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ヴィアンカ・ベルトワーズ 5

 リオ様の膝の上に横抱きにされその胸に頭を凭せ掛けられているので、彼の規則正しい心音が聞えます。

 優しく優しく髪を梳かれ漸く落ち着いてきました。


「お前が考えていることを教えてくれ」

「……もう、怒りません?……」

「…とりあえず、全て聞いてからにする」

「怒るなら話しません」

「わかった。(努力する)」

「? 今、何か言いました?」

「いいや? で? 何がどうしたって?」

「ええと、……政略結婚が嫌になったので婚約解消しましょうという事です」

「…………あ?……」

 ぴりっと空気が張り詰めます。

 びくりとして見上げたら、リオ様は眉を寄せて睨んだ後で深く息を吐きました。

「婚約解消したいくらいに俺の事が嫌になったと。そういう事か?」

「そうですね」

 はあ、ともう一度溜息が聞えます。

「で? 嫌になった理由は?」

「……リオ様に好きな女性がいるからです」

「ああ!?」

 チンピラ風に返事をするのはやめて下さい。

「身に覚えがないのでしたら、未来の話です。リオ様には好きな女性が出来ます」

 今度は長く息を吐き出しています。

「……未来の話ということは、夢に見たんだな?」

「はい」


 そう。占いの力のある私は、稀に正夢を見ます。現在か。未来か。その夢の多くは事故や事件など回避した方がいいことです。今回見たのは少し変わった夢でしたが、おそらくは悲しい結果を呼ぶであろうものでした。いずれ捨てられるのだから、今のうちに婚約を解消しろと夢が告げてくれたのでしょう。


「リオ様が菫色のドレスの綺麗な女性を押し倒していました。……すごく熱っぽい眼で見つめて……あ、愛してるって…う、…呟いて……ふぇ……」

 止まった涙がまたぽろぽろと流れ出します。いいえ。これは悔し涙です。悲しいわけではありません! 断じて!!

「このまま…結婚しても、きっと……リオ様はその…人の所に、行ってしまうんです。だから婚約は…解消した、ほうが……いいん、です……ひあ!」


 人が懸命に話しているというのに、どういうわけか座る体勢を変えられました。今現在、私はリオ様に背後から抱きこまれている状態です。後ろから肩口にリオ様の額が乗りました。


「なに……?」

「顔を見たくない」

「!? ひどい……」

 可愛くないですけど! 顔を見たくないとはひどいです! だったら離して!!

「そんな顔をずっと見ていて平常心でいられる自信がない」

「罵倒したくなるほどひどい顔ですか!!」

「違う。もういい。それで? 婚約解消してお前はどうする?」

「……別に御縁のある方をお父様に探して頂いて……?」

「ヴィアンカ、お前、俺の顔が好きだろう。俺以上の男がいるとでも思っているのか?」

「!?」

 自意識過剰!! 自意識過剰です! この人!! 自分が一番格好いいって言ったようなものですよ!!

 …… でも、実際そうです。リオ様は国一番の美男子と評判の方。金髪碧眼。容姿端麗。文武両道。王子様より王子様らしいと専らの噂です。いえ、王子様もかなり素敵な方ですよ。なにせリオ様の従弟ですから、綺麗な顔をしてらっしゃいます。まあ、それは置いておいて。

 こんな人が幼い頃から身近にいたのです。私の男性に対する美意識は遙か高みです。酷過ぎます!!

「でも、男は顔じゃないって……」

「顔以外でも俺以上の男がいるか?」

「ず、ずるいです!!」

 あ、怒りのあまりに涙が止まりました。感情も昂って来たので臨戦態勢に入ります。

「じゃ、じゃあ結婚しません!!」

「貴族の令嬢が一人で生きていけるものか。一生ベルトワーズの世話になるか」

「占いがありますから!!」

 突然の思いつきですがいい考えです!! そう、私には占いがあるではないですか! それがあれば独り立ちできるはず!!

「そうか。お前の力は占いも夢も自分の事は視えないんだよな? だから自分を危険から遠ざけることは出来ない。そう言ったよな? それで? 自分の身を守る術の無いお前は命を狙われたりしたらどうするんだ?」


 占いとは人に見えないものを見る事。当然知られたくないことを知られれば恨みを買います。安全上今は私にその力があることをお父様とリオ様が隠して、そして守ってくれていますが。


「ご、護衛を雇って……?」

「一般に雇える護衛なんて役に立つか。俺はお前を殺すぞ」

「きゃあ!!?」

 首に歯を立てられました! 急所ねらいですか!! そしてなんて物騒な! 殺人予告です!!

「リ、リオ様…私を殺すんですか?……」

「ああ。俺のものにならないならば殺してしまったほうがいい」

「!? 政略結婚ってもしかして私の力欲しさですか!?」


 私の占いは先を視る力です。お父様もリオ様もこれまでそうすることを望んだことはありませんが、使いようによっては政敵を排する事にも使えるわけです。


 だから好きでもない、美しくもない、なんの得にもならない下位の私との婚約を受け入れているのですね。

 私は初めて納得がいきました。


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