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神様の戯事 〜明治百二十年より〜

作者: 空蝉


「……で? なんか弁明ある?」


「申し訳ございませんでした、大地さん。」

あるなら聞くけど、と取って付けられたような台詞に背を走る冷たいものを感じて正座の状態から上体を倒した。つまりDO☆GE☆ZAだ。うっわ、古っ。


えー、どうしてこういうことになっているかと簡単に説明いたしますと、かくかくしかじかなんです。

伝わらないって? あらすじで大体分かるでしょ。そういうことですよ。


階段で足を踏み外して落下したら、我が弟大地くんの上に着地。

でも私は大地を下敷きにしてしまったことや、階段から落ちたことよりもあたりの風景が、何処にでもある一軒家の狭い階段から、何処となく時代遅れなハイカラなお屋敷の螺旋階段に変わっていたことが気にかかった。何故か風景と同時に私の服装も量産品のシャツとズボンから設えられた質のいい袴にチェンジされていたことにも戸惑い、暫く状況整理のためじっと頭を回転させていたら、痺れを切らした大地に一喝され、テンパるがままに「ここは何処ですか?」なんて怪しさ満載の質問をして、ヤバい奴を見る目で大地の部屋に案内され、大地くんに短時間で考えた現状を聞かれてもないのに慌てて説明して、この時代のことを大まかに説明してもらってやっと私が落ち着いたところだった。ふう。

結論で言えばこっちもあっちもそっちも大して変わらなさそうだった。……そっちって何処だろう。

服は袴だし、年号は明治百二十年なんて元の世界じゃありえないし、建物はハイカラだしで、散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がするのかと思えば、意外なことに世界の中心は日本……いや、ここ大日本帝国で、LEDもあればスマホもある。馬車も走っているけれど、新幹線や電気自動車もあるらしい。便利だ。


上体を起こして、大地の様子を伺うとあからさまに下敷きにした時にぶつけた後頭部をさすりながら私を見て溜息をついた。


「パラレルワールド、ね。まあ嘘じゃないのは分かるけど……それにしても突飛な話だね。これなら空から蛇が降ってきたとか姉さんが記憶喪失になったとかの方がまだありえそうだよ。」

「どうして私の記憶喪失と降蛇?の確率が同じなの? もしかしてこっちの大地も蛇が嫌いな感じなの?」

「あーここにいい感じの太鼓が。ちょうど中身も空でいい音が出そうだなー。」

「痛っ、痛いよ大地! ごめんなさい!」


ちょっと仲良くなれそうだと思って調子に乗ったらすぐこれだ。

向こうの大地と違ってこっちの大地にはスルースキルというものは備わっていないらしい。

ポカポカと(事実いい音が鳴るから私の頭は本当に空なのかもしれない……)情け容赦なく頭を叩いてくる大地に私は早々に白旗を揚げた。


ううっ、痛い。姉は強しの法則はどこに行った。私の友人は大抵姉に尻に敷かれているか、または姉として尻に敷いているのに我が家はそれに当てはまらない。八割がたスルーだ。無視ともいう。残りの二割? 二割は「邪魔」と一蹴される。つまり少しも相手にされない。お姉ちゃん悲しい。


「まあ僕の知る姉さんでないことは一目瞭然だから、あなたの話は信じてあげる。」

「わーい。上から目線だありがとう。」

「それよりこれからのことだよ。そのトリップとやらを皆にどう説明する訳? はっきり言っていくらあなたの中身の残念さを披露したところでこの科学の時代にそんな奇天烈な話を信じてくれる人なんて僕以外にいるとは思えないんだけど。」

「ですよねー。……いや、でも、もしかしたら……」


期待を込めた眼差しで大地を見るも、さっき僕以外にいるとは思えないと言われてしまったばかりだ。彼が特別なんだろう。なんやかんやで向こうでも姉弟仲良かったし。あれだ、姉弟パワーだ。以心伝心だ。阿吽の呼吸だ。……よく分かんなくなってきた。慣れないボケはやめよう。誰も突っ込んでくれなくて虚しくなるから。


