初めてミケーレの手料理を食べる
本日2回目の更新になります。
ストックがないので、今日はここまでになります。
「うん、そしたら食べようか」
炊いておいたごはんをよそって皿の横に。
ミケーレにはフォークを、恵には箸を用意した。
「こっち座って」
言われた通り、恵の向かいに座るミケーレ。
出来上がったハンバーグを目の前にして待ちきれない様子。
「こっちは僕が焼いたので、こっちはミケーレが焼いたのだよ。じゃ、いただきます」
「い、いただきますにゃ」
「こうやってね、ハンバーグを小さくして食べてね」
フォークの横でハンバーグを切ってみせる。
ミケーレにフォークを渡すと、小さく切れたものから口に入れた。
「おいしいにゃ。こっちもおいしいにゃ」
「でしょ? 焼き方を間違えなければ、僕の焼いたものと変わらないのができるんだ」
「うん。覚えたから、もうあたしが焼けるにゃ」
「明日からは色々料理を教えてあげるからね」
「ご主人様のところに来てから、いつも美味しいのが毎日食べられて。あたし幸せだにゃ……」
ハンバーグを頬張りながら、とろんとした目をして食べ続けている。
「ほら、ごはんも一緒に。オニオンスープも飲まないと」
「ごはん? おにおんすーぷ?」
「そう、その小さな粒のつやつやしたのが、こっちでパンと同じように食べられてるごはん。こっちが、玉ねぎで作られたスープだよ」
「玉ねぎをオニオンっていうのですかにゃ?」
恵は本来猫に玉ねぎは厳禁だったが、人に近い姿だったのですっかり忘れていた。
「そういえばレストランのハンバーグにも玉ねぎ入ってたけど、猫は駄目だって聞いたんだ。ミケーレ、身体おかしいことない? 大丈夫?」
「安心してくださいにゃ。村では玉ねぎ作って食べてたので、大丈夫ですにゃ。好き嫌いもありませんにゃ。特に肉と魚は大好物ですにゃ」
それを聞いて安心した。
最初見たときの子猫のイメージが強かったけれど、実は人に近い種族なんだな、と恵は思った。
食事が終わって、恵は異世界での移動方法のことを考えていた。
とてもじゃないけど、徒歩ではどうにもならない。
免許は普通自動二輪のみ、そうすると選択肢は決まってしまう。
それにこっちの公道でなければ二人乗りができるのだ。
早速ネットで調べてみることにする。
舗装されていないと思われるあちら側の道を考えるとやはりデュアルパーパスじゃないとダメだろう。
登坂力、悪路走行性、それとなんとなく気に入ったスタイリング。
色は青だと目立つと思い、白にした。
駅前に買い物へ行くのも時間短縮になるだろう。
選んだものは、ヤマハのWR250Rだった。
近くのバイク屋へ注文をして振り込みまで済ませておく。
あとはミケーレに留守番を頼み、バイク屋へ納車にいくだけにしておいた。
数日後、納車の連絡が入ると近くのバイク屋へ行くことになった。
まぁ、近くといってもタクシーで三〇分はかかるのだが。
「ミケーレちょっといってくるね」
「はい。いってらっしゃいませにゃ」
バイク屋へ着いて、やっとのご対面。
そこで少し困った恵。
恵の身長は一六八センチ。
平均よりは低いのだった。
そこで、このバイクはシート高と呼ばれるシートから地面までの高さが高い。
跨ってみると、両足のつま先がつんつん状態だった。
バイク屋の店主は。
乗ってるうちに慣れるよ、と言っていた。
免許を取ってからペーパー状態だった恵。
動画サイトである程度以上の乗り方は見てきたつもりだ。
あとは瞬間的な判断力とそれを問題に置き換えての正解。
それに身体がどれだけ反応するかが勝負だった。
ミケーレの分のヘルメットも買い、バイク屋を出た。
キュキュキュ、ドッドッド……
セルモーターを回し、エンジンがかかった。
ここまでは教習所での感じと変わらない。
クラッチを切って一速へ入れる。
かるくアクセルを吹かし気味にしてクラッチをゆっくり離すと走り始めた。
ドドドドド……
教習所で乗ったものと違い、身体の奥に響くようなエンジン音。
単気筒エンジンはトルクが太いので、恵でもエンストさせることはないだろう。
ゆっくり走る分では問題はなかった。
