真相
パスタ二皿とピザが運ばれてきた。ピザは山口くんが注文したものだ。
「丸山さんも食べて」
「え?」
「分けて食べよう。これくらい奢らせてよ」
「……じゃあ、一切れだけいただくね」
そう言って、ピザを一切れだけ食べた。それ以上は手をつけない。わたしから何かを話すこともない。
「丸山さん」
「何」
「『あんたのせいでいじめられてる』って言われた、あの言葉が頭からずっと離れないんだ」
十四年前、夏休みのこと。
「あのとき、丸山さん走っていっちゃって、そのあともずっと話せなかったから、謝れなくて……。ごめんね」
中二のとき、わたしが逃げてから、彼は追ってこなくなった。わたしに関わるのをやめた。クラスでも話さないし、三年生になったら隣のクラスになってしまった。
わたしたちはそのまま、一言も話すことなく卒業した。
「謝らなくていいんだよ。山口くんは何も悪くないから」
「でも、僕のせいだって……」
「人気者だったからね、山口くん」
山口くんを突き放してから、いじめはぴたりとなくなった。
「きつい言い方をしたけど、あのあと、わたしは平穏な日々を取り戻したよ。あなたが絡んでこなくなって」
「……阪本あやかっていう、同級生がいたのを憶えてる?」
「……さあ」
阪本あやか──わたしのことを、いちばん嫌いだった女だ。彼が保健室で出した名前の片方も、確かそうだった。
顔だけはしっかり憶えていたが、名前は忘れていた。
初めて山口くんと話したその日に、すぐに彼女が寄ってきて、「山口くんと何話してたの?」と、笑顔で聞いてきた。
「たいしたことじゃないよ」と答えたわたしの態度が気に入らなかったのだろう。
「あの日、丸山さんと話す前、教室で阪本と二人になった。『なんで丸山さんをいじめるんだ』って聞いたら、あいつ、『翔太があの子と仲良くするから』って答えたんだ」
「……じゃあ、なんで昇降口でわたしを待ってたの」
部活が終わって帰ろうとしたら、昇降口に彼がいた。
わたしはそのまま通り過ぎようとした。でも彼が呼び止めた。
「丸山さん……」
悲しい声だった。止まらないわけにはいかなかった。
「何か用」
「話があるんだ。帰りながらでもいいかな」
彼と一緒に帰ることは危険だった。犯人たちを刺激するとわかっていたからだ。
「ここでは言えないこと? あなたと歩きたくないんだけど」
わたしはどんどん冷たい声になる。
「じゃあ、場所変えよう。多目的教室が空いてると思う」
「あと十五分で完全下校だから、早くしてよね」
一階の端にある多目的教室は、数学の少人数授業のときしか使わない、「ほぼ空き教室」だった。机も最低限しか入っていない。
山口くんが先に入り、わたしはドアの近くで止まる。彼はまっすぐ立って、わたしをまっすぐ見た。
「僕は、上履きや教科書を隠した奴を知ってるんだ」
「へえ、それで」
「そいつらが、やめてくれる方法も知ってる」
「興味ないわ」
「……僕に、守らせてくれないか。丸山さんのこと」
山口くんはそう言って、わたしを見つめていた。わたしは見つめ返すがことできなかった。そうすれば負けそうだった。彼の奥に見える窓を見ていた。
「守るってどうやって?」
「丸山さんと、いつも一緒にいる。僕が」
一気に爆発して、それまで出したことないような大きな声が、気付いたら出ていた。
「あんたのせいでいじめられてるのに、そんな勝手なこと言わないでよ!」
そしてわたしは逃げるように多目的教室から出た。
彼はやはり追ってこなかったし、翌日からは話すこともなくなった。
「あのとき、ちゃんと言えればよかったんだけど……。阪本は、『いっそ付き合ってくれたら目障りじゃないのに』って言ったんだよ。だから、丸山さんと付き合って、僕がずっと守ろうと思ってた」
「そんな……知らずにわたし、怒鳴っちゃって……」
「いや、いいんだよ。きちんと言えない幼い僕も悪かったから。それに、振られたことで君を守ることができた」
山口くんは笑って言った。
わたしは何も反応できないまま、パスタをひと口食べる。
間が持たない。
あの頃のことはもうわかった。これ以上わたしには何の話題もない。食事を終えて店を出るだけだ。
「でも僕はちゃんと、丸山さんを一人にしない形で、守りたかったんだよ」
食べていたものを飲み込んで、水をひと口。
「……一人って楽でよかったよ。部活と勉強にだけ集中できたから」
「あの頃、ちゃんと僕が、好きだって伝えてたら、付き合ってくれてた?」
「……あなたのせいでいじめられてたのに?」
そう答えたら、彼が一瞬悲しい顔をした。すぐに目をそらした。
「だから、僕が守ってたって」
「あの頃は、あなたが近くにいるせいだって思ってたから、無理だったんじゃないかな」
「じゃあ……今なら?」
テーブルに少し身を乗り出して、山口くんはそう聞いた。




