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天界のクレスティア  作者: 北条氏也
7/7

第7話 [捕らわれている少女]

「・・・・・・父と母を殺した!?」

 俺はエルの言った一言がどうしても信じられない。強い魔法力を持った魔法使いならこんな部屋に長期間も監禁出来るはずも無いし、エルは見た目からして腕も細く体も小柄で武器の扱いに慣れているとも思えない。

「少し聞きたいんだけど、殺したって君がその手で殺したのか?」

「いいえ。私の友達が・・・・・・でも、私も止められなかったから、私が殺したのと同じなの・・・・・・」「君は友達に両親を殺されて、その・・・・・・恨んでないのか?」

エルは少し考え込むと、悲しそうな顔をして話始めた。

「仕方ないの、私達人間もあの子の仲間を沢山殺したから・・・・・・」

閉じ込められたままの生活に戻る。約束出来る?」

「はい。もう一度彼に会えるのなら、約束します・・・・・・」

 俺はそう言って右手の小指をエルに向ける、エルはその小指に自分の小指を重ね約束のおまじないを唱えた。

「よし、行こう!夜はすぐに明けてしまう。時間は有効に使わないとなッ!」

「はい!」

 俺はそう言ってエルの小さな手を握ると窓から外へと出た。エルが窓から出るのを確認した上で魔法でドアに鍵をかけ直し、ウィンドで夜空へと飛び立った。

「ルドルさん。すごい、すごい!まるで鳥になったみたい・・・・・・まるで本の中の主人公に自分がなったようです!」

「そうか?それは良かった・・・・・・」 ウィンドは初心者でも使える初級魔術の1つだ。普通は軽い物。コップや皿などを浮かせる程度の魔法だが、俺にかかれば人どころか建物ですら浮かせる事が出来る。この魔法の気に入ってる所は扱いが簡単な上に汎用性がきくところだ、慣れれば物質を浮かせるだけではなく、移動させる事も出来る。


「エル。もっと高度を上げよう、これだと誰かに見つかってしまう・・・・・・」

「は、はい!」

 俺は一気に高度を上げるにつれて、エルは少し怖いのか俺の手をギューっと強く握り締めてきた。

「エル?怖いなら俺の背中に乗るといい。少しは怖くなくなるよ?」

「えっ?あ、ありがとうござます・・・・・・」

 エルは俺の申し出に素直に従うと、俺の背中に覆い重なるように乗った。エルと重なっている部分だけ、エルの体温が伝わり熱を帯びている。それが夜の冷たい風によって、そのエルの体温が快適な温度へ変わっていく。俺がそんな事を考えていると背中にしっかりと掴まっているエルが声を発した。


「ルドルさん!あそこ、あそこです!あの山の洞窟の中に私の友達が住んでいるんです!!」

「分かった。なら急ごう。スピードを上げるからしっかり掴まって・・・・・・」

「あ、はい!」

 俺はエルを背中に乗せたままエルの指差した洞窟の中へと進入した。洞窟の中は暗く、外よりも温度が低いようで肌寒く感じる。 その友達の名前を呼んだ。すると、洞窟の奥からけたたましい咆哮が聞こえてくる。俺がその方向に目を凝らすと、闇の中から大きな白いドラゴンが現れた。

「エル?本当にエルなのか!?今まで何をしていた。元気だったか?」

「うん。元気だったよ、あなたは少し大きくなった?」

「あぁ、俺はずっとお前に謝りたかった・・・・・・エル。あの時は俺も冷静じゃなかった。だが、それは良い訳にしかならないのは分かっている。俺はお前の両親をこの爪で・・・・・・本当に申し訳ない事をした。すまない・・・・・・」

