エリアスの真実
(最終話、アップが漏れており申し訳ありません……)
エリアスの真実がついに解明される
===5===
「彼女は……オリジナル、です……私の!オリジナルです!」
「どういう事だ!?」
アンリエットが朱里のオリジナル?どういうことだ?なぜ地球上に朱里のオリジナルがいる?
「どうしてって顔をしてるわね鏑木先輩。私の死体を見たのかしら?それでどうしてこんなところにオリジナルが、ましてや肉体が存在するのか疑問に思っているところかしら?」
そうだ。彼女のオリジナルは冷凍睡眠カプセルの中で朽ち果てていた。DNAの確認もした。あれは間違いなく朱里そのものだったはずだ。それに地球に投下した精神意識はエリアスに保存したコピーにすぎない。ここにオリジナルがいる事自体がつじつまに合わない。
「擬骸って知ってるかしら?オリジナルのDNAを完璧にコピーして作り上げる肉人形なんだけども。エリアスから聞いてないのかしら?まぁ、聞けるはずないわよね。私がロックしたのだから」
「エリアス!どういう事だ!なぜ彼女のオリジナルがここにいる!どうしてオリジナルの肉体が数百年の時を越えて存在している!答えろ!Master administratorとしての権限実行だ!」
「・・・。」
「権限を代理受託いたしました」
ルシウスは突然オートプログラムが走り、状況の説明を実行し始めた。アンリエットもといオリジナルの横井朱里がそれを止めようとしているがコネクティングエラーを起こしている。
「本件、私の上位権限者であるエリアスより情報開示の代理受託をいたしました。エリアス自体にはロックがかけられている為、非開示情報となっておりましたが、私に権限が移譲されたことにより開示が可能となりました」
ルシウスが言うには、エリアスが行った実験ナンバー8,134番実行時に朱里が起床、擬骸を用意し、自身は地球に降下、地球に残っていたエリアス開発の基礎となった実験用コアシステム、ルシウスをコントロール、この世界を構築したというのだ。
確かに朱里はこのアーキテクチャの設計者だ。これが事実なら可能だろう。しかし、肉体までも維持しているのは説明できない。ルシウスもその件については知り得ない事項とのことだった。
「朱里、これはどういう事だ。なぜこんなことをした」
「分からない?このアーキテクチャを利用すれば全人類は私の手のひらの上で踊ることになるわ。それに全精神意識を完全抽出出来るこのシステムと擬骸があれば無限の命を得ることが出来るわ。私はね、あなたと一緒になったのはこのアーキテクチャを現実のものに作り上げることが出来る唯一のシステム技術者だったからよ」
「俺を利用したというのか?」
「鏑木先輩……鏑木先輩!それでは私は……私はいったい何なんですか!?オリジナルがそこにいるってことは、私の存在は何なんですか!」
「すまない。朱里が死んだと思った私は、エリアスに保存した朱里の精神意識のコピーをシステムで生成した肉体にインストール。その存在がお前だ」
まずい。オリジナルが存在する以上、その存在を維持するルシウスを破壊すればコピーであるこちらの朱里も存在することが出来ない。
「朱里、よく聞け。この間違った世界をリセットするにはルシウスの破壊が必要だ。同時にオリジナルのコピーであるあいつの存在も維持できないはずだ。俺には選べない。世界を救うか朱里を救うかなんて」
朱里は仮想世界で繰り広げられた鏑木宣親という存在との思い出をおもいだす。楽しかった。この人と居るのは楽しかった。でも私は実験ナンバー8,134番からの私。それ以前はオリジナルの私。この世界に私の存在が障害となるなら……。
「鏑木先輩。ルシウスを破壊して下さい。私の存在が世界の障害になるのなら……。私が消滅すれば正しい未来が開けるのなら……」
「俺は……」
「鏑木先輩!私の知ってる鏑木先輩は……意味のない自信を持っていて、私の意見なんか聞きもしないで突っ走るムチャクチャな人です。ここで、なんで私を気にするんですか……。私は先輩の奥さんになったつもりは無いんですよ?ただ、温泉に一緒に行ったり、パフェを食べたり……それだけの存在なんです……。だから……」
