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異世界から帰ってきました

本日1回目の更新になります。

 洞窟を進むと明るくなってきていた。

 その明るい部分を抜けると別荘の家に戻ってこれたようだ。

「よかった。ちゃんと戻ってこれたわ」

「はい。ただいまですにゃ」

「あ、冷たい……」

 恵はズボンが濡れていることを思い出した。

「あ、はい。ちょっと冷たいですにゃ……」

「ほら、ミケーレのから先にお風呂に入ってくるといいよ」

「そんな、ご主人様を差し置いてできるわけが……くしゅん!」

「駄目だよ、女の子なんだから。先に行ってくれないと僕困るから」

「では、一緒に……」

「ダメダメダメ! 女の子はそんなはしたないこと言っちゃいけません!」

「はい、ではお先に失礼しますにゃ」

 照れ笑いを浮かべているミケーレ。


 ミケーレが風呂から出ると、恵もシャワーを浴びてきた。

 洗濯機に洗剤を入れて、パンツとズボンを入れる。

「ミケーレ、君のそのごにょごにょも洗っちゃったら?」

「はい。あたしの下着も一緒に洗っていいんでかにゃ?」

「あ、はい。お願いします」

 ミケーレは洗濯機が動いているのを楽しそうに見ている。

「そんなに面白い?」

「はい。こうやって待っているだけで洗濯が終わってしまうにゃんて、信じられませんにゃ」

 聞くと川の側で泡立ちの悪い石鹸代わりのものを使い、その場で踏んで洗濯をするのだという。

 風呂は村に一か所だけあり、お湯を溜めていて家族ごとに交代で身体を洗うらしい。

 普段は川で水浴びをするくらいで、毎日入ることはなく行事があるときくらいだという。

 薪自体がお金に替えるもので、自分たちで使うのは贅沢とされているからだそうだ。

 聞けば聞くほど、生活水準も技術水準も違い過ぎる。

「でもご主人様の弓にはびっくりしましたにゃ。村にも弓を使う人はいますが、赤グマには傷もつけられにゃいのです」

 近隣の村の狩人でも、赤グマを倒せる人はいないんだそうだ。

 ということは、赤グマを駆除さえしてしまえば村は多少持ち直すのかもしれない。

 ただ、あの距離でもちびってしまうくらい怖かったのは事実だった。

「ところで、あの場所ってミケーレがいた村からどれくらい離れてるのかな?」

「そうですね。馬車でだいたい一日くらいですかにゃ」

 ゆっくり走ったとしても多分時速一〇キロほど。

 夜通し走るわけではないだろうから、一二時間としても一〇〇キロメートルちょっとだろう。

 恵は近くにあった無線LANで接続されているタブレットを取ってくると、熊の行動範囲を調べてみた。

 ヒグマのオスでも最大四〇〇平方キロを超えるんだそうだ。

 距離数にするとおおよそ二〇キロくらいを超えるくらいだろう。

 ならば、あの熊はミケーレの村へ現れたものではないということだろう。

 正直、ミケーレに頼まれたのなら考えなくもないが、進んでやることではない。

 恵は一番聞きにくい、だが重要なことをミケーレに聞いてみることにする。

「あのさ、ミケーレ」

「なんですにゃ?」

「ミケーレが奉公に出ることになったきっかけってなに?」

「お父さんに行ってくれって頼まれたのにゃ」

「その奉公先って決まってたの?」

「えっと、あっちにいったらいい子にしていれば、いいところを紹介してくれるって言ってたにゃ」

「奉公に出たのって、ミケーレみたいな女の子だけ?」

「そうですにゃ。他に小さいときから一緒だった子もいたのにゃ。みんな家族と長い間離れるのが嫌だったのか、泣いている子ばっかりだったのにゃ。あたしは頑張って働いて、家族を楽にさせてあげる夢があったから寂しくなかったのにゃ」

「そっか」

 あぁ、この子は売られたのかもしれない。

 もしかしたら、もう戻る家もないのかもしれない。

「あたしたちを迎えにきた人は、もう村には帰れないって言ってたけど。働いた分は家族にちゃんと送ってくれるって言ってたから安心してたんだにゃ」

「うん」

「前の日に、お父さんは何も言わないで泣いてたにゃ。お母さんがごめんなさいって泣いてたのがちょっと悲しかったにゃ。でも、あたしが頑張るのが当たり前なんだにゃ。来年成人するんだから、外で働くのが当たり前なんだにゃ」

