ブラザーCOMPLEX sideアニキ
―――いつからだろうか。
お前を誰にも渡せないと……強く、心が叫ぶ。
それでもまだ自制が出来る自信はあった。
……そう、あいつが現れる前までは―――――。
「愛佳です。はじめまして。よろしくお願いします!」
二家族の集まったホテルのロビーに明るい声が響く。
スッと伸ばした姿勢は、大人になりかけた均整のとれたスタイルを一層良く見せていた。
………子供だな。
最初の印象はそれだけだった。
女としては可愛い部類に入るのだろう。
だが、そんなことはどうでも良かった。親父が再婚したいと言い、再婚相手には連れ子がいるという。それならばそれでいい。上手くやっていく自信はあった。
ただ……―――――。
「翔良、勇雄。どうだ?あの二人と上手くやっていけそうか?」
親父が運転しながらオレたちに話し掛ける。
ホテルでの食事会の後、タクシーで帰るという二人を見送り、イサとオレは親父の運転する車に乗った。その車中でのことだった。
「ああ、大丈夫だと思うよ」
オレは適当にそう答えた。
「そうか、勇雄はどうだ?」
イサは食事会の間ずっと緊張していたようだ。その緊張がまだ残っているのか、興奮して話し出した。
「大丈夫だよ!それより親父、すごい美人な嫁さん見つけたじゃん!!親父にそんな甲斐性あったんだな!」
「なんだそれは、あるに決まっているだろう。失礼な」
………どうかな。
オレと同時にイサもそう思ったのか、会話が止まる。
オレはお袋似で、お袋は背の高い美人だった。昔はモデルをやっていたらしい。
親父は顔も身長も普通のどちらかといえば目立たないタイプだった。イサは親父似だろう。
お袋といい、今夜会った彼女といい、こういう普通さが美人にモテるのだろうか?
「……えーっと、なぁアニキ」
親父との会話が続かなくなったのか、イサがオレに話し掛ける。
「なんだ?」
イサは、すこし照れたように話し出した。
「愛佳……って子、すごい可愛いよな。あんな子が義妹になるなんて……オレ、すっごく嬉しいかも」
「――――………」
イサが、頬を少し朱くして話す。口元を隠すように置いた手は、少しはにかんだ顔を見せない為だろうか。
「なぁ、アニキはどう思った?」
イサが俺を振り向いた瞬間、感じたのは胸を掴まれるような圧迫感だ。
なんて顔をするんだ……―――。
頬を上気させて嬉しそうに笑うイサ。そんな顔をさせるのはあいつなのか。
「…そう……だな……」
オレはイサから目を逸らすと窓の外を見た。そして気付かれないように小さく息を吐く。
心臓が苦しい………。呼吸が上手くできない。
―――嫌な予感がする。
自分の中で何かが壊れていくような気がした………。