「こちらが、艦長公室です。これまで艦長は不在でしたので未使用状態で封印されたままでしたが、やっと部屋の主が見つかりました」
マリアさんに連れてこられた部屋は学校の教室くらいの部屋でここが玄関ということらしい。その先が会食用食堂。普段の食事は別の食堂で摂るそうだ。会食用食堂もだいたい学校の教室ぐらいの広さの長四角の部屋だったが天井が高い。天井まで四メートルくらいか。部屋の真ん中に長テーブルがあり、すでに四人着席していたが、俺が部屋に入ると全員同時に起立した。全員女性だ。四人とも四十代くらいの女性でできる管理職? ぽい感じの人たちだ。
一番端の女性が「艦長。お待ちしておりました!」
と大きな声で俺に向かって挨拶すると残った三人も同じように
「お待ちしておりました!」
「あら、アマンダさんは気の早いこと。山田さんはまだ艦長じゃありませんよ」
「失礼しました。マリア・コア」
「いまのところ山田さんでいいんですよ。あすの認証式が終わったら、『艦長』か『閣下』どちらかしらね。今後、大型艦の艦長さんも増えてくるから『閣下』の方がよいかしら。でも、アマンダさんも将官なんだから『閣下』だったわね。何かそれらしいのを考えなくちゃね」
「中将以下は、階級でいいんじゃないですか。大将以上を『閣下』と呼べば」
とアマンダさんの隣の女性。
「そうね、そうしましょうか。じゃあ今、通達を出しておくわね。……。
山田さんは、そちらに座って。私は向かいの席に。アインは山田さんの左側の席ね。
今から、食事を運ばせるから自己紹介をしていない四人は順番に自己紹介をしてちょうだい」
「それでは私から。私は、航宙軍司令官を務めますアマンダです。階級は中将です。航宙軍と言っても、現在は三個戦隊プラス休眠解除明け九個戦隊が活動するだけの小さな航宙軍ですが。艦長が着任されれば、戦闘制限が解除され、休眠中の艦船も休眠解除できますし、大型艦の建造も可能となると思いますので期待しています」
「陸戦隊司令官のエリスです。現在は、アギラカナ内の警備および航宙軍各艦に少人数の配置ですが、今後休眠中の将兵を順次休眠解除し、惑星制圧を念頭に置いた強襲降下部隊を編成していけると考えております」
「私は、探査部司令官を務めますドーラです。現在、アギラカナ近傍星系での資源探査を主に行っています。現状、探査艦十二隻が稼働中です」
「それじゃ、最後はフローリスね」
「兵站部司令官のフローリスです。現在は、探査部の調査結果をもとにアギラカナ周辺域からの資源収集を主に行っています。戦闘制限が解除されたあとは、艦隊の拡張、整備などを行います」
「それじゃ、そろそろ料理を運んでちょうだい」
数名の給仕人?がワゴンを押して入室し、一人ひとりの前に、大き目のトレーを置いていった。銀色のトレーの上には、魚のフライ? 薄切り肉、サラダ? とスープが載っていた。どこかの旅客機の機内食っぽい食事だ。ナイフとフォークもそれっぽいのが付いている。あと、透明のグラスに入っているのは泡が立っているから炭酸水だろうか。
「山田さんには申し訳ないけど、普段私たちは、適当な時間にチューブに入った栄養食を摂るだけで、地球のみなさんのような食事はしてないの。今回の料理は、その昔、アーセンの人たちが食べていた物を再現したもので、実は私たちも初めての物なのよ。そういうことなので私たちも実は消化器系統の強化処置を済ませてこの食事会に臨んでいるの」
マリアさんが軽く流すように言った消化器系統の強化処置がどういったものかは分からないが、市販の胃腸薬を飲むほど単純なものではないことは容易に想像できる。
俺はマリアさんの説明を聞きながら出された料理に手をつけていった。
魚のフライ?は白身魚のフライか? ソースはタルタルソースっぽい何か。まずくはない。次に手をつけた薄切り肉は 豚の生姜焼き? まずくはない。サラダはポテトサラダっぽい何か。これはおいしい。スープはコンソメ。これもおいしい。残念ながら、パンやご飯はないらしい。炭酸水?はそのまんま炭酸水だった。全体的にはビミョーな味。残りの人たちもナイフやフォークを使って苦戦しながらも食べている。
「どうも、初めての試みはうまくいかなかったようね。味の方も微妙だし、ナイフやフォークを使うのもなかなか慣れないわね。山田さんはどうでした?」
マリアさん、ここで俺に振るんかい。
俺の今後の食事のこともあるので正直に、
「おっしゃる通り、私には合わないというか、微妙な味でした。サラダとスープはおいしかったです」
「やっぱりそうよね。今後は、日本でアイン達が買い付けた食材で、料理をお作りしますから安心して良いですよ。専用の自動調理器ももうできていると思いますからそれなりの味のものをお出しできるでしょう。期待しててね」
「気を使ってもらってありがとうございます」
正直に言って良かったようだ。
「私は、ナイフやフォークを初めて使ったのでなかなか食べにくかったです。味の方は結構おいしく感じました」
航宙軍司令官のアマンダさんが食事の感想を述べた。
「われわれの食文化は、地球、特に日本に比べるとかなり遅れているみたいよ。今後、艦長主催のランチョンミーティングなんかも増えてくるでしょうから、徐々に慣れていく必要があるわね。今のところ、地球でのわれわれのインフラが整っていないので、大々的に食材を輸入できないけど、少しずつ対応していきましょう。特にアイン、お願いね」
「了解しました」
「あと、アインですが、今後、山田さんの秘書官を務めさせようと思うけど、いいでしょ」
「アインさんでしたら、願ってもありません」
「では、そういうことで。ところでエリス、アインはあなたのところの曹長だったわよね?」
「はい。アイン曹長は、陸戦隊特殊作戦部所属です」
「それじゃ、アインは、本日付けで中尉に昇進、艦長秘書室長を命ずる。エリス、アインの下に女性下士官から三名ほど付けてあげて。いいわね。あと地球に残っている十一人も、今まで通りアインの下に。艦長公室の維持、管理は私の方で引き続きやるわ」
「了解しました」
「ありがとうございます」
「こうやって私が勝手に指示を出せるのも今日までだから、明日からは山田さんの仕事ですから頑張ってね。
山田さん、何か希望があれば、アインに言ってくだされば、大概のことは対応できると思いますから。今はできませんが、山田さんがアギラカナの艦長に就任して、アギラカナ・コアの制約を解除して頂ければ、地球制圧なんかも簡単ですよ。エリスさん、あなたのところの陸戦隊を出せば簡単よね?」
「はい、すでに探査機および地球に派遣した要員により戦略目標、戦術拠点の割り出しなどは終えていますので、揚陸艦を一隻完全充足状態で整備できれば、一週間程度で制圧可能です」
マリアさんに冗談ともつかないことを言われて、エリスさんが真面目に答えていた。目が笑ってないんだけど、この人たち。
ない、ない、ない。地球制圧なんか誰がするんだよ。それじゃ俺が魔王様だよ。地球大侵略だよ。
そのうち、みんな食べ終わったようで、顔合わせは終わったようだ。
「それでは明日の式典、よろしくお願いしますね」
そういって、マリアさんはアインさん以外の四人を連れて帰っていった。