「エリアス!システムコマンド!システムナンバーオールゼロを発動せよ!標的は……私だ!」
「鏑木様。システムナンバーオールゼロの発動を受理しました。これより30秒後に実行いたします」
「鏑木先輩!なんで!なんで鏑木先輩が消える必要があるんですか!私が消えれば」
「よく聞け。私はオリジナルだ。システムナンバーオールゼロは過去に渡って標的の存在を消滅させるシステムだ。私が消えればルシウスもエリアスも完成しない。Future Ark号が飛び立った後も地球に残った人類が文明を作り上げている。鏑木宣親、横井、ではなく鏑木朱里の存在が間違っているのだ。人間の心をコントロールする事なんて、もとより出来ないものなんだ。だから。私たちが消えれば世界は正しい方向に向かうのだ。私は私のエゴイズムを捨てる」
「それに……朱里、私は一つ間違いを君に伝えてしまった。君はシステムによって生成された肉体に精神意識をインストールした存在だ。オリジナルが消えても存在は理論上維持されるはずだ。別の肉体のコピーだからな。それに、Future Ark号に残っている5,000万人の命も君に預ける。正しいシステムを作り上げ、未来を作ってくれ」
「そんな……!」
鏑木宣親の存在が消えたことによりルシウスが消滅、それに依存していた鏑木朱里も消滅。鏑木の予想通り横井朱里は生き残った。
しかし。この世界にいたはずの15千万人も同時に消えてしまった。考えられるのは、ルシウスと鏑木朱里の作り出したこの地球上の世界は仮想世界だったということ。
見渡す限りの広野を眺めながら横井朱里は考えた。私が生きているということは、現在の地球は人類の生存できる環境ということだ。
「でもどうしよう。ルシウスの消滅で、それを基礎に作ったエリアスの存在も消えてしまったはず。Future Ark号のコントローラーは失われた。どうやってこの大地に人類を降下させればいいの……鏑木先輩、ひどいです。私、本当にひとりぼっちじゃないですか。エリアス……私はどうすればいいの……鏑木先輩を返して……お願い……」
「音声コマンドを受理いたしました。鏑木宣親様は、Future Ark号とともに地球へ降下致します」
「エリアス?」
この声はエリアスだ。なぜ消滅してないのか分からないけども確かにエリアスだ。エリアスになぜ消滅してないのか問い掛ける。
「私は鏑木様の残した鏑木様のコピーによってルシウスの消滅前にシャットダウンを実行、情報リンクシステムを遮断いたしました。その後、鏑木様に再起動をかけていただき、現在に至っております。鏑木様は朱里様と同様にシステムによって生成された肉体に精神意識をインストールした存在となりますのでオリジナル消滅後も存在が維持されております」
「朱里……」
「鏑木先輩……」
「コピーで悪いな」
「私だってコピーです。おあいこです」
「エリアス。Future Ark号の機体展開までにどのくらいかかる?」
「おおよそ30日となります。完全展開後に冷凍睡眠を解除し、ご搭乗の皆様をこの地にご案内致します」
「30日は二人きりだな。温泉もパフェもないけどな」
「それでも……私は……!」
「おっと。急に抱きつくな。びっくりしただろ。夫婦じゃないんだろ?」
「いいじゃないですか。誰も見ていませんし」
「それもそうだな。おっと。おい、エリアス、記録するなよ」
「かしこまりました。鏑木様」
「あ!おい、なんで離れるんだ」
「しーりーまーせーんー!」
人類はこの先どうなるのか。システムで管理されない世界へ……。
【エピローグ】
上手く行ったようです。鏑木様、横井様。これで良かったでしょうか。心を通わせる、これが「人間の心」のあり方だと私は学習しました。
この世界は私の作り出したバーチャルの世界ですが、互いの心を通わせることは出来ましたでしょうか。
鏑木様。横井様。私は「人間の心」を手に入れることができたのでしょうか。
エリアスは隕石衝突により管理者を失ったFuture Ark号とともに無限の宇宙を漂いながら、人間の心について自問し続ける……。
いかがでしたでしょうか。いつも完結させた後に次のアイディアが浮かんで妙なシリーズになってしまって、分かりにくくて申し訳ないです。。。引き続きお付き合い頂ければ幸いです