プロローグ1
プロローグ
世界は美しく、この先の未来も
ずっとずっと繋がっていくと、
信じていた。
私達はまだ、幸せな夢の中…
暖かい日の光が窓から射し込んでいる。
心地よい風も部屋の中に入ってきて、
お気に入りの薄いピンクのカーテンを揺らす。
気持ちが良すぎて、いつまででも眠っていられそうだ。
高見アスナは、どこにでもいそうな、ごく普通の少女だ。
少し違うとしたら、人よりも少し目立つ綺麗で愛嬌のある顔立ち位だろう。
彼女は、何度も眠りそうになる自分と必死に戦いながら、ベットから出た。
早く起きて、幼馴染の日暮コウを電話で起こすためだ。コウはアスナの隣の家に住む同級生で、母親と二人暮らしだ。母親が軍医をしており、帰宅時間が不定期なため、アスナの家で一緒に食事をする事も昔から多い。その延長か、ただ単に世話好きなのか、アスナは、ほぼ毎日、コウを起こしている。
『コウ!』
学校へ行こうと玄関の扉を開けると、さっき起こしたばかりのコウが、眠そうな顔で出迎えてくれた。コウは、少しくせのあるかみをしていて、特にセットもしていないから、いつも襟足に寝癖が残っている。そこそこ、女子生徒に人気があるのに、男子とばかり遊んでいる。
アスナとしては余計な心配をしなくて済むが、自分の感情をあまり表さないところは、たまに扱いにくい。
『おす。』
『おはよう。』
挨拶を交わすと、二人は学校へ向かった。
『来週のAQA本部研修、コウも行くんだよね?』
『うん、skark(SKY訓練校)の実技講習受ける予定。』
『そっか、skarkに進むんだもんね。』
アスナ達の住んでいるAQAという国では、中等課程を終了後に軍の戦闘員として進むか、非戦闘員として進むか選べるようになっている。
skarkは、AQAが所有している搭乗型ロボット『SKY』の唯一のパイロット訓練校であり、エリート校である。
コウは早くからskarkに進むことを決めていたが、アスナは戦闘員として進むコウを素直に応援出来ないでいた。
『おはよー!2人とも!』
後ろから自転車で桂ライとエリカ兄妹が近づいてくる。
ライは同級生で、栗色の天然パーマの髪が特徴だ。ふわふわな綿菓子のようだ。お調子者でプログラミングの能力が高く、先輩達から人気のある女子生徒のホログラムを作ってはアスナ達に怒られている。
エリカは2つ下の学年。兄と同じ栗色の天然パーマだが、きちんと整えていて、オシャレが好きな女の子。身体能力が高く、教師からSKYパイロットの勧誘を受けているが、本人はskarkで将来の伴侶を見つける事に集中したいから、と、断っている。
『おー。』
『おはよーライ!エリカちゃん!』
桂兄妹はアスナ達を追い越すと、学校の門のなかへ消えて行った。
校門前では、風紀委員が生徒の登校チェックをしていた。
アスナ達と仲の良い、 大和ユウと相模セナも委員の仕事をしていた。
大和ユウは、校内でも人気のある女子生徒で、首までのボブスタイルに大きな黒目が特徴的な優しい雰囲気の子だ。
容姿だけでも人気はあるが、最も人気があるのは笑顔のまま吐く毒の入った言葉だ。ハマるファンが続出している。
『おはよー朝から大変だね』アスナがユウに声をかける。
『アス!おはよう。もう終わるから一緒に教室行こう。』
ユウは、いつもアスナの事をアスと呼ぶ。
『うん、わかった。』
『コウは衿の学校章がないから、マイナス5点』
セナが手元の生徒一覧に点数を付ける。
『マイナス5点は下げすぎだろ!』
セナは意地悪そうに笑っている。女子生徒から圧倒的な人気のあるセナは、背が高く、雑誌のモデルになってもおかしくない位に綺麗な顔立ちをした男の子だ。かといって気取っているわけではなく、男女問わず人気がある。
いつもと同じ光景、いつもと同じみんなの笑顔
できれば進学しないで、戦場には行かないでみんなこのままで居られれば良いのに
と、進学が近くなってきた今頃になって
アスナは考え始めていた。