 エルライルは大きく長い首を地面に着くくらいまで下げると、エルの顔を見上げた。


「いいえ、私は全部分かってる。それに私の村の人、があなたの家族を殺したのが原因だから、村の人に代わって謝るわ・・・・・・ごめんなさい」

 エルもエルライルに向って頭を下げると、お互いに頭を上げ、ニコッと微笑んだ。

「エルは本当に良き物の言っている事が分かるのか・・・・・・俺にはただ1人事を言っているようにしか見えないが・・・・・」

 俺がそうボソッと口にすると、今までエルを見ていたエルライルの目がギロッとこちらを睨んだ。


「今、エルを馬鹿にしたなッ!小僧!!」

 エルライルが睨みつけたのと同時にエルライルの全身から大量の冷気が放出され当たりを凍りつかせてゆく。

「エルライル待って!ルドルさんは悪い人じゃないの!監禁されていた私をあなたのところへ連れてきてくれたのッ!!」

「監禁されていた!?それはどういう事だ!!エル」

 エルは慌てて口を両手で塞ぐが時すでに遅し、エルライルはもう一度大きく咆えると、その大きな紫の瞳でエルの顔を見た。


「そ、それは・・・・・・」

「エルライル。それは僕から話そう」

 俺がエルライルに見つめられ、俯き動揺しているエルの前に割り込むとエルライルの目を見た。

「エル。通訳を頼むッ!!」

「は、はいッ!!」

「こちらの言葉は向こうに通じているのか?」

「はい、大体は・・・・・・」

「ならこちらの言葉と向こうの言葉を両方翻訳してくれ、出来るね?」

「はい。頑張ります!」

 エルはそう言ってコクリと頷くと、ドラゴンと人間との徹底討論が始まった。


「えっと、小僧。お前がエルの変わりに説明するのか?と言ってます」

「そうか、ならこう伝えてくれ・・・・・・」

 俺はそういうとエルの耳元でささやいた。

「エルライル。まず説明してくれ、ここにいる人達はどうしたんだ?」

「あぁ、この身の程知らずどもは俺が凍り漬けにしやった。エルを木の棒で殴ったから・・・・・・」

 エルは話ながら自分のせいでここに居る人達は凍り漬けにされたと知って罪悪感が生まれたのだろう、今にも泣きそうな顔で俯いた。

「・・・・・・エル。頑張るんだろ?続けて」


「お前のせいでエルは閉じ込められているんだ。お前が村の人に恐怖心を与えているから、その捌け口がエルになったんだぞ!」

 それを聞いたエルライルは咆哮を上げると鋭く俺を睨みつけた。

「小僧。お前は人間の本当の愚かさを知らない。俺は人間より多くの時間を生きてきて、お前達人間の愚かさを腐るほど見てきた。人間とは、一度剣を持てば同属を平然と殺せる。そのくせ、生き物との共存とうたいその生き物を管理する、そして自分達の手に負えない生き物は例外的敵とみなし、慈悲無く殺す。その子もそうだ、私が居なくともその子の力を恐れ、管理するか殺すかのどちらかを必ず選ぶ・・・・・・」

 エルはエルライルの言葉を途中まで翻訳すると、そのまま俯き翻訳を止めた。


「どうした?エル。エルライルはまだ話しかけているようだが・・・・・・」

 俺はそう言いながら口を一の字に閉じたまま俯いているエルの肩を優しく叩いた。

「あの、その・・・・・・エルライルが、私と遠くに逃げようって・・・・・・」

「・・・・・・エル?約束は覚えてるよね?」

「はい・・・・・・でも、また閉じ込められると思うと、私、帰りたくないです」

 エルは目に涙をいっぱいに溜めてルドルの顔を見上げている。ルドルはエルの目線に合わせると、エルの両肩を掴み、目を見て話始めた。


「エル。俺達は人だ、ドラゴンじゃない。どんなに頑張ってもエルライルとは一緒には暮らせないんだよ・・・・・・」

「ルドルさん・・・・・・なら、わた、しを、ルドルさんと、いっしょに、つれていって、ください・・・・・・」

 エルは泣きながら言葉を詰まらせ、俺の顔を見上げて必死に訴えてきた。しかし、俺はその顔を見ていて正直に頭を縦にふれなかった。なぜなら俺達もニビルという指名手配の女の子を抱えている。かわいそうだとは思うけど、これ以上の足手まといになる存在を抱え込む訳にはいかない・・・・・・。

(この子の気持には同情するけど、エルは必ず足手まといになる。それに、こんな事で毎回連れて行ってたら、すぐ軍に捕まってしまうし、そしたらニビルは・・・・・・ここは俺達の身の安全が最優先だし、それにこの子を危険な目に遭わせるわけにはいかない・・・・・・)

