ヴィアンカ・ベルトワーズ 8
「いひゃい!」
“痛い”です。未来の浮気を指摘したら頬を抓られました。頬を摩りながらむうっとリオ様を睨みます。と反対に睨み返されました。ちょっとたじろぎます。
「夢で“菫色のドレスの綺麗な女”を俺が押し倒していたんだな?」
「そうです!」
「他には何が視えた?」
「金色の髪でした」
「綺麗な女性というからにはどういう顔をしていた?」
「見てません。リオ様のお相手ならさぞかし綺麗な人だろうと思いました」
はっきりとリオ様が溜息を吐きます。それから見下すように私をみました。
「偶然だな。今俺の目の前にいる女性も菫色のドレスで珍しい色ではあるが金髪だ。更に言うなら稀に見る美女だ」
「はい?」
リオ様の言葉を理解する前に身体が宙に浮きました。
「後は押し倒せばいいんだよな」
どさりと柔らかで馴染んだ感触を伝える寝台にまさに押し倒されました。
まさに再現! あの夢の再現の様です。
リオ様の下で女性はこんなふうに指を絡めて腕を押さえつけられていて。
「それで? この後はどうするんだったか」
尋ねるリオ様の天色の瞳は獰猛ともいえる熱を帯びていて。
「あ、いしてる……って」
「さっきで最後だといったのにな、仕方がない」
ぎしりと僅かに寝台が軋む音がして、リオ様の顔が私の顔に近づきます。そして耳元で。
「愛している…………ヴィアンカ」
涙が溢れ出ました。
あの夢の女性は私でいいのでしょうか。夢で「愛している」の言葉の後は聞いていません。あまりの衝撃にそこで目覚めてしまったから。
「泣くな」
「……だって……」
嬉しくて。
それは言葉にならずに飲み込まれました。そっと唇が重なって。蕩けるように優しくなぞっていきます。
好き。好き。大好き。
全てを委ねてしまいたい。
けれど私は勢いよく彼を押しのけました。