彼女の口から聞いた厳しい現実
本日4回目の更新になります。
少しだけミケーレの生い立ち部分を加筆しました。
夕食後にミケーレと色々な話をした。
まず、彼女のいた国は日本ではなく、この地球には存在しないところだった。
熊が時折村まで降りてきて農作物と家畜を襲う上に、今年の飢饉で食べて行くことが難しくなり、口減らしで奉公先に行く途中に事故にあったそうだ。
その道中、揺れた馬車から落ちてしまい、さらに深い谷へ転がり落ちてしまった。
数日辺りをさまよっているうちに、大雨に見舞われて洞窟へ避難した。
その洞窟の奥に行くと足を滑らせて坂を下っていくように落ちてしまった。
やっと止まったところが洞窟の出口になっていて、這いずって進んだら明るい場所に出たという。
お腹が減って動けなくなる前に、少しでも体力を温存できるように獣化して子猫になったとき、なぜかここの庭先にでたということだった。
優しい目をした恵を見て安心して近寄ったら、思い出したようにお腹が鳴ってしまった。
恵にごはんを食べさせてもらったあとに、聞いた家政婦を探しているということを聞き、あまりの嬉しさについ子猫の姿で言葉を話してしまった。
元々奉公先で働いてお金を家族に送るつもりだったらしい。
だから恵の求めはミケーレにとっても願ったりだったという。
ここまで話を聞いてすぐにある推測に辿り着いた。
そしてここの庭に、ここではない世界へ通ずるものができたのではないかと。
オタクにどっぷりな恵ならではのトンデモ発想だったが、ミケーレと会った事実から考えるとあながち間違いではないと思う。
この世のどこにも、どの歴史にも。
猫耳娘の情報などないからだ。
まだミケーレには見られていないが、恵の部屋の隣はコレクションルームになっている。
そこには猫耳系のフィギュアや、薄い本、ゲームなどが満載なのである。
恵は世間一般的に言われる(一部の人の間では)ケモナーだったのだ。
コスプレをしているのが好きなのではない。
あれは偽物だ。
空想上のケモミミ娘を愛し、愛で、そして崇拝する。
だが、それは他人には知られてはいけない。
紳士の嗜みなのであった。
一般的(だからごく一部の人の間で)ケモミミというと、犬耳・狐耳・うさ耳・たぬ耳などがあるが、その中でも猫耳を愛する恵。
だからミケーレと逢えたことは、天啓なのであった。
ちょっと残念だったのは手のひらが人よりぷにぷにしているだけであって、肉球じゃなかったことだ。
恵にとってそんなことは些細なこと。
耳と尻尾があるだけでごはん三杯はいけるのだから。
ミケーレの言っていた奉公先とは帰って来れるものだったのだろうか。
話を聞いた感じでは、口減らしで売られてしまったとしか思えなかった。
本来日本の歴史で口減らしというのはそういう意味もあるのだ。
このことは絶対彼女には言えない。
だからこそ、彼女には優しくしてあげようと、恵は思った。
ミケーレはとても明るく、一生懸命に目に入ったものを聞いてくる。
そんなミケーレが恵は可愛くて仕方がなかった。
恵には特定の彼女がいたことはなかった。
恵の母は有名な美容師で、テレビにもよく出るほどだった。
中学時代、恵は沢山の女の子に告白されている。
でもそれ目当てで近づいてくる女の子が殆どだと恵は認識していた。
恵のいいところを言う子がいなかったからだった。
一度恵の母の美容院に行ってみたい。
恵の母に会ってみたい。
そんなのばかりだった。
不思議な能力のおかげで恵は中学時代、成績はトップクラス。
運動はオタク気質のせいか、アーチェリー部に所属していた。
やりこみ系は得意な方だったのでそこそこの成績を収めていた。
それに見合った体力が必要なため、必然的にスポーツ全般が得意になっていた。
恵の場合、どの角度でどの強さで放つとどこに当たるか、ある程度だが正解が出てしまう。
それでも的に当たるということと、ファンタジー系小説にある弓は好きだったのでのめり込むことができた。
そんな恵でも、恵のことが本当に好きな子には出会うことはできなかった。
その後、高校に上がってあの事件である。
学校にいかなくなるのも仕方がないのかもしれない。
「ふぁ……あ、すみません」
ミケーレはとても眠そうにしていた。
「まだ九時回ったあたりか。あ、ミケーレのいたとこでは夜になると明かりをつけるなんてないのかな?」
「そうですね。ここまで明るいのはないと思いますにゃ」
この別荘にはゲストルームがある。
ミケーレにはそこを使ってもらうことになった。
「じゃ、部屋に案内するからおいで、ミケーレ」
「はい。ご主人様」
二階に上がると一番手前の部屋の鍵を開けた。
そこは一〇畳ほどの広さにセミダブルのベッド、テーブルに椅子、窓からは遠くに見える夜景が。
「うわぁ、こんな綺麗な部屋使ってもよろしいのですかにゃ?」
始めて見るベッドなど、ミケーレはあまりの部屋の綺麗さに驚いていた。
「うん。遠慮しなくてもいいよ。俺の部屋は一番奥の右側だから。何かあったら呼びに来てくれるといいよ。でも、鍵がかかっているところは無理に入ろうとしちゃ駄目だからね」
「はい、わかりましたにゃ。では、心苦しいのですが、お先にお休みさせてもらいますにゃ」
ミケーレはサマードレスの裾を両手で摘まんで挨拶した。
どこで覚えたのだろう、でもとにかく恵には可愛くて仕方がなかった。
「おやすみ。ミケーレ」
「はい、ご主人様」
恵は自分の部屋へ行くと、電気をつけてPCの電源を入れる。
目の前には六面の二七インチモニタが。
最近遊びでデイトレーダーの真似事をしていた。
会社情報や商品情報。
その他の要因からそれを問題に置き換えて、この株が上がるかどうかの答えを出す方法を考えている。
買うことはしていないが、いずれ的中率が上がるようにとここ一か月くらい試していたのだ。
今日も、予想していた株が上がっているかどうか見てみることにする。
十銘柄中八つが正解していた。
いずれスクラッチ宝くじではなく、こっちをメインにするようになるだろう。
スクラッチの宝くじは当たりを引き当ててしまうと、少し心苦しい部分があるからなのだ。
隣の部屋、コレクションルームは厳重な鍵がかけてある。
この部屋はそれ系のものは置いていない。
これは恵のこだわりでもあった。
間違ってもコレクションルームをミケーレが開けてしまうことはないだろう。
どんびきされるのが怖いというのもあったからだ。
恵は記憶力が極端に優れているわけではない。
英会話ができるかと言われたら、普通にはできない。
方法がないわけでもないのだ。
例えばハリウッド映画を英語版で見てみる。
今流れたセリフを問題として瞬間的にとらえる。
すると回答が頭に浮かぶので、言っていることは解るのだ。
しかし、話すことは出来ない。
日本語を英文に直す問題にしてみると、必要な英文は思い浮かぶ。
でも、発音ができないのだ。
そこまでの情報解析能力が恵にはない。
というより、養われていないというのが正しいだろう。
今までそういう必要性がなかったからだ。
だからメールでのやり取りなどはできるのだ。
一文づつゆっくり組み立てていけばいいのだから。
恵はそんなことを考えながらも、ミケーレがここにいる。
一人じゃない夜にちょっとだけ嬉しさを感じていた。
読んでいただいてありがとうございます。
ブックマークありがとうございます。