第7話 VS剣の勇者
さて。
俺、御剣 響夜は強姦されそうになるも、争いに乗じて逃げ出すことに成功。
その後は本来の目的である脱走を開始。
こういう時は逃げるが勝ち。
要は『三十六計逃げるに如かず』ってやつだ。
しかし、一難去ってまた一難。
絶賛ピンチに陥っている。
そのピンチは――
「おしっこぉおおおおおお! 漏れちゃううううううううううううっ!」
突然の尿意に襲われていた。
現在、股間を両手で押さえながら、大股で全力疾走。
膀胱エマージェンシーでお便所を探している。
「だああああああっ! 走りにくい!」
今更だが、俺の着てるドレスはロングスカートタイプ。
裾の長いスカートに足を取られて走りにくいったらありゃしねえ。
長ズボンとは全然違うのよこれ。
女って大変なんだな。
「やばい! マジでやばい!」
だが、今はそんなこと深く考えてる余裕はない。
膀胱がバンバンなのだ。
一刻も早く出さねば。
でなければ、大変なことになるぞ。
「あった!」
がむしゃらに走り回っていたがお便所発見。
ギリギリセーフ。間に合った。
で、お便所のドアを勢いよく開けると。
スカートを捲り上げてパンツを下ろして便器に座り、勢いよく用を足す。
「ああああああああっ!」
限界ギリギリまでガマンしてただけあって、放出できた時の解放感が半端ねぇ。
超気持ちいい。
しかし、本当に危なかった。
危うくお漏らしヒロイン (?) になる一歩手前だった。
こういう時、ラノベなんかの女体化した男子主人公は、お便所に行くのに躊躇ったりするもんだが。
豆腐メンタルな男子主人公と違い、俺はそんなことに動じねぇ。
体の構造が変わろうと、俺は俺だ。自分の生理現象で悩むバカなどではない。
やましい気持ちがないのだ。
だから俺は悩んだり恐れたりしない。
故に、着替えや入浴もいかがわしい気持ちを抱かずに行うことが可能。
ホントだよ。
「ふう。スッキリした」
なんやかんやでものを出し終わると、ほっと一息。
余韻に浸る。
逃走中なのに、『そんな余裕ぶっこいてていいのか?』なんて言われるかもしれんが。
その問題はない。
なぜなら、囚人服を着たヤツらがうろついてるからだ。
囚人を全員解放したため、城は上を下への大騒ぎ。
混乱している。
で、混乱に乗じて逃げるって寸法よ。
打算があるから落ち着いていられるわけ。
まあ、こうなるであろうと見越して、囚人を脱獄させる手引きしたんだけどね。
我ながら打算的になったものなあ。
それもこれも太子のせいだ。
あいつに陥れられなければ、ここまで心が荒むこともなかった。
あいつさえ居なければ、ここまで落ちぶれることもなかった。
すべて太子が悪い。
ああ、なんかムカついてきた。
冷静にならねば。
「……そろそろ行くか」
パンツを上げて、手を洗うと。
改めて逃走再開。
お便所から出る。
「あっ!」
「げっ!」
――お便所のドアを開けて通路に出るなり、出会ってはならない者の1人と出会ってしまう。
そいつは年齢16歳前後の、身長165センチぐらいの細身の剣士。
髪型は青みがかった黒髪ショートヘアー。
顔のつくりが端正で。切れ長の瞳のクールな印象の少年を女体化させたような少女。
太子の仲間の1人――剣使いだ。
「覚悟!」
「なんの!」
俺の顔を見るなり、いきなり切りかかってきたよ。
だが、俺は咄嗟に短剣を抜き、それを紙一重で防ぐ。
「危ねえじゃねえか、この野郎!」
なんとか防げたが。
これは、優れた反射神経と奇跡的な幸運のお陰。
判断がちょっとでも遅れてたら、俺の体は真っ二つになってただろう。
想像しただけでもゾッとするぜ。
「クッ!」
不意打ちに失敗した剣使いは、バックステップで距離をとる。
仕切り直しってやつか。
「《能力透視》!」
俺もこの隙に、剣使いのステータスを確認。
どの程度の強さか分かられば、対処できるかもしれん。
「レベルは37!?」
俺のレベルを大きく上回ってる。
20倍近い差があるぞ。
もしも融合前の俺が戦ってたら、秒殺されてただろう。
こいつを倒すには20倍頑張れってか。
それに問題はレベル差だけじゃない。
ステータスも、太子程圧倒的な差はないものの。全ステータスで俺を上回ってたよ。
このハイスペックが!
無理ゲーじゃねえか!
「でぇやああああああ!」
力の差を知り、青ざめてる俺に、ヤツは上段構えで容赦なく襲い掛かってきた。
容赦ねえな。
戦意を喪失してる場合ではない。
自らを奮い立たせ、守りの構えに入る。
「ぐぬぬっ!?」
互いの武器がぶつかり、激しい金属音が鳴り響く。
「だったら、これでどうだ。《雷神剣》!」
「ぐぬうっ!」
攻撃がガードされると、ヤツは涼しい顔して、雷を纏った斬撃を放つ。
なんとかガードに成功するも防戦一方。
おまけに強烈な攻撃を短剣で受け止めたもんだから手が痺れた。
これでは捌くので精一杯。反撃ができない。
「《ファイアーボール》!」
「こんなもの!」
不意打ちで魔法攻撃を仕掛けるも。簡単に弾かれてしまう。
ヤツはソードマンの上級職であるソードマスターか?
