第4話 やぶさかではない
この回から主人公がTS(性転換)します。
「ふんぎゃあ!」
俺、御剣響夜。
逃げるためにテレポートしたはいいが。
慌てて発動したもんだから、テレポート先でヘッドスライディングしたみたいにすっ転ぶ。
「ここどこだ?」
どこにテレポートするかなど、一切考えないで発動したもんだから、ここがどこだかわからん。
池があるが。草木の生い茂っている所を見ると、程近い場所にテレポートしたのだろう。
「よいしょ」
とりあえず、立ち上がってドレスについた汚れを手でパンパンと払う。
……ドレス?
変だな。ドレスなんて着たことないのだが……。
「もしや!」
ピンときた俺は、池を覗き込む。
「やはり」
池に映る姿は、いつもの俺ではなかった。
写されたその姿は、気品の感じられる、どことなく儚げな印象を与える――政党派美少女。
それは、お姫様とはこういうものだといわんばかりの少女だった。
年の頃は12前後。
体の凹凸は大したことないけれど。焦りは禁物。
まだまだ成長途中の段階。
むしろ将来有望なぐらい。将来が楽しみだ。
でも、恋愛対象にするには、ちょいと若すぎるな。
髪は石灰色に近い白のセミロング。
瞳の色は黒ずんだ琥珀色。
「これは俺が召喚した女ではないか!」
髪と目の色は違ったが。容姿は召喚した女に間違いなかった。
美少女アニメで鍛えられた俺の目が美少女を見間違うなどあり得ないからだ。
「とりあえず、まさぐっておこう」
全身を隈なく探り、色々と調べてみる。
これは現状を把握するのに必要なことだ。
けっしてやらしい気持ちでやっているのではない。
ホントだよ。
「こりゃあ、酷い傷跡だ」
調べてみると、首の喉仏あたりに大きな傷跡が。
首の裏側も調べてみると、そこにも傷跡がある。
どうやら、刃物で首を貫いたらしい。
右の横っ腹にも大きな十字傷。
見るからに痛々しい。
「なんとなくわかったぞ」
調べてみたことで、理解した。
俺は少女と融合してしまったのだと。
原因は召喚中にテレポートした時に違いない。
転送事故を起こり、混ざってしまったのだろう。
人格がすべて俺のものなのは、こいつは殺された状態で召喚されたからだろう。
死んでいれば、人格だの意識だのはなくなるからだ。
傷跡から察するに、むごい殺され方だったんだろうな。
しかし、いずれも治った後がある。
おおかた、融合した時に俺の生命力で傷が塞がった。
融合の副産物ってとこか。
まあ、お陰で俺の外見的特徴が髪と目の色しか残らなかったけど。
これが今のところの俺の答え――。
「どうりで下半身が心許ないと思ったら、そういうことだったか。目が覚めたら勝手に女装させられた様な気分だよ!」
開き直ったらムダにテンションが上がり、バサバサとドレスの裾を煽っていた。
本来の自分の肉体を失って寂しいが、美少女の肉体を手に入れた喜びは大きい。
俺的勘定だと、ぼろ儲け。
もう最高! わぉ! って感じだったね!
美少女になるのは一部の男の夢だから。
「しかし声がそのままってのは、いただけねぇな」
アニメ作品における心と体の入れ替わりのお約束として、声も入れ替わるのがある。
アニメでやってるのはいいが。男の声で美少女が喋るとなると違和感が半端ない。
女体化しても声が男のままだった作品を『小説家になろう』で読んだことはあったが。
まさか自分がそうなろうとは夢にも思わなかった。
「少し大人しめのキャラに合う可愛い声になってたら文句なかったんだけどな~」
そんなことを知ってたからこそ、現状を理解できたのだが。
声が男のままなのは残念なものの。
この様なマイナス要素があってもプラスの要素が勝ったので、俺的に得なのは変わりない。
「クックックッ……アーハッハッ!!」
気がついたら大笑い。またはしゃいでた。
自分の本来の肉体を消滅させてしまったのは、産んでくれた親には悪いと思ったけど。
今の気分は最高だった。
本能的に喜んでしまうのだ!
やぶさかではないのだ!
「ファスト・フープを助けに行かねば!!」
美少女になった喜びにかまけて、本来の目的を忘れてたことを思う出す。
現在進行形でファスト・フープが危機的状況なのだ。
しかしながら、強力な召喚獣を召喚して助けに行く予定だったのだが。
召喚されたのは人間の少女。
容姿は優れてるものの、とても強そうには見えない。
とはいえ、人は見かけによらないとも言う。
見かけによらず強いかもしれん。
「げっ!!」
レベルを調べてみるも、レベルは2と表示される。
弱体化しとるやないか!
