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ヴィアンカ・ベルトワーズ 2

「髪を全部結い上げてしまうと顔が隠せなくて嫌なの」

 そう言ったらご店主が怪訝な顔をしました。なぜ?と首を傾げたら、ああと納得したような様子です。

「注目を浴びるのがお嫌なのですね。奥ゆかしい方ですね」

 注目……そうね。可愛くない貴族令嬢もいたのかと見られるものね。人間十人十色。色々いるのです。放っておいて頂戴。


「では、こちらは如何ですか」

 取り出されたのは花とレースで飾られたボンネ。

「可愛い。ミラ、私が付けても可笑しくないかしら?」

「良くお似合いですよ」

「じゃあ、頂こ「へえ、今はボンネが好きなのか」

 頂こうかな、と言おうとしたところに低く澄んだ声が重なりました。頭上から聞こえた声に視線を上げれば、私の身体に触れるか触れないかというぎりぎりの距離に麗しい顔が!

「いやあああああ! 何でいるんですか!!」

「お前こそ何て声を出すんだ。すまない、店主。包んでくれ」

 突然現れ、私の肩を抱いてさらりとそう言うのは、私の婚約者その人リオナルド様。

 お顔を見るのは五ヶ月振りです。お元気そうです。そして相変わらず何て嫌みなくらい見目麗しく整った顔でしょう! 何様ですか! ああ、公爵子息様でした。

「プレゼントでございますか」

「ああ、支払いは此方でする。それからこれとこっちのも包んでくれ」

 上品な細工の金のバレッタと宝石ののった大きなリボンを長い指が指し示します。実はそれらは私もいいなと思っていたものです。

「どうした? 好きだろう? こういうのが」

「そうですけど! 自分で買うので勝手なことはしないで下さい!」

「ヴィアンカ」

 にっこりと。それはもう蕩けるような笑顔を向けられました。なんてこと! 自分を格好いいと自負している男なんて最低よね!

「五ヶ月振りに会えたんだ。贈り物をするくらい赦してくれ」

 一気に火照る自分の顔。

 うう、しかもその作り物の笑顔にときめいてしまう私も最低ね。思わず視線を逸らせてしまったらちゅっと音をたててこめかみに口付けが。いやあああああ! なんてことを! 人前で!!

「これはこれはお熱いことで。すぐに包みますので少々お待ちください」

 ご店主が店裏に下がるとリオ様は殊更意地悪そうな顔をします。

「呆けていると可愛くないぞ」

「お、大きなお世話です! 可愛くないのは充分承知しています!」

「どうした? 暫く会わないうちに性格が可愛くなくなったな」

「ですから、お・お・き・な・お・世・話!です!!」

「ははっ。その顔は可愛らしいな」

 ぷいっと顔をそらせば楽しそうな笑い声。なんですって!? 可愛い? 可愛いって言いました!? 貴方こそ暫く会わないうちに頭が可笑しくなったのではないですか!?


「ヴィアンカ」

「あっ……」

 恥ずかしい!! 何で耳元で低く囁くのですか! 思わず変な声が出てしまったではないですか!

「伯爵邸に戻ったら」

「え?」

「俺を避けた理由とお前が変わった理由をたっぷりと聞かせてもらうからな?」

 いやあああああ!!

 腰が抜けます! なんて声で囁くのですか! ドスの効いた声ってこういうのを言うのでしょうね。怖いわ! 思わず耳を押さえてしまいました。

「戻るってなんですか!? リオ様もいらっしゃるのですか!?」

「当然だろう。その為に半日休みを無理矢理もぎ取ったんだぞ」

「まあ! お仕事を放棄なさるなんて男性として最低です」

「おい、そこは゛私の為に゛って感激するところだろう。本当に可愛くなくなったな」

 リオ様は怪訝そうに眉をひそめます。そうでしょうとも。最後にリオ様にお会いした時には私は貴方に心酔していて、暫く会えないと泣きましたものね。建前でもそんな事を言われれば「嬉しい」って頬を染めましたわ。でももう、そんな私はいないのですよ!

「私のことは放っておいて下さい」

 そうしてさっさと婚約破棄して、次の女性のもとへ行って下さい。

「そういう理由をたっぷりと訊きたいと言っているんだ」

「ひゃあ!?」

 なに!? 何をしました!? 耳舐めました!? なんですかこの人! 痴漢です!!


「お待たせいたしました」

 キッとリオ様を睨んだところでご店主が戻られました。さっさと支払いを済ませると私の手を「行くぞ」と引きます。何て強引でしょう!

「ちょっと待って下さい。まだ買いたいものが……」

「何だ、まだあったのか。どれだ?」

「そこの白いリボンのバレッタを」

「ちょっとお前のイメージに合わないぞ?」

「いいんです! ミラへのプレゼントですから」

「お嬢様、そんな……」

「いいの。約束したし、いつもお世話になっているお礼よ」

 申し訳なさそうなミラに私は微笑んだけれど……そういえば今まで何をしていたの?ミラ……傍に居たなら助けて頂戴。私、痴漢に襲われていたのよ? いえ、わかっているわ。侍女が公爵子息に反抗するなんて無理よね。でも、一言でも止めてほしかったわ。ちょっと忠誠心を見たかったわよ?


 お店を出ると待機していた公爵家の馬車に押し込められました。何故かミラは御者台に乗っていて。

 どうして? 二人きりにしないでちょうだい!!

 売られる子牛のごとく重い気持ちのまま私は自分の屋敷へと押送されました。

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