だとしたら、学校の授業で剣道を習った程度の俺が正攻法で挑んだところで、到底勝てない。
「ふざけた真似を!」
「まずい……」
あかん。完全に怒らせてしまった。
「ハアアアアアアッ!」
案の定、ヤツは怒り。力任せにラッシュを仕掛けてくる。
「うおおおおおおおお! あれ?」
攻撃のスピードは上がったのの、一撃一撃が雑になっている。
結果として、攻撃が読みやすくなった。
もしかしたら、こいつは逆上するあまりパワーに傾倒しすぎて動きを鈍らせてるのではなかろうか?
もしそうだとすれば、勝機がある。
「どうした。お前の本気は、その程度か?」
「なんだとお!」
煽ってみれば、案の定引っかかってくれた。
意外と単純なヤツだな。
「意外と大したことないな。正直言って見掛け倒しだったぜ。他の仲間の中でお前が1番弱いだろ」
「言わせておけばいい気になりやがって!」
「図星だったかな?」
「剣の勇者を愚弄するか!」
守りに徹し、煽って煽って煽りまくる。
そうすることで隙が生まれると信じているからだ。
だから耐え抜いてチャンスを待つ。
「んっ!?」
やべぇ。短剣が刃毀れしてボロボロだ。
それに対してヤツの剣を傷1つない。
あの剣は名剣か?
腐っても勇者の仲間。実力も武器も優れている。
――このままではジリ貧んだ。
こりゃあ、早々に決着をつけねばならん。
一か八かで仕掛けてみるか。
「《トレード》! 上手いこと、あいつの剣を奪えますように」
上手くやれる自信はないけど。
仮に上手くいかないとしても、悪いのは俺のせいじゃなく世間が悪い!
「なんなだこれはっ!?」
ヤツの剣を奪えればいいと思ったが。
手にしたものはズボン。
失ったのは短剣。
またしても武器渡しちゃったよ。
「これ、あいつのズボンだな」
「キャアアアアアアアアアア!」
剣使い大絶叫。
右手に剣。左手に俺の短剣を握ったまま慌ててパンツ隠します。
だけど武器を握ったままでは、あんまり隠せてないな。
「赤パンツか。絶景かな絶景かな」
剣使いのパンツの色は赤。
情熱の色だね。
こりゃあガン見しなくちゃ男じゃねえ!
「赤いパンツが見えてるよ。祝い事かい? 赤パン健康法かい?」
「赤パンツって言うな! オレにはレンって名前があるんだ!」
「そんな名前だったんかい、赤パンツ」
「言うな!!」
おちょくると、レンは顔真っ赤。
怒りと羞恥心がごちゃ混ぜになってるご様子。
「返せ!」
「ほらよ!」
「ちょっ!?」
怒って切りかかるレンにズボンを放り投げる。
結果、レンは誤ってズボンを真っ二つにしてしまう。
ドジだね。
「それ! もういっちょ《トレード》!」
動揺するレンに、間髪を容れずトレードを発動。
今度こそ剣を奪ってやる。
「はうっ!」
「ありゃ?」
剣使いのパンツの色が白に変わる。
そして俺の足元にはずり落ちた赤パンツ。
どうやら互いのパンツをトレードしてしまったらしい。
「くっぬぬぅ!」
レンは攻撃の手を止め、内股をモジモジしてる。
そりゃそうだ。
俺の身長は140センチ程度。レンよりも明らかに小さい。
そんなサイズ差がある相手のパンツを穿けばキツキツなのは誰の目から見ても明らか。
それに加え、レンは安産型。
ズボンを穿いてた時は気づかんかったが、尻がでかい。
パンツは余計に尻に食い込む。
後ろから見たら、きっとTバックみたいになってるだろう。
できれば後ろから見てみたいな。
「き、貴様ぁ!」
歯を食いしばりながら超プルプルするレン。
パンツを脱ぎたいのだろうが。見られてるから、恥ずかしさゆえに脱げない。
潤んだ瞳で睨み付けてくるが。ちっとも怖くないな。
それどころか、生まれたての小鹿でも見てるみたいな、あどけないものを感じさせる。
「フォーフォフォ!」
気づいたら下卑た笑いを浮かべてた。
我ながら悪者みたいだ。
「この変態があああああああ!!」
「どすこい!!」
「ぐふっ!」
怒りに任せて襲い掛かって来るが。
これこそ俺の待ってたチャンス。
みぞおち目掛けて肘打ちを食らわす。
「ハァ……ハァ……!」
急所への一撃に、レンは呼吸困難な状態。
膝を突き、胸を押さえながら苦しむ。
「卑怯……者……!」
「ああ。そうだよ!」
「なっ!」
俺への罵倒を甘んじて受け入れると。
額にトドメの頭突きをぶちかます。
レンは成す術も無く、強打された。
「バタッ……!」
頭突きをまともに食らったレンは失神。
面白い格好で白目を剥いて倒れている。
俺は勝ったのだ――
「……返してもらうぞ」
勝利の余韻も程々に。
スキル・トレードによって交換されたパンツを元通りに戻すのであった。
剣の勇者 レン・テンモク(剣使い)のプロフィール
・性別:女
・種族:人間
・血液型:A型
・年齢:16歳(高校1年生)
・誕生日:2月3日
・一人称 :オレ
・身長:165センチ
・体重:51キロ
・スリーサイズ:B80/W55/H88
・毛色:青みがかった黒
・瞳の色:薄い青
・好きな食べ物:チョコレートパフェ、いちご
・嫌いな食べ物:納豆、ピーマン
・趣味:ゲーム(ゲーマー)
・性格:堅物で悪い意味でプライドが高く、少々蔑んだ性格。
・人物:太子によって勇者として召喚された4人の1人で、剣の勇者となる。一見するとクールな印象の少女。顔の作りが良く、切れ長の瞳と白い肌。男装をしたら男の子に間違う奴。細身の剣士という感じ。安産型。中二病のケがあり。剣の使い手で、複数の剣のスキルを持つ。無責任なところあり。