 ミケーレは胸を張ってそう言った。

 ミケーレから聞いた断片的な情報。

 それを条件に当てはめると、正解が出てしまう。

 ほぼ間違いなく、人買い。

 奴隷商人だ。

 今回ほど嫌な正解はなかった。

「ご主人様、お願いがあるんだにゃ……」

 言いにくそうに恵の顔を見ながら。

 ついに来たかと恵は思う。

「何でも言ってごらん」

「あのですね」

「うん」

 恵は覚悟を決めた。

「あの、はんばーぐというお肉の作り方を教えて欲しいのにゃ。あまりにも美味しくて、口の中にじゅわーって脂が広がって美味しかったのにゃ」

「あ、はい」

「ダメかにゃ?」

「いいよ、今晩作ろうか」

「やったにゃ!」


 夕方、ミケーレにハンバーグの作り方を教えることにした。

 先に米の洗い方を教えて、炊飯器にかけておく。

 テーブルの上に買っておいた豚の挽肉、食パン一枚、ナツメグ、塩、コショウ。

 玉ねぎをフードプロセッサーに入れてみじん切りにする。

 パン粉を作るのに、電子レンジで水分を飛ばした食パンをフードプロセッサーで細かく砕いた。

 ボールに挽肉と玉ねぎとパン粉を入れる。

 調味料の分量はタブレットを見ながら適量に。

「これで準備完了。手を綺麗に洗ってからひたすら混ぜる。こうやって手の指からぐにっとはみ出すくらいに握りながらね」

「はい。ぐにーっ、ぐにーっ。あははは、面白いにゃ」

「うん。だいたい混ざったと思うから。こっちの皿に一個分、これくらいかな。それを手に軽く叩きつける」

 ぱんっ

「これを何度か繰り返して、中の空気を抜くんだよ。そうしないと焼いたときに割れちゃうからね」

 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ……

 ミケーレは見様見真似でやってみた。

「うん、いい感じだよ」

「はい、これで全部ですにゃ」

 ボールとフードプロセッサーを洗うと今度は焼き方を教える。

 フライパンにオリーブオイルを少し垂らして、加熱する。

「最初に真ん中を軽く押して窪ませる。中火、ってうん、これくらいの火でこれの音がなるまで焼く」

 キッチンタイマーを三分にセットしてスタートさせる。

 ピッピッピッ、ピーっ


 ピピピピ

「これでひっくり返して少し水を入れる」

 フライ返しでハンバーグをひっくり返してコップで水を少しいれた。

「またこれをセットして、蓋を閉める」

 キッチンタイマーをまた三分にしてスタート。

 ピッピッピッ、ピーっ


 ピピピピ

「よし、蓋を開けてひっくり返して、今度は強火。これくらいかな。周りの水分がなくなったら出来上がり」

 ジジジジ

「こんな感じかな」

 フライパンから焼けたハンバーグを皿に取り出した。

「う、うまそうだにゃ……」

 最初の四つは恵が焼いたから、次の四つはミケーレが恵に教えられながら焼いてみた。

 勘のいい子で、キッチンタイマーの使い方も押す回数を憶えていて見事に使いこなしていた。

 なんとか焦がさずに焼くことができた。

「やった、できたにゃ!」

 フライパンに残った油に、しょう油、ソース、ケチャップを入れて簡単なソースを作る。

 ハンバーグに垂らして生野菜を添えて軽く添えて、上からマヨネーズを少しかける。

「よし、あとはフライパンを洗って、このキッチンペーパーで拭いてから、油を軽く塗ったら終わり」

 言われた通りにフライパンを洗うミケーレ。

 その間にテーブルに皿を置いて、氷を入れたグラスにミネラルウォーターを入れておいた。

 インスタントのオニオンスープをお湯で作ると準備ができた。

「ご主人様、片付け終わったにゃ」


読んでいただいてありがとうございます。


ブックマーク、及びご評価ありがとうございます。

これを糧にがんばりますので、よろしくお願いします。


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