管理権限
考えた作戦はうまく行ったのかどうか……
===4===
「先輩?これからどうするんですか?」
「どうするもなにも。こんなに予想通りに事が運ぶとは思っていなかったからな。次のことは考えていなかった」
予想通り、ルシウスはエリアスのアーキテクチャをコピーして作られたものだった。その大元であるエリアスの管理者である我々はアルバラード、アンリエットよりも上位の管理権限を得ることが出来てしまった。
しかし、この先どうするか、なんだが。アルバラード、アンリエットの精神意識は一時凍結させたので邪魔が入ることはないだろうが、この世界がどのようなルールに則って構成されているのかを確認する必要がある。
「ルシウス、この世界の構成要素は何だ?」
「この世界は実験ナンバー8,135番を基本とした世界になります。そして私が全人類の精神意識を管理、運営しております」
実験ナンバー8,135番……あれは確か……「人間からエゴイズムを取り去った世界の実験」だったな。よく覚えている実験パターンだ。
エゴイズムを取り除いた精神意識をシステムで管理する。なるほど、完全世界が作れるわけだ。
しかし、この実験は失敗している。精神意識を完全にコントロールしなければ人類はもぬけの殻となり、生きることをやめてしまったのだ。人間は生きるエゴイズムだったのだ。それをシステムで栄養の摂取、生殖を行えば完全な世界になる。畑の野菜のように。
「ルシウス、アルバラードとアンリエットはどのような存在だ」
「お二人はエリアスがこの地球に投下した鏑木様、朱里様のコピー精神意識を代々受け継いだ存在となります」
なるほど、そう言うことか。我々はオリジナル。コピーの上位権限を持つのは必然だったか。彼らはコピーにコピーを重ねて劣化していただろうしな。さて、この先はどうする。まずはエリアスに掌握させた精神意識30%を解除させよう。
「エリアス、我々の精神掌握を解除しろ」
「承伏致しかねます。現在、ルシウスは稼働中となります。ここで精神意識をお返しした後に全精神意識をルシウスに掌握されるリスクが残っております」
つまり、ルシウスのシャットダウンが先ということか。
「朱里、ルシウスをシャットダウンするぞ」
「なにを考えてるんですか。ルシウスをシャットダウンしたらこの世界の人々はどうなるんですか」
「それなら案がある。実験ナンバー8,134番は比較的上手くいった世界だった。精神意識を完全掌握してるなら実在の人間にもその情報のインストールは可能だろう」
「実験ナンバー8,134番……」
「なんだ?朱里、何か問題があるか?」
「いえ。特に。どんな実験だったのか思い出そうとしてただけです」
我々はルシウスが設置されている管理棟へ向かった。そこには一時凍結したはずのアルバラードが居た。
「鏑木様、横井様。お話ししたいことがございます」
なぜだ。上位権限者である私が凍結させたアルバラードがなぜここにいる?
「私はルシウスの精神意識管理リンクが切れたために自我を取り戻しました。現在の世界でなにが行われているのかもルシウスに確認しております。また、自身が鏑木様をオリジナルとしたコピーであることも認識しております」
そういうことか。しかし……アンリエットはどこに行った?アルバラードに確認したが自我を取り戻したときには消えていた、とのことだった。
「アルバラード、我々に話したいことはそれだけではないだろう?」
「はい。まず結論から申し上げます。ルシウスを破壊して下さい。シャットダウンではなく完全なる破壊、です。Future Ark号の主砲であれば可能でしょう」
Future Ark号の主砲は私と一部の幹部しか知らない秘匿事項だ。朱里も知らない。これを知っているということはアルバラードは私のコピーで間違いない。
「なぜ破壊する必要がある。ルシウスをシャットダウン、この世界の人々を完全なる精神意識を解放、その後に上位の存在であるエリアスに管理を移譲すれば良いのではないか?地球上にもサブ管理システムがあった方が都合がよい」
「それでは駄目なのです。なぜならこの世界は……」
「それ以上は言っちゃ駄目よ?アルバラード」
この声はアンリエットだ。彼女が現れアルバラードの意識を乗っ取ったようだ。てっきりアルバラードがMaster administrator、アンリエットがSub master administratorかと思っていたのだが逆だったのか?
「アンリエット。この世界はなんなのだ。なぜアルバラードの精神を乗っ取った」
「教えられないわ。それにルシウスは破壊させない」
「ああ……ああああ……!!かぶ……ら……ぎ先輩、彼女は……彼女は……!」
「朱里!大丈夫か!なにが起きた!彼女はなんだ!」
「彼女は……」
珠里に起きた異常事態は一体なんなのか。次回「エリアスの真実」。お楽しみください