「あなたの選択肢は二つだね。一つは洗いざらい話してしまうこと。二つ目は、元の世界に帰るまで、この世界の姉さんを演じ切ること。」


人差し指と中指を立てて大地は何処までも冷徹に現状を突きつけてくる。異世界トリップなんて未知の体験に何処となく地に足がつかない感覚でいる私とは違って冷静だ。


「前者ならこれから奇人扱いだ。勉強のし過ぎで気が狂った、とか言われそう。そうなればあなたが帰るまで、そして戻ってきた姉さんは腫れもの扱いって訳。後者なら、まあ、記憶喪失だとかいって誤魔化せばいいんじゃない。この世界のあなたを演じるのはあなたには無理だろうし。記憶喪失ってまだ起こる原因も治す方法もあんまり分かってないみたいだから、都合もいい。初めは居心地悪いかもしれないけれど、前者よりマシでしょ。あまりの豹変っぷりに引かれなきゃいいけどね。」

嫌な笑みを見せる大地。

お姉ちゃん、こんな弟に育てた覚えはありません。


誘導されている気がしないでもないけれど、どう考えたって選択肢は最初から一つしかない。

「それって、演じ切る一択でしょ。奇人扱いって、元の世界でも変な奴扱いされてばっかりだったのに、これ以上のレッテルを貼られろと? もう貼る場所ないよ。千客万来、満員御礼だよ。」

「そう。なら僕も協力してあげる。一人より二人の方がリアリティがあるでしょ。」

今までゴリゴリと私のライフポイントを削り続けてきた人物の言葉とは思えない優しい台詞。

流石我が弟大地よ! 私の目に狂いはなかった。やっぱりお前は優しい子……


「というかあなた見るからに単純そうだから、僕がいないとダメでしょ。母さんも父さんも騙されやすい方だけど、どんな節穴を持ってしもあなたの欠陥は見破ることができる気がする。」

「……。」

なわけないよね!

協力的な大地に一瞬目に涙を浮かべたけれど、それも一瞬で引っ込んだ。

僕がいないと、ってどんな俺様だよ! 僕だから、僕様なのかな? 間違ってないけどさ、ちくしょー。


「よろしく……」

「お願いしますでしょ、姉さん。」

今ここにドSな大地と可愛い子兎ことパラレルワールドトリッパー御雲の共同戦線が誕生した……!


……なんだこれ。



そういえば。

「ねえ、その演じるのは無理っていうこの世界の私って……?」

「容姿端麗……あ、これはあなたも同じか。じゃあこれなしで」

「いや、なしでとかないから。いいよ、容姿端麗って褒めてくれても」


これでも大学のミスコンで優勝したんだよ?あ、ミスコンって「ミスっているコンテスト」だよ? 「容姿と中身が合わない」「詐欺だ」って専らの噂だったんだから。全然嬉しくないんで優勝商品だったお酒は一人で消費したけど。推薦した友人許すまじ。


「財閥令嬢で、成績優秀、性格愛想人当たり良し、生徒自治会の紅一点で、学園の人気者。大和撫子、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花って形容がよく似合う人だよ。」

「わーお、こっちの私超ハイスペック。てかさらっと無視ですか。そのスキルどうしてもっと早く発動してくれなかったのかな。もう十数分早めの発動してたら私の脳細胞の平穏は保たれたのに。というかなんで私こっち来たんだろ。社会的にも明らか入れ替わっちゃいけない人物と入れ替わってしまった確信があるんだけど。元の世界で平々凡々な大学生ライフを過ごす私の人生設計は今何処へ?」

「男女問わず大勢の人から崇拝されてたね。イベントごとに大量の貢物が来て消費に毎回困ったものだよ。」

「それ何処のカルト教?! ヤバいやつじゃん! 貢物って……賄賂か。賄賂なのか! 何のか分かんないけど。」

「まあ流石にそれは嘘だけど。」

良かった。ここ数年で一番ホッとした瞬間だった。



いつも投稿してから、ミスに気付きます。

お読みいただきありがとうございました。

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