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ミラ 1

 街を歩くと人々が振り返ります。何を見ているかって? それは私のお仕えしているお嬢様、ヴィアンカ様です。

 ふわふわのストロベリーブロンドの髪に明るく澄んだ菫色の瞳。可愛らしい人形のような整った顔に、小柄で華奢だからこそ目立つ豊満ともいえる胸。そう、ヴィアンカ様は魅惑的な身体をした美少女なのです。

 本人全く分かっていませんが。


「ふふ。みんなミラを振り返るわね」

 楽しそうに言うお嬢様。いいえ、見られているのは貴女ですよ。私も世間一般的に美しい部類に入るとは思いますが、ヴィアンカ様の足元にも及びません。


 ヴィアンカ様が自分の容姿を可愛くないと思っている理由は、ご婚約者リオナルド様の一言です。

 あれは、お嬢様が八歳、リオナルド様が十一歳の時の話。伯爵邸に同年代の子息令嬢をご招待してのお茶会が開かれた時の事。ジョセフ様と言うご令息がお嬢様に花冠を作って差し上げたのです。

「似合いますか? ジョセフ様が作って下さったんですよ! すごくお上手ですよね!」

 頬を染めて微笑むお嬢様はそれはもう花の妖精のように可愛らしかったです。ただですね、「似合いますか」でおわりにすれば良かったんですよ。リオナルド様の前で他の男の子を褒めてはいけません。瞬間、リオナルド様は怖いくらいに不機嫌になりましたから。

「似合わない! 可愛くない!!」

 って。その頃にはお嬢様はリオナルド様に幼いながらも恋心を抱いていました。そんな相手から浴びせられた言葉に凍りついたのは仕方の無いことでしょう。可愛くないとか初めて言われましたしね。

 それからはやや引き籠るような日々。可愛くない自分がリオナルド様の婚約者では可笑しいと心を痛めて。けれどそれを癒したのも当然リオナルド様で。

「可愛くなくても俺が嫁に貰ってやるから安心しろ」

 と。傍で見ていればわかります。リオナルド様もヴィアンカ様に大層ご執心で、つまりは嫉妬と独占欲ですよ。とても子供とは思えない執着心でヴィアンカ様を手にいれたのです。


 けれども、三ヶ月前からお嬢様の様子が変です。

 そのころリオナルド様は隣国に外交に出ていたのですが、度々手紙が届いて、お嬢様もそれに嬉しそうに返事を書いてと微笑ましい交流をしていたのです。それが突然、届いた手紙を苦虫を噛み潰したような顔で見据え返事を書こうとしなくなりました。外交から戻られてから幾度も会いたいとのお誘いがありましたが、一向に首を縦に振らず避けまくる日々。お嬢様は放っておかれるのは興味が無いからだと仰いますが、リオナルド様がそうそう伯爵家に訪問できる時間が無いのは私でもわかります。王太子殿下の主席補佐官として働いているのですから。だからお誘いは公爵邸ではなく王城に、なのですよ。お嬢様は気にも止めていませんけれど。


「美味しい。ね?ミラ」

 ベリーがふんだんにのったケーキを口に運んでお嬢様は幸せそうに微笑みます。ああ、本当にお可愛らしい。女性連れの男性まで頬を染めていますよ。女性のほうもお嬢様の愛らしさに仕方がないという顔です。全く罪作りな方です。

 因みにお嬢様には当然の如く陰ながら護衛が付いています。それも伯爵家のみならず公爵家からも。だからお嬢様がリオナルド様を故意に避けているのは筒抜けだと思います。ああ、怖い。いつか報復が来そうです。


「もうひとつ注文致しますか?」

「ううん。これ以上食べたら太ってしまうもの。顔は変えられないのだから、せめて体型くらいはね」

 いえもう本当に絶世の美女になるのは目に見えていますから。しかしながら、お嬢様はご自分の占いの能力がそうさせるのか暗示にかかりやすい体質らしく、リオナルド様の「可愛くない」の呪いにかかったままなのです。


「これからどうなさいます。宝飾品でも見に行かれますか?」

「うーん…見ても自分に似合うものが分からないのよね。お父様が用意して下さるものでいいわ」

「リオナルド様も贈って下さってますけどね」

「……売って現金に替えようかしら。ああ、でも婚約解消となったときに返せと言われたら困るわね」

 そんなケチ臭い方には見えませんよ。別れたいと思えば手切れ金に大金積みそうです。

「髪飾りでも見にいきませんか? お嬢様にお似合いの物を探しましょう」

「そう? じゃあ、私はミラに似合いそうな物を探すわね!」


 可愛くて優しいお嬢様。思い込みが激しいところが玉に瑕ではあるけれど。

 どうか幸せに……それが私の願いです。

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