受け継ぐ
月曜の朝礼で、大垣さんは取材の同行を命じられる。
「え、なんでですか。事務所が空っぽになりますよ」
「その日くらい僕がちゃんとここにいるよ、大丈夫だから行ってこい。丸山さんの仕事を見るチャンスだぞ」
瀬川さんはそう言って、大垣さんを説得した。大垣さんはまだ、わたしの後任になることを知らない。
そして金曜日、三人で車で行く。わたしは助手席ではなく、大垣さんの隣に座った。
「大垣さん、インタビュー案、目を通してくれた?」
「はい」
「わたしより芸能関係に強いと思うんだけど、今日お会いする原口ゆりさん、何か聞いておいたらいいこと、ないかな?」
原口ゆり──高学歴タレント。クイズ番組で活躍。趣味は勉強と公言している。
「ブログとか調べました?」
「うん、でも最後に見たの一か月前なんだよね」
「じゃあ、今見ます」
そう言うと、大垣さんはスマホを素早く操作して、原口さんのブログにたどり着く。
「一週間くらい前に、フランスに旅行に行ってますね。歴史雑学がいっぱい書いてある……」
「へえ、そうなのね。じゃあ今日タイミングがあればその話をしてみるね」
スタジオに着く。わたしたちは準備に取りかかる。
ある程度準備が整い、約束の時間の十五分前。
「大垣さん、お出迎え行ってきて」
「はい」
彼女を一人で行かせる。
「張り切ってんな」
大垣さんが出ていったあとで、石井さんが言う。
「そうですか?」
「引き継ぎか? 丸山さんは次期部長だろうから」
「え……まあ、そんなところです」
引きつった笑顔のまま答える。
やがて、大垣さんが原口さんとマネージャを連れて戻ってくる。
「こんにちは、お待ちしておりました。本日はよろしくお願いします。どうぞお掛けください」
最初はアイスブレイク。仲良くならないと取材はできない。
「最近フランスに旅行に行かれたそうですね」
「そうなんですよ、ブログ見てくださったのかな?」
「ええ、拝見しました。久しぶりのお休みだったんじゃないですか? クイズ番組では大活躍ですから……」
右からの視線を感じながら、わたしは取材を続ける。
取材は円滑に進行した。
最後に、弊社商品の話。
「トラベルグッズはだいたいこちらで揃えてますね。この間の旅行にも持っていきましたよ」
「ご愛用いただきありがとうございます」
最後に、新商品の試用で終了。
随所にフランス旅行の話が入り、取材はやりやすかった。
出口まで、大垣さんと二人で見送りに行く。
原口さんが車に乗って、帰られる。
戻りながら、大垣さんに言う。
「ありがとう。大垣さんのおかげでやりやすかった」
「いえ、そんな……。わたしはブログを調べただけですから」
「でも、今日いてくれなかったら、たぶん盛り上がらなかったよ」
部屋に戻る。
「原口さん帰られました」
そう言って、片付けに合流。
「ご苦労さん」
石井さんが応じた。
「さ、早く片付けて戻りましょ」
「丸山さん、今日なんか元気だな」
「そうですか?」
大垣さんは黙々と、商品を片付けている。下に向いていた気持ちがどうなったのか、表情からはわからない。
片付けが終わって、すべての機材や商品を車に積み込む。
「大垣さん、直帰でもいいよ」
すでに普段の退社時間を過ぎていた。
「あ、はい、じゃあ、これで失礼します。お疲れ様でした」
彼女は一人で駅に向かって歩き出す。
わたしは助手席に乗る。
「丸山さんも直帰でいいんじゃないの?」
石井さんが言った。
「まあ、そうなんですけど、今日は戻ります」
「なんで? 別に仕事残ってないでしょ? 片付けは俺やるし」
「話がしたくて。石井さんと」
言ってから、一瞬の間があった。
「……じゃあ、全部片付けたら、飲みに行くか」
「はい」
自分から、職場の人と話をしたいと思ったのは初めてだった。




