社会の中で
人間社会というものは謎です。私にとって、ということですけど。何事もなく過ごせるなんて、なんて幸せなことでしょうか。うらめしー、いや、うらやましーです。
「生きるということ」
夜明け前の空が紫色に満たされて
野の草も、山の木々も紫
夜から朝へと流れる雲も灰紫で
一瞬の後には茜色に染まった
もう間もなく小鳥たちも
その囀りを取り戻して
夜の生き物と昼の生き物の
交代も始まるだろう
静寂の中で刻々と移ろう色彩と時間の中
飽きることもなく
膝を抱えて空を眺めている
もう一人の私を
峠へ向かう道に残して
泣きながら、走り続ける
引き裂かれる心の片割れ
「近況」
いつまでも動けない自分に
いつまでも動こうとしない自分に
降り注ぐ日差しは鋭く
空からの雨は痛い
動きたいわけじゃない、などと
言い訳ばかり考えて
ぐずぐずと
ぐずぐずと
腐り始めて・・・
いや
もうずっと前からこんなだったのか・・・
「異界との狭間?」
地面を這うようにうなる音
その振動は、そこここに建てられている
事務所の窓ガラスに伝わって
小刻みに一日中響いている
今、ぼんやり眺めていると
いつも元気な
ラジオ体操の音楽に合わせて
ゆっくりと揺れる影が見える
ちょうどそこは
異世界との境界であるかのように
霧に包まれたそこには
いくつもの
いくつもの影たちの、ゆらり
ゆらり揺れる姿が並び
途絶えることのない、うなりの中で震えているようだ
張り巡らされた電線に
風の中
引きちぎられた願いや悲しみが
わずかの間引っ掛かり
小さな泣き声をあげながら
吹き飛ばされ
永遠の中へ消えていく
日々の営みという名前の流れの中で
つい忘れてしまった自分の在り様を
取り戻すでもなく
ただ、ただ
ゆらり、ゆらり、揺れている
何なのだ、このうなりは
一当たり眺めてみるに
自分の喉から漏れる
空虚なのだとわかった
「小さな星の下で」
太陽は誰にも平等に照っている
水も空気も、誰も独占はできやしない
海は無限の恵みをもたらす
とは言え、現実はなかなかに厳しい
海も、陸も、細かく区切られ
太陽や水や空気の恩恵を受けるには、皿がない
できるのは公園のベンチで深呼吸をするくらい
貧しきものはますますに貧しくなり
富めるものよりの施しを受けるには
たくさんの忍耐が必要になる
広く、冷たい砂漠に昇る月は
蒼いのだろうか? 赤く濁るのだろうか?
闇に蠢く者たちは
まだ温かい死体を引きずっているというのに・・・
澄んだ空気の中で響く教えの声は
美しいのだけれど・・・
高い天井に響いてまわり
厚いガラス窓の隙間から漏れ出ていく
かしこに広がる埃に塗れたそれには
心に染み入る力はあるのだろうか
しかして、信じられぬ者たちには
救いはない
段々と現実の時間に追いついてきてます。ますます寡作になり、並べてみると、何とはなしに、走馬燈に映る映像を見るようです。これが何かを示唆してないことを祈って・・・




