文明
地球へ降り立った鏑木たちは……
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「ようこそ。地球へ。私は現在の地球で管理者を承っております、ルシウス・ヘム・アルバラードと申します。この度は遠路はるばるお越しいただきましてありがとうございます」
このアルバラードという管理者には私や珠里の面影はない。それに日本人ではないな。また、管理者という言葉が出たということは、この世界も何らかのシステムによって管理されている可能性が高い。
「ご丁寧にどうもありがとうございます。私の名前は鏑木宣親。今回、私達は争いに来たのではなく、平和交渉を行うためにやってまいりました」
「そうですか。それではまず、貴殿の旗艦にマイクロレーザーの照準を解除いただきたく思います」
「これは失礼した。エリアス、聞いてのとおりだ。解除しろ」
エリアスは地球上に強大なエネルギーを察知、承服しかねる計算をしていたが管理者の指示は絶対だ。
「それは鏑木様。まず確認いたしますが、あなた方は数千年前に地球を離れたという人類の末裔でしょうか?」
「アルバラード殿。一つは正解だがもう一つは不正解となりますな。確かに我々は以前地球が人類の生存する環境に適さない状況下で新天地を求めるべく一部の人類を乗せて旗艦Future Ark号で宇宙へと飛び立った人類だ。不正解の方は、我々は冷凍睡眠に入っており、当時の人類そのものであるということだ。今度はこちらから一つ質問をよろしいか?」
「どうぞ」
「この世界は巨大な管理システムによってアルバラード殿が管理維持されているということでしょうか?また、そのシステム管理下でこの世界は争いのない継続可能なものとなっているのでしょうか?」
まずは状況確認だ。このアルバラードなる人物が管理者ということなら万が一が発生した時は……。それにこの世界が成功世界ならそれも必要がないかも知れない。
「そのとおりです。この世界は『ルシウス』というシステムによって管理されており、私がそのマスターとなります。また、お気づきかと思いますが、現在の文明強度は我々が貴殿のそれを上回っている状況かと思います。それと……この世界が継続可能なものか否かについてですが、少なくともルシウスの管理下に置かれた後の550年は成功の世界になっていると確信しております」
ふむ。。。まずは状況の整理だ。地球は我々がFuture Arc号を建造、地球周回軌道に乗ってから数千年後の世界。最後に確認しているのは西暦2018年相当の文明に達した地球だ。そして西暦2,868年に『ルシウス』が完成、管理を初めたということになる。恐らくこのアルバラードは『ルシウス』設計者の末裔にあたるのだろう。基礎がエリアスであれば、プログラム構築者DNAをトレースする必要があるからな。
「一つこちらからの要望があるのだがよろしいか?我が旗艦より、もうひとり助手を降下させたいのだが」
「良いですよ。歓迎いたします」
エリアスに保存した珠里の精神意識を、培養した肉体にインストールさせ、地球上に派遣させた。
「また、あなたと仕事ですか……。いい加減飽きてきましたよ」
「珠里、コレは仮想実験ではない。現実世界だ。我々が宇宙に離脱してから築き上げられた世界だ」
「だったら尚更ですよ。私はあなたの奥さんじゃないんですからね?」
なるほど。コピーした精神意識は実験ナンバー8,134終了時の横井珠里としての精神意識か。なら自身が副管理者であることも認識しているはずだ。これは僥倖だ。
「あ、いや。これは失礼した。まずはこの世界の状況をより詳しく教えてくれないか?」
まずはルシウスがエアリスのコピーであることの確認を行いたい。もし同じアーキテクチャであれば理論上は私も操作出来る可能性がある。
「良いですよ。それではまず、この世界を管理するルシウスに会いに行きましょう」
確かにこれは以前の地球に似た文明だ。遥かに高度なものになっているが。私の理論上の産物まで現実化している。
「お待たせいたしました。こちらの管理棟にルシウスのメインフレームがございます。大変恐縮ですがボディーチェック並びに着替えをしていただきます。身につけている全ての者をあちらの籠にいれ、このスーツをご着用ください。準備が出来ましたらお声がけいただければと思います。
「鏑木さん。私なんであなたの奥さんってことになってたんですか。それになんで同じ部屋で着替えようとしてるんですか」
「いいじゃない。夫婦なんだし。エリアスもそう言ってただろ?」
「い・い・か・ら!出ていってください!!」
「鏑木様?」
「大丈夫だ。こちらの問題だ……」
案内された部屋からは巨大な人工構造物が窓越しに見える。見た目はエアリスに似ている。このシステムをエアリスにトレースさせようとしたがこの管理棟はリンク機能を完全に遮断するシールドが張られているようだ。
「初めまして。私はルシウス副管理者のルシウス・ヘム・アンリエットと申します」
「初めまして。失礼ですがアルバラード殿の奥様でしょうか?」
「残念ながら違います。ルシウスの管理者は必ずルシウスなのです」
なるほど。名を引き継ぐしきたりというわけか。珠里は更衣室で指示した通り、ルシウスに権限者認証の音声コマンドを入力していた。コピー品であれはマスターキーは同じはずだ。珠里が目配せを私に向けている。予想は当たった。ルシウスはエリアスのコピー品。私達もルシウスをコントロール出来ることになる。しかし、このシステムは2人以上の管理者を受け付けいない防御システムが存在する。現状ではなにも手は出せない。
ルシウス管理室から応接室に移動した我々は今後に向けての協議を開始した。現時点での私の理想はルシウスをエリアスの管理下に置き、アルバラード、アンリエットの気が付かない状況でこの世界を掌握することだ。
「さて。今後のことですが。貴殿の旗艦、Future Ark号、その他艦船にご搭乗の人類はいかほどの数でしょうか?」
「5,000万人となります。全員当時の記憶のまま冷凍睡眠に入っております。新たな惑星が発見された場合には10,000人単位の輸送船で着陸させる事になっておりました」
「なるほど。それは多いですな。我々の現在の環境下人口の三分の一に相当する数です。全員を現在の地球でルシウスに管理させるにはリソースが足りない可能性がございます」
なるほど、これは選別が必要になるな……。と、それより重要な情報だが、ルシウスは2億人の精神意識をトレース出来ないということになる。エリアスは最大で50億人の精神意識をトレース、管理下に置くことが可能だ。それなのに、なぜこちらの世界がの方が文明が進んでいる?
街を散策してみてはいかがか?とアルバラードの提案で街に出てから答えはすぐにわかった。
次回、「作戦」。お楽しみに