 俺は少し考えると、小さく頷き泣いているエルの顔を見つめる。


「約束する。君を一緒に連れて行って良いか、村長さんに相談してみるよ・・・・・・」

「・・・・・・本当ですか!?」

「あぁ、約束だ・・・・・・」

「はいッ!」

 エルはそれを聞いてパァーっと顔を明るくすると安心したのか俺の顔を見てニコッと笑った。

(これで良い・・・・・・これで良いんだ。ルドル・オーフィス。俺は嘘は言っていない相談すると言っただけだ・・・・・・)

 俺は自分に言い聞かせると、もう一度エルの顔を見つめていった。

「エル。もう一度、エルライルと通訳してくれるか?」

「はい。もちろん!!」

 それから俺はエルライルに2つ約束をさせた。1つもう村に行かないという事、そして今日の夜明けと共に他の場所へと移動する事の2つだ。それに応じる為のエルライルからの要求は1つだけ、エルを自由にする事だった。俺達は日が上る前に家に戻ると、エルの部屋で少し話をした。


「エル。今日の事は誰にも話したらだめだぞ?」

「はい!」

「それじゃ、俺は部屋に戻るから・・・・・・」

「あの・・・・・・ルドルさん。本当に私を一緒に連れて行ってくれるんですよね?」

 エルは不安そうな顔で俺の背中に向って言った。俺は少し心は痛かったものの[これも、無事に旅をする為]と自分に言い聞かせ、エルの方を向きニコッと微笑んで見せた。


 その2日後。俺達は朝早く村を出る仕度とすると、家を出て少し村長さんと話をしていた。その時、2階の窓が開き窓から出た、エルが屋根の上から手を振りながら大きな声で叫んだ。

「ルドルさん!私も連れて行って下さい!!」

「ルド。あの子誰?ルドの事呼んでるけど・・・・・・」

 ステラは不思議そうに俺の顔を見つめて言った。


「はぁ~。仕方ない・・・・・・」

 俺は大きな溜め息をつくと、大きな声でエルに向って叫んだ。

「エル!お前を連れて行くわけにはいかない!!」

「・・・・・・えっ?ルドルさん。なにを言ってるの?」

 エルはその俺の言葉が相当応えたのか、足を滑らせそのまま地面に向って落下していく。

「ウィンド!」

 俺は慌てて、エルを魔法で受け止めると、そのまま地面にそっと降ろした。

「ちょっとあなた!大丈夫!?怪我とかしてない?」

 ステラが慌ててエルの方に向って走っていって声を掛けた。しかし、エルは約束を破られたのが相当精神的に応えたのか、魂が抜けたかのようにブツブツと独り言を呟いているだけだ。

「ちょっとルド!!あなた、また何か言ったんでしょ!!」

 ステラの怒鳴る声に俺は思わず目を逸らしてしまった。

「あっ!目を逸らした・・・・・・やっぱり何かしたのねッ!なんでいつもルドはそうなのッ!?」

「お前には関係ない事だ・・・・・・」

「関係ないって、目の前にこんなになってる子がいて関係ないですまないでしょ!?・・・・・・なんて言ったの?」

 ステラは鬼の様な顔で俺を睨みつけるとそのまま、こっちに向って歩いて来た。

「旅に一緒に連れて行くって言ったんだ・・・・・・」

「えっ?な~んだそんな事?なら早く言えば良いのに♪」

 ステラはそう言ってニコッと笑うとまたエルの方に歩いていくと、エルにニッコリと微笑んだ。

「ごめんね、ルドルが嘘を付いたと思ったんでしょ?名前はなんて言うの?」

「エル・・・・・・」

「そっか、エルちゃんか・・・・・・エルちゃんもお姉ちゃん達と一緒に旅に行こっか♪もちろん。エルちゃんが良ければだけどねっ!」

「え?・・・・・・私を、連れて行ってくれるの?」

 ステラはそう言って座り込んでいるエルに微笑み掛けた。それをエルは虚ろな瞳でステラを見上げて言った。

「ステラ!!その子を一緒に連れて行くのは出来ない!お前も知ってるだろ?俺達はニビルだけでもういっぱいなんだ!俺達が無事に旅を続けるにはこれ以上荷物になる様な人間を連れて行くことは出来ない!!」


