作戦
Future Arc号に乗船する人類が無事に地球に降り立つには……
===3===
エリアスの解析の結果、模造品である可能性が高いとのことだった。そこから導き出されたこの世界の状況……それは ルシウスという存在は多数の精神意識をトレースするのではなく、少数の精神意識を完全に掌握、コントロールすることに特化した存在のようだ。この世界の管理者はモンスターだな。全て自分たちの思うがままに人類をコントロールしている。
「鏑木先輩。これは厄介ですね。国民をこちら側につかせることは事実上不可能です。数の上では15千万人と5千万人の差があります。ここは穏便にことを運んだほうが良いとは思いますが、数の差を打ち砕く戦法を……」
「なんでお前はそんなに好戦的なんだ。相手は犯罪者じゃないぞ。それに俺たちは今、警察官ではない。冷静に考えろ」
「鏑木先輩がまともなことを言うなんて、明日槍でも降るんじゃないですかね」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ。さて、エリアス、どうだ。この環境下で我々は適合出来ると思うか?」
「鏑木様、珠里様。結果から申し上げますと可能です。ですがそれはルシウスの管理可能な人口、かつ、完全管理下に入ることが条件となります。この条件を逸脱するとバランスが崩壊、同時に世界の崩壊に繋がる可能性が計算上、高くなっております」
ここで考えられるパターンは4パターンほどか。
(1)エリアスの計算通りにルシウスの管理下に入ってこの世界で暮らす。その場合には選別外の人間は宇宙空間で冷凍睡眠を継続してもらうことになる
(2)アルバラードの警告を無視してこの世界のを意図的に崩壊、我々の文明で上書きする。その場合には争いが起きて、この世界の15千万人、我々の何割かの人口を失うことになるだろう。
(3)ルシウスをエリアスの管理下に置き、我々がアルバラードの上位権限者としてこの世界をコントロールする
(4)我々はFuture Ark号に引き上げ、再び新天地を求めて宇宙の大海原に漕ぎ出す
最も犠牲者のでない案は(3)になるが……。あの管理棟はシールドが張られておりエリアスのリンク機能は使えない。その部分の文明レベルは彼らのほうが上というわけだ。逆にルシウスにエリアスをコントロールされないように対策を考える必要があるな。
私はエリアスに保存している自身の精神意識をシステムで生成した予備の肉体にコピー、管理室にてエリアスの状況トレースを指示した。最悪の場合はエリアスをシャットダウンしてルシウスのコントロール下に入るのを免れる算段だ。
「珠里。まずはルシウスのアーキテクチャの解析から入ろうと思うが、そのための手段は思いつくか?」
「先輩がわからないことを私が思いつくと思ってるんですか?そんなの聞けばいいじゃないですか。知ってる人に。そうですね……、ルシウス本人とかに。なんて無理ですよね」
「……それだ。エリアスの管理システムは2人以上のコントロールを受け付けない。それをコピーしていると思われるユリウスも同様だ。だがしかし、あのシステムは問いかけには禁忌事項で無い限り答えるはずだ」
「でもどうやってあの管理棟に入るつもりなんですか?」
これは一つの賭である。自らをルシウスのコントロール下において欲しいと志願する。ルシウスがエリアスのコピーであれば管理者の我々は完全に掌握する事は出来ないはずだ。仮に失敗した場合は私のコピーに仕事をさせるしかなくなるだろうが……朱里の肉体コピーも作っておくべきか。しかし、自ら命を絶った朱里を蘇生させるようなことをしても良いものか……。
「エリアス、我々の精神意識の30%ほどを貴様に掌握させることは可能か?」
「可能です。しかし、意識権限の返却時にオリジナルの精神意識と誤差が生じて記憶が混濁する可能性が考えられます」
意識の30%をエリアスに保護して貰えばルシウスに100%精神意識を掌握されることは回避される算段だが上手く行くだろうか。しかし、現時点ではそれ以外に方法がない。
「エリアス、そのリスクは承知した」
「ちょっと!先輩!勝手に話を進めないで下さい!これからなにをしようとして、結果どこを目指すのか教えて下さい!」
「ああ、伝えていなかったか?」
「聞いてません!」
「そうか。説明しよう」
私は朱里にこれからの計画概要を説明した。
・大前提としてエリアスは絶対死守。あれがないと我々の勝ち目はない
・エリアスに自分の精神意識と肉体のコピーを配置、万が一の事態はエリアスをシャットダウンする
・エリアスに自分たちの精神意識30%を掌握管理させて、ルシウスの100%管理下に置かれるリスクを回避、その上でこちらからルシウスの管理下において欲しいと願い出る
・恐らくエリアスのコピーであるルシウスは、我々を完全に掌握する事は出来ない。管理者権限としての機能がそれを阻害するはずである
・あわよくばコピーの大元であるエリアスの管理者である我々は、アルバラードとアンリエットよりも上位の権限を保持できる可能性がある
・最後に、エリアスに精神意識の30%を掌握させるので、それの返却時に記憶が混濁する可能性があることを忘れるな
「うっわ。全部憶測じゃないですか。その自身どこからくるんですか?」
「のどから?」
「鼻からでもなんでもいいですけど病気なのは分かりました」
このやりとり、懐かしいな。しかし、現在把握している事項は、この世界の住人はルシウスに完全掌握されており、管理者であるアルバラードとアンリエットの意のままという事実だけだ。予想に基づいて行動するほかに手段はない。
「朱里、それでは作戦を開始するぞ。準備はいいか?」
「ダメって言っても開始するんですよね?先輩を信じます。頼みます」
朱里からの返事を聞いてエリアスに指示を出す。
「エリアス、まずは我々の精神意識をシステムリンク、30%を掌握してくれ」
「鏑木様。音声コマンド受諾致しました。指示を実行致します」
次回「管理権限」