かすかな希望の光もありゃしない。
かっこつけて「助けに来る!」とか言っておきながら、それが果たさない。
完全に当てが外れてしまった。
「どうしよう……」
困り果てて、頭抱えて膝をつく。
マジで手詰まり。
絶望とはこのことか――
「誰かいたぞ!」
その上、太子の仲間に見つかってしまう。
いったいどうなるのか。
「僕はタコ様親衛隊の者です。あなたは行方不明者ですか?」
「……はい?」
太子の仲間の弓使いっぽいヤツが、当然の様にそう尋ねてきた。
てか、太子のヤツは仲間を親衛隊扱いにしてるのか。
センスが悪い上に、中二病ぽいな。
太子のセンスに呆れたが。
あいつ、俺が誰だか気づいてない?
「行方不明でしたら、城下町まで送りましょうか?」
間違いない。
こいつは俺のこと別人だと勘違いしてやがる。
だが、これは好都合。
利用できるかもしれん。
「はい、そうなんですよ」
とびっきりの笑顔で愛想振りまく。
「この声!? 貴様はミツルギ キョウヤか!」
声聞かれたら一瞬でばれたよ。
なんて耳のいいヤツだ。絶対音感持ちか!?
「貴様の首を打ち取れば、僕の序列も上がる!」
太子のヤツは仲間内で序列を作ってんのか。
対抗意識燃やさせて、やる気出させるパターンだな。
互いに競い合って、潰し合ってろ。
「クソ! また逃げにゃならんのか。《テレポート》!」
「逃げるな! 僕と戦え!!」
なんか叫んでるようだが。そんなの律義に守れるか。
現状の脅威から逃げると同時に。一か八かフープの元にテレポートしてみる。
太子を倒すことはムリでも。テレポートを駆使してフープを救出することができるかもしらない。
しかし鈍であったが、刀を持った高レベルの奴隷に素手で秒殺した相手。
そんなヤツの目を掻い潜り、仲間を救出する事ができるだろうか?
やる前から不安になってきたぞ。
――こんなことになるなら、最初から逃げときゃ良かったな。
◇
「ゲッ! 太子!?」
俺、御剣響夜。
テレポートすると、太子の目の前に出て来てしまう。
忘れてたが、俺のテレポートの適正が低いんだった。
できるからといって、上手いとは限らない。
俺のテレポートは遠くに行けない上に、精度も低い。
つまりは必要最低限のそれしか持ち合わせてない訳。
使うの控えようかな?
「フープ!!」
最悪の場所に出てきてしまったと思ったが、太子の足元には仰向けに倒れたフープが。
「ちょうどいい。貴様も死ね!」
太子は手にした刀を振りかざし、俺とフープ目掛けて振り下ろす。
「食らえ! パンモロ!」
「なっ!?」
だが、刀が振り下ろされる前に俺、俺は自らのスカートを大きくまくり上げて攪乱。
予想外の奇行に太子は怯む。
そして隙が生まれる。
ちなみにパンツの色は白だった。
「今だ!」
この隙に俺はヘッドスライディング。
前に出した両手でフープを飛びつくように抱える。
「《テレポート》!」
そして再びテレポート。
使うの控えようとか考えたそばからテレポートに頼ってしまった。
意志が弱いな、俺。
とはいえ、フープの救出に成功したのだった。
◇
「フープ大丈夫か?」
俺、御剣響夜は、また茂みに戻ると。フープの状態を確認すべく、彼女の顔を見ながら尋ねが。
返事はなかった。
「って、ギャアアアアアア!!」
顔から腹の方に視線をやると、フープは腹を19ケ所をめった刺しにされていた。
助けれた思ったが。助けれてなかったのだ。
「取り返しのつかないことをしてしまった……」
自分の胸に強烈な衝撃が走った。
全身から冷や汗が流れ、ショックから膝から崩れ落ちた。
恐らく今の俺の顔は青ざめているだろう。
自らの性欲を優先させて、配下の命を奪ってしまったのだ。
俺は自らの軽はずみな行動と無邪気さを呪い、懺悔した。
御剣響夜のプロフィール(第4部分以降)
・性別:男→女
・種族:人間→人間
・身長:165センチ→140センチ
・体重:55キロ→70キロ
・体脂肪率:14パーセント→16パーセント
・スリーサイズ:B70 W51 H72
響夜が召喚魔法発動中にテレポートしたために転送事故を起こり混ざってしまい、この姿に変化する。容姿はどことなく儚げな印象を与える、お姫様とはこういうものだといわんばかりの政党派美少女。毛色と目の色以外の容姿はすべて召喚された少女のもの。一方、人格と声は響夜のもの。身長が縮んだにも拘らず体重が異様に増えてるが、理由は不明。体重が重いが、体型は太ってないし、体脂肪率が高いわけでも、ましてや身体操法により氣を使って脂肪を体の中に折り込んでるなんてことはまったくない。どういう理由か不明だが血液が緑色。