 俺がそう言って叫ぶと、騒ぎを聞きつけ、どこからともなく集まってきた野次馬達がここぞとばかりに声を上げる。

「お前のような獣を扱う危ない奴。誰も受け入れてくれるわけないだろ!」

「この悪魔が・・・・・・お前のせいでどれだけの人間が犠牲になったと思ってるんだ!責任取ってお前も死ね!!」

「この親が死んでも何も感じない悪魔が、あんたのせいで家の旦那は死んだのよッ!!」

 そのやじの殆どが村から出て行け、死んでわびろなどの暴言で年端の行かない少女に浴びせられるものとは思えない。そのやじに耐えられずステラが叫んだ。

「うるさい!うるさい!どうして大人が寄って集ってこの子をいじめるのよ!?この子が何をしたの?かわいそうだとは思わないのッ!?」

 ステラがそういうと1人の男がステラの前に出てきて言った。

「あんたはこの村の人間じゃないからしらないだろう。その娘はドラゴンをたぶらかしてこの村を襲わせたんだ。自分の両親を殺させる為だけになッ!!かわいそうなのは、それに巻き込まれて死んだ俺の妻だ!妻は子供を身篭っていたんだぞッ!!」

「そ、そんな・・・・・・エルちゃん本当なの?」

 ステラは男が涙ながらに語った話に驚き、エルの顔を見て事の真相をたずねた。しかし、エルは無言のまま俯いて頑ななまでに何も語ろうとしない。


「ほらみろ、反論しないだろ!そいつは人の姿をした化け物なんだよッ!この村から出ていけ化け物ッ!!」

 そう吐き捨てた男は地面に落ちていた石をおもむろにに掴むとエル目掛けて投げつけた。

「ちょっと!いくらなんでもそれは酷すぎるわッ!」

「やめて・・・・・・出て行きます。私がいなければ、生まれてこなければ良かったんだから・・・・・・」

 エルはそう言って立ち上がると今まで面倒を見てくれた村長の前に歩いていった。

「おじさん。今までお世話になりました・・・・・・」

「ああ、守ってやれなくてすまない。元気でな・・・・・・」

 エルはペコッと頭を下げるとそのままフラフラと歩いて行った。


「ちょっとルド。何とかしないと、これを見てルドは黙ってられるの!?」

「俺にはお前とニビルを守る義務があるんだ!だが、あの子を守る必要がない」 そう言い終わった。俺の 左頬に鋭い痛みが走った。なぜならステラの平手が俺の頬に当たり、俺の頬にステラの手形がはっきりと残っている。

「ルドは義務とか責任とかって、自分を肯定して!今起きている出来事から逃げてるだけじゃない!あの子をあのままにしたら、多分あの子死ぬわよ!?ニビルもそうだったけど、あのくらいの歳の子には導いてあげる人間が必要なの・・・・・・あの時、ルドに旅に一緒に連れていくって騙されてあの子はきっと凄く辛かったと思うし、きっと絶望したんだと思う。優して捨てるくらいなら最初から優しくなんてしない方がいい!!」


 ステラはそう吐き捨てるとエルを追いかけて行った。

(俺は最も効率がいい結論を導きだして、やったはずなのに、何故責められなければならないんだ?俺は間違っているのか・・・・・・)

俺はそんな事を考えながら自分手を見つめた。


「エルちゃん。ちょっと待って!ごめんね。ルドが変な事言って、でも悪気はないの、だからルドを許してあげて・・・・・・ねっ?」

「うるさい!放っておいて・・・・・・」

 ステラがそう言ってエルの顔を見つめると、エルは冷たい声でそういうとステラを睨みつけた。


「お姉さんもさっきの話し聞いたでしょ?私は人殺しなの・・・・・・あまりしつこいとお姉さんも殺しちゃうかもね♪」

「エルちゃん・・・・・・」

 エルはそう言って虚ろな瞳のまま、不気味な笑みを浮かべるとステラを冷