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再会

 五月の連休は、一瞬で終わってしまった。週末に帰ることは容易だったが、何度も帰ると一人暮らしの部屋に戻るのが嫌になる。だから連休のときしか帰らないのだが、今回は実家を出るのが特に憂鬱だった。

 五日後に控える、じょーかーのインタビュー。

 山口翔太というマネージャーが、わたしの知っている山口くんだという確証はまったくなかった。

 でも、わたしの心はもう、再会することを期待しているのだ。

 憂鬱なのに、期待している。

 会いたくないけれど、会いたい。


 五月十日、石井さんとわたしはまた、二人で社用車に乗り、借りたスタジオに向かった。

 約束の時間の一時間前に入って準備。終わったら入口でお出迎え。

 十四時五十五分、じょーかーの二人が見えた。マネージャーと見られる、眼鏡をかけた長身の男性もいる。

「お待ちしておりました。本日、インタビューを担当致します丸山です。ご案内します」

 笑顔を作る。彼の顔をじっくりは見ない。


 スタジオに入る。

「どうぞ、おかけください」

 マネージャーには石井さんが椅子を勧めてくれて、わたしはとにかくじょーかーの二人に集中。

 売れなかった時代の話、優勝した大会の話、これからやりたい仕事。

 そして弊社商品について。

 インタビューは滞りなく進んだ。

「――では、本日以上となります。ありがとうございました」

 三人を出口まで送る。マネージャーの顔を見ないまま。

 出口に来た。

「車を回してきます」

と言ってマネージャーが外した。

「あいつ今日ぶっきらぼうだな」

 じょーかーのボケ担当・篠崎さんが言った。

「そうだねえ。いつももう少しうるさいんだけど。仕事の後はすぐダメ出しするのに、今日は静かだね」

 ツッコミ担当の林さんも言う。

「芸人じゃない女性がいる現場だから緊張したんじゃないの」

「ああ、山口ならありうるか。すいませんね、丸山さん。いつもああじゃないんですよ」

 林さんがわたしに向かって言う。

「気にしていません。普段の現場は、女性が少ないのですか」

「バラエティなら女優さんとかもいるけどね。あいつはマネージャーだから、話すこともないし」

「そうですか」

 やがて車が来た。

「じゃあ、丸山さん、きょうはありがとうございました」

 林さんがそう言って、篠崎さんと二人車に乗る。ドアが閉まる。わたしは深くお辞儀をして、それが出ていくのを待っていた。

 ところが、なかなか発車する様子がない。

 次に聞こえたのは、再びドアが開き、閉まる音だった。

「あの、丸山さん」

 体を起こすと、山口さんが立っている。

「今日はありがとうございました。うちの……じょーかーにインタビューしてくださって」

 彼は背が高い。見上げてしまう。

「いえ、あの、できあがったら、送りますね」

 彼が眼鏡を外す。

「……わかる?」

 わたしは黙って頷いた。

「よかった……。間違ってたらどうしようかと思った」

「お二人、待たせているのでは? 行ってください」

 声が震える。

「うん……。また、会える?」

「さあ。連絡先も知らないのに」

 山口翔太は眼鏡をかけ、胸ポケットから名刺を出す。

「会社のでしょう、それは。すでにあなたの連絡先は澤口を通して頂戴しました」

 わたしがそう言うと、彼はあらゆるポケットを探った。しかし、目当てのもの――おそらくメモとペン――は見つからない。

「……丸山さん、番号言って」

「は?」

「覚える。今夜電話する」

 

 スタジオに戻ると、片付けはほとんど終わっていた。

「遅かったね」

「すみません。マネージャーさんが車を回してくるのを待っていましたので……。片付け、ありがとうございました」

 すべての持ち込み機材を持って、駐車場に向かう。

 石井さんの運転で会社に戻る。

「……何かあった?」

「はい?」

 車の中で、長い間黙っていた。応える声が掠れた。

「元気なくない? それに今日は緊張してた。男慣れしてない?」

 石井さんがからかうように言う。

「いえ……。あ、いや。そうかもしれません」

「そう? 彼氏は?」

「いません」

「どれくらい?」

「五年くらいでしょうか」

「ふうん」

 わたしの話は嫌いだ。盛り上がれない。

「今日はなんであんなに緊張してた?」

「……そう見えましたか?」

「うん」

「どのへんが?」

「声が。ずっと変に上ずってただろ」

「すごいですね。うまくやったと思ってたのに」

「まあね。元演劇部だから声は聞けばわかる。で、なんでなの?」

「マネージャーさんが――」

 そこまで言って、止まる。なぜ、この人に話す必要があるのだろう。 

「あー、あの背の高い眼鏡の。あの人が? イケメンだったからか?」

 わたしは小さく「はい」と答えた。嘘はついていない。

「なんだ、丸山さんも女の子だな」

 そのまま石井さんは笑い飛ばしてくれて、それ以上は聞かなかった。


 仕事を終え、家に帰る。

 一人での食事。静かな時間。何もすることがなくなって、紅茶を入れて飲んでいたら、電話が鳴った。

 知らない番号だった。

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