持ち前の運動神経で対応できる程度だったので、恵は一安心。
そのまま駅前まで出て、スーパーで合い挽きの肉を買っていく。
背中のリュックに詰めて家路を急ぐことにした。
ドドドド……ドッドッド……
カチッ
恵はイグニションキーをオフにするとエンジンが停止する。
よろけて立ちゴケしそうになるが、踏ん張ってなんとかサイドスタンドをだした。
「あぶねー。まだ大丈夫だろう、身長は伸びてくれる。あ、ミケーレただいま」
「お、お帰りですにゃ。ご主人様、それなんですかにゃ?」
「馬みたいなものかな。タクシーみたいに人が動かすものだね。あっちで移動するときに必要だから買ってきたんだ」
「馬ですか? すごい音ですにゃね」
「うん。慣れるしかないね。でも、これなら熊からも逃げられるくらいの速さで移動できるんだよ」
「ほ、本当ですか?」
ミケーレの尻尾が一瞬ぶわっと膨れた。
熊というフレーズとそれ以上の速さという部分に驚いたのだろう。
「うん。まず追い付かれないね」
恵はリュックから挽肉一キロをミケーレに渡した。
「はい、追加の挽肉」
「嬉しいです! これで今日もはんばーぐが食べられますにゃ! さっそく作ってきますのにゃ」
キッチンへ走っていくミケーレ。
「ほんと、ハンバーグが好きなんだな」
夕食にももちろんハンバーグが出てきた。
そろそろ焼き魚を教えないと毎日ハンバーグになってしまう。
明日はサンマあたりを買ってくるかな、と思った恵。
「そういえば、ミケーレ」
「はいですにゃ」
「前に教えた歯磨き、ちゃんとやってる?」
「はみがき? ってなんですにゃ?」
間違いなくど忘れしてるな、と。
「ちょっとこっちおいで」
「はいですにゃ」
洗面所へ連れていくと、まったく使われた形跡のないミケーレの歯ブラシがあった。
コップに水を入れて、歯ブラシに刺激の少ない子供用の歯磨き粉をつける。
「ミケーレ、ちょっとこっちきて。そう、鏡の前」
「うわ! これ、あたしがいるにゃ?」
鏡に映った自分を見て驚くミケーレ。
「ミケーレの村には鏡ってなかったの?」
「そんな高価なものはないにゃ。村長さんが持ってるかもしれないくらいだにゃ」
なんかちょっと不憫になってくる恵。
「鏡見ながらね、いーってやってくれる?」
「こうですかにゃ? いーっ」
「声に出さなくていいから。そうするとさ、歯の裏側を舌で触るとざらざらしてるでしょ?」
「はいですにゃ」
「それ憶えておいてね。じゃ、もう一回いーってして」
「いーっ」
「だから、声出さなくていいってば」
恵は優しく前歯を磨いてあげる。
「こうやってね、磨いていくんだよ。あと奥歯の方の表側と裏側全部磨いてごらん」
「なんか、ちょっとすーっとしてて、ちょっと甘いですにゃ。口の中泡が出てきて面白いですにゃ」
恵はミケーレに歯ブラシを渡すと、ミケーレは見よう見まねで磨き始めた。
「飲んじゃ駄目だからね。だいだいハンバーグの片面を焼くくらいの間磨いてね」
「ふぁい」
「よし、それくらいで、そのコップの水を含んで口の中でくちゅくちゅさせて吐き出して」
「ふあぃ。んく、むぐむぐ。ぷぁ」
水を吐き出したミケーレ。
「じゃ、さっきやったように歯の裏側を舌で触ってみて」
「はいですにゃ。むぐむぐ。あ、つるつるしてるにゃ」
「そう、それがうまく磨けてる証拠だよ。裏側と表側がちゃんと磨けたなと思ったら、下を伸ばしてちょっとだけごしごししてみて」
「はいですにゃ。えーっ」
舌をべーっと出して軽くこすっている。
「あとはもう一回水を含んでさっきみたいに泡を全部流してね。そしたら歯ブラシを水で洗って終わり」
「ふあぃですにゃ」
歯ブラシをコップに逆さまに立てるのを教えてとりあえず完了。
「口に手を両手を当てて、はーって息吐いて匂いかいでみな?」
「はーっ。すんすん。あ、いい匂いがするですにゃ」
後から聞くと、口をゆすぐ習慣はあっても歯を磨く習慣はなかったそうだ。
これを村に教えたらきっとみんな毎日やるにゃ、ってミケーレは言っていた。
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