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不当なる者世界に仇なす  作者: 黄金の右脚
大脱走
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第6話 処刑前の投獄


「ぶっはっ!」


 俺、御剣響夜みつるぎきょうやが、顔に水をぶっかけられて目を覚ます。

 周囲を見渡すと、ここは薄暗い部屋の中。

 上半身が縄でぐるぐる巻きにされ、冷たい石の床の上で寝てた。

 

「そういえば太子たこに倒されたんだったな……」


 そこまではなんとなく覚えてる。

 しかし、その後の事が分からん。


「うんしょっと!」


 縄で縛られて手が使えなかったが。下半身は縛られてなかったので、足は自由。

 体をくねらせて座る。

 

「キョロキョロ」


 現状把握すべく、あたりを見まわす。

 すると、錆がうっすらと浮いた鉄格子てつごうし

 ここは牢屋のようだ。


「天井が低くて窓がないので圧迫感があるなぁ」


 牢屋に入るのは初めてだが。居心地の良いものではない。

 

 俺が牢屋に入れられてるなんて、母ちゃんが知ったら泣き崩れるだろうな。

 誰の目からみても親不孝者。

 我ながら情けなく感じた。



「ようやく起きたようだね寝坊助ねぼすけ

「太子!」


 鉄格子の前には太子が立っており。右手に小さいバケツを持っている。

 俺に水をぶっかけたのはこいつだな。


「俺を牢屋にぶち込んで、何が目的だ!」


 芋虫の様に張って鉄格子の前まで行き、太子を問い詰める。


「牢屋に入れたのは、君を処刑するためさ」

「なんですとぉ!?」


 激しい口調で強がってみるも。まさかの事態。

 俺は動揺し、恐ろしさのため体がふるえ動く。

 一刻も早く逃げなくては。


「《テレポート》! あれ? できとらん」

「ムダだよ。城には結界が張られていて、テレポートは発動できなくなってる」

「そうなの!?」


 知らなかった。そんな制約があったのか。

 あかん、逃げれん。


「日時は明日の朝。処刑方法は絞首刑こうしゅけいにしておいたよ」

「首吊り!? それってかなり苦しむ処刑方法じゃねえか!」


 処刑方法がえげつない。

 せめてギロチンみたいに苦しまない処刑方法を選べないものか。

 つくづく性格の悪い女。

 

「残りの余勢をそこでを楽しむといい。じゃあね」

「てめえ、ふざけんな! 出せええええええ!」


 ――笑顔で手を振って去って行く太子。

 人格破綻者が。

 なんでこんなのが勇者として崇拝(すうはい)されているの?


 ガンガンと、鉄格子を蹴る音が虚しく響く。


「あんにゃろめぇ……!」


 太子が()なくなっても怒りは収まらず。

 むしろ、高まるばかり。


「決めた。脱獄(だつごく)しよう」


 怒りと死への恐怖から、脱獄を決意。

 むっちゃ小さい声でそう言い。脱獄計画を練る。


「きょろきょろきょろ」

 

 鉄格子からいろいろ調べてみると。

 看守(かんしゅ)は2人。どちらも男。

 あんまり強そうには見えない。

 短剣を腰にぶら下げているものの。それ以外の武器はなさそう。


 ――これなら何とかなるかも。


 映画や漫画なんかだと、こういう場面では仲間が助けに来るのがテンプレ。

 ――しかし、俺の残された仲間コウマは薄情者。

 我が身可愛さに主を見捨てて逃げるようなヤツ。

 こんなヤツが自らの危険を顧みず、助けに来てくれるとは到底思えない。


 そもそも、あの後にコウマはどこに逃げて行ったのやら。

 フープの一件もあり、コウマの奴隷契約もリセットされてるのは確実。

 助けに来てくれる確率は限りなくゼロに近いだろう。


 ……うーむ。助けを期待するだけムダだな。

 自分で何とかしないと。

 頭を切り替えよう。

 

「忍法《縄抜け》!」


 忍法を使い、縄からスルリと抜け出す。

 こいつは、ギルドで出会ったでっかい顔の忍者に教えてもらったスキル・初級忍法。

 

 原理は分からないが。

 忍法は魔力を使用して発動する点は同じだが。魔法ではないので、魔法が使用できなくても使用可能。

 恐らくは、この世界に存在しなかったスキル。


 あの忍者は俺と同じ召喚者。

 その証拠に、ファンタジー系ロールプレイングゲームみたいな世界の世界観にそぐわない、黒の忍装束(しのびしょうぞく)を着ていた。

 ギルドでも悪目立ちし。どこのパーティにも入れて貰えなかったらしく、ぼっち。

 浮いてたな。

 

 それが原因かは定かでないが。生活に行き詰まっており。

 金をちらつかせると、喜んでスキルを惜しみなく教えてくれた。


 忍者がべらべらと自分の情報を話すのどうかと思ったが。

 その軽い(くち)のお陰で、俺が忍者のスキルが使えるんだけどね。

 感謝感謝だ。


「忍法《壁抜け》!」


 今度は《壁抜け》を発動させ、鉄格子を透過。


「脱走してるヤツがいるぞ!」

「どうやって出た!?」

 

 牢屋から出ると、2人の看守が異変に気付く。

 そして俺を力尽(ちからず)くで取り押さえようと、短剣のグリップを握る。


「タァ! トゥ!」

「「ゴハッ!」」

 

 けれども看守が短剣を抜く前に1人を回し蹴りで倒し。

 もう1人は頭突きで倒した。

 

 短剣持った男2人をあっという間にのしちゃうんだから、俺ってやっぱり強いんだよな。


「こんなに強いのに、どうして太子に勝てんのだろう?」


 太子と俺との力の差はそれ程かけ離れているのか?

 これって持って生まれた才能の差ってやつ?

 

 ……考えるだけ虚しくなってくる。

 気がついたら、無意識に腕を組んで唸ってたよ。


「逃げちゃえ」


 この様な状況で深く考えたところで、どつぼにはまるのがせきの山。

 であれば、体勢を整えるのがベストな選択。

 さっさととんずらするに限る。


「姉御、助けてください!」

「姉御、鍵を開けて!」

「見捨てないで!」

「ここから出して!」


 逃げようとした矢先。他の囚人が一斉に助けを求めてくる。

 考えてもみれば、これは脱走するチャンス。

 ヤツらからすれば、今の俺は救いの女神に見えただろう。

 チャンスを逃すまいと、皆は必死にアピールしてくる。

 もしも俺が助けられる側だったら、同じことしてただろうな。


「よーし。出してやるぞ」


 気絶してる看守から鍵を奪う。

 

 ついでに短剣も貰っちゃう。

 逃走するなら、素手より武器があった方が心強い。

 自分の武器は、スキル《トレード》で太子に持ってかれてしまったからね。


 ――で、短剣片手に片っ端から牢屋を開ける。

 牢屋の数は意外と多く。20人以上も投獄されていた。

 そして、その殆どが亜人。

 亜人の種類は多種多様(たしゅたさい)。亜人版動物園にでも来た気分だ。


「姉御、恩に着ります!」

「助かったわ」

「この御恩は忘れません」


 短剣を腰にぶら下げていると。

 出してやった囚人達の何人かが頭を下げて去ってく。

 どんな罪を犯したのかは知らんが。それ程悪いヤツらではないのかも。


「よし、じゃあ……」

「ぎょわっ!」


 ほっこりしたのも束の間。

 ウサギ種の亜人少年に押し倒された。

 油断してたものの、簡単にマウントポジションを取られてしまうとは。

 俺はなんとあさはかだったのだろうか。


「何をする!」

「いいじゃないか。たまってんだよ」

「んな!?」


 こいつは俺で性処理する気だ。

 かわいい顔して、なんてヤツだろうか。

 こいつは間違いなく犯罪者だ。


 身の危険を感じ、払いのけようとしたが。

 意外と力が強く。押され気味。


 ついには俺の両手はヤツの右手に押さえつけられてしまい、


「げへっへっへっへっ!」


 気味の悪い笑い声を上げつつ、ヤツは左手を俺のスカートの中に突っ込む。

 そしてパンツに手を()ける。


 体こそ女になったものの、内面は男のまま。

 したがって、男を性的感情を抱く事などない。

 好きなのは美少女。


「俺のはじめてが奪われる……!?」


 今感じてるのは、大切なもの奪われる恐怖のみ。

 もはやこれまでかと思われたその時――


「させるかぁ!」

「ゴハッ!?」


 ウサギ亜人に、別の亜人がドロップキックをぶちかます。

 横っ腹にドロップキックをもろに食らったウサギ亜人は大きく吹っ飛ぶ。


「助かったのか?」


 状況に頭が追いついてなかったが。

 助かったことは何となく分かった。


 助けてくれたのはハムスター種のショタっ子。

 こいつもかわいい。


「こいつは僕の獲物だ! 交尾するのは僕だ!」


 前言撤回。

 全然助かっとらん。


「そいつに先に目を付けたのは、このオレだ! お前なんかに渡すか!」


 ウサギ種の亜人が立ち上がり、向かってくる。

 諦める気は毛筋程(けすじほど)もない。

 

「なんだとぉ! 渡してたまるか!」


 ハムスターの亜人も譲る気はない模様。

 

「「こんのぉ!」」


 ウサギ種の亜人とハムスターの亜人は取っ組み合い。

 俺をめぐって激しく争いだす。


 2人は取っ組み合いに夢中。

 結果、俺はポツンと取り残される。


 ……これってチャンスじゃなかろうか?


「……逃げよう」

 

 この機に乗じて、こっそり逃げ出す。

 

 しかし亜人とはいえ、ハイエナがウサギとハムスターに襲われるとは――


「本当にろくでもない世界だな」

 

 逃げてる最中にそう思った。

 

 まあ、何はともあれ逃走開始。

 上手いこと逃げ切れるだろうか?


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