001 出会いは運命的に(1)
ドン、と体全体にのしかかった重みに、俺は一瞬で意識を覚醒させられた。
「――ぃ……痛ッ~!」
獣か何かが飛び乗ってきたのか!?
……と、驚いて反射的に体を動かしたところ、ベッドのヘッドボードに頭をぶつけてしまう。目眩がしそうな衝撃が、俺を余計に混乱させた。
「な、な……なん、だ?」
頭を打った痛みで目尻に涙を溜めながらも、俺はおそるおそる胸の上にうずくまっている物体を確かめた。まだ夜明け前で暗がりだが、その美しい金糸はどこか神秘的で目立つ。――ひとの髪の毛だ。
こちらに伝わってくる重みと、目に映る体のシルエットから、“それ”の体躯はやや小さく華奢であることがわかる。性別は女性、おそらく年齢は人間種を基準とすれば十代半ばくらいだろうか。
――少女が、俺の体の上に乗っかっている。
その事実は認識できたが、理由が意味不明すぎて、俺はぽかんと口を開けたまま硬直してしまった。部屋の鍵は閉めていたので、ここに入ってくるには宿のオーナーが所持している合鍵を使うか、もしくはピッキングなどで開錠するしかない。どちらにしても、そこまでして俺の部屋に侵入して――強盗するわけでもなく、ベッドで寝ていた俺にダイブをかますというのは、合理性がなくありえない話だった。
……なぜ、こんなことになっている?
頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。常識を超越した出来事に見舞われると、どうやら人はかなりポンコツになるらしい。
ほぼ三十秒近くもその状態で困惑していた俺だが、さすがにこのまま朝まで過ごすわけにもいかないので、意を決して少女にコンタクトを取ることにした。
「……お、おい。お前、生きているか」
おっかなびっくり、肩を揺すってみる。これで死体だったらどうしようかと思ったが、声掛けに反応してわずかにうめき声を上げてくれたので、一安心する。
少女がゆっくりと頭を持ち上げた。金の艶やかな髪の毛はさらりと流れ、耳が露出する。――人間よりも、とがった特徴的な耳。その形はエルフ種族のもので間違いなかった。
ぼんやりと、眠そうな目で、エルフの少女は顔を見せる。
半眼状態の表情だったが、それでも顔のパーツや輪郭から、容姿が端麗であると判断できた。エルフ種族は美しく整った顔立ちが多いことも特徴だった。少なくとも人間基準からすれば、眼前の女の子は間違いなく美少女だろう。
「ぅ……んー……?」
少女はぼーっとした様子のまま、言葉にならない声を漏らす。状況をまったく呑みこんでいないようだ。もっとも、さっきまでの俺も同じようなものだったので、人のことを言えなかったが。
何から話そうかと、しばらく黙って顔を合わせていると、ふいに少女は目を大きく見開いて、初めてまともな言葉を紡いだ。
「――だ、誰だアンタ?」
「それはどう考えても俺のセリフだ」
微妙に女の子らしくない口調で、ぶしつけに尋ねてきた彼女に、俺は呆れたように言葉を返した。
――それが、俺と彼女との初めての邂逅だった。