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ヴィアンカ・ベルトワーズ 1

「だいたい早く婚約する意味がわからないわ! 七歳で婚約って早すぎない!? そもそもどうして婚約しなきゃならないの!?」

 私 ヴィアンカ・ベルトワーズはこの上なく不機嫌です。

「貴族という家柄、柵とか色々あるのではないですか」

 冷静な返答をするのは侍女のミラです。

「ええ。そうね。そうなんだけどね! 釈然としないのよ!」

「そんな事よりもヴィアンカ様? ご婚約者のリオナルド様からのご招待には何とお返事を?」

 拳を握って熱弁する私に淡々と返すミラにピクリと自分の片眉が上がります。私はピシッとミラを指差しました。

「ミラ! 聞いていなかったの!? 私は婚約者が嫌なのよ!!」


 改めて自己紹介致しましょう。

 私はヴィアンカ・アルブス・ベルトワーズ。十五歳。ベルトワーズ伯爵家の長女です。お兄様が二人います。伯爵家としての地位は良くも悪くもなく普通で生活に不自由もなく、家庭環境も落ち着いています。伯爵令嬢として満ち足りた生活を送っている幸せな私ではありますが、一つだけ受け入れがたいことがあります。

 それは、先程から話題に出ている婚約者です。

 婚約者の名前はリオナルド・アーテル・カストネル。十八歳。カストネル公爵家の御長男、勿論嫡子です。

 ああ、何てことでしょう! そう、公爵家! 我が家より階級が随分と上なのです。


「立場上反故は出来かねますよ」

「分かっているわよ。でも駄目。今日は北東が鬼門なの。そう言ってちょうだい」


 ふいっと私はミラに背を向けます。何を?と思うでしょう。でもこれは私だから出来る逃げ口上なのですよ!

 私の特技は占いです。趣味ではなくて特技。御先祖に高名な占い師がいたらしく、どうやら世代を経てその力が私に遺伝したようです。

 勿論公にはしていません。色々危ないこともあるでしょうから。でも、一部の貴族の間ではベルトワーズのお抱え占い師はすごいという噂が上がり、秘密で占いの依頼が来たりもします。お陰でお小遣い稼ぎができます。いえ、伯爵令嬢ですからお金には不自由していませんが、自分で働くって何となく気分がいいと思いませんか。

 私の力を知っているのは家族と、そして今では納得いかないことに婚約者のみです。ちなみに婚約は私に占いの力があるとわかる前に取り決められたものです。


「その言い訳は一昨日伝えてしまいました」

「……そう。えーと、では今日は別に出かける予定があるの」

「お出かけの予定など聞いていませんが」

「今決めたのよ! 一緒にケーキでも食べに行きましょう!」

 名案とばかりに私は両手を合わせます。なのにミラからは深い溜め息が。

「お嬢様がリオナルド様を避け出してから三ヶ月。いつまでも逃げられると思いませんよ」

「そんな事ないわよ。現にリオ様は三ヶ月も私を放っておいているわ。今だって断られるのを前提に儀礼的に誘っているのよ、きっと」

「お嬢様、リオナルド様が先日まで王子殿下に付いて隣国に外交に出ていらしたのは私でも知っています。戻られてから二週間、毎日のようにお誘いが来ますが一度としてお嬢様が頷いた事はありません。そろそろ限界ですよ」

「二週間誘うだけで放っておくこと事態がどうでもいい証拠よ。それにリオ様なら遊んでくださる美女が沢山いらっしゃるわ」


 そう。リオナルド様は美女が向こうから寄ってくるほど見目麗しい美丈夫なのです。輝く金の髪に涼やかな天色の瞳。格好いいと言うよりは美しいと評される整った容姿。高い身長に士官学校で鍛えた細身だけれどしっかりと筋肉のついた均整のとれた体躯。頭脳は次期宰相の座が確約されるほど明晰で。更に言うならば、王子殿下の従兄に当たり何と王位継承権まで持つ方なのです。……何て嫌みな方でしょう!


 そんな彼の婚約者が私です。

 見目麗しいとは言えない中流の伯爵令嬢です。

 母親譲りのストロベリーブロンドの髪と菫色の瞳は珍しいものなのでちょっと自慢できます。でも容姿がね、可愛くないのですよ。どのくらいかというと、その婚約者に面と向かって「可愛くない」と言われたほどです。でも、後で「不細工ではない」と言ってくれたので人並みではあるのだろうと自分を励ましました。

 ここで懺悔をひとつ。私は彼に可愛くないと言われるまで自分を可愛いと思っていました。ごめんなさい。だって伯爵家の娘は私一人で、上は兄二人ですもの。皆がちやほやしてくれました。勘違いするほどに。

 こんな特に利の無い私と超優良物件の彼が何故婚約しているかというと、お父様同士が友人だっただけです。


「あまり意地を張ると本当に婚約破棄されますよ」

「願ったりだわ! 早くしてくれないと次のお相手が探せないもの」

「三ヶ月前まではお慕いしていたではないですか」

 ミラの溜め息混じりの声にむむっと眉を寄せます。言わないで欲しいわ!

「過去の事よ」


 そもそも男性として非の打ち所の無いリオ様に恋心を抱くなと言う方が無理ではない? リオ様は私の事を可愛くないと言っても優しくしてくれたし婚約も破棄しませんでした。「可愛くなくても俺が嫁に貰ってやるから安心しろ」と言って。……冷静に考えれば、彼、性格に難ありですよね。まあ、いいです。もう過去の事。


「もう好きじゃないの。私も大人になったのよ」


 そう。大人になったのです。愛の無い結婚は嫌って!!

 ……あら、これって子供っぽいかしら?

 もう! とにかく嫌なものは嫌!! リオ様もその方がきっといいんです。私とは婚約破棄して相応しいご令嬢と改めて婚約すればいいんです。

 あの金髪の美女とかね!

 目頭が熱くなりますが、これは悲しいんじゃありません。悔しいのです。だから涙が滲むのです。

 だから、ええと、この感情は

 そう…むかつく! むかつくが正しいのね!

 婚約者がいながら他の女性とイチャイチャと!

 いいえ。もういいの!!


 さあ、イライラを鎮めなくては!


「ミラ! ケーキよ! 食べに行きましょう!」


 そうして私は街に繰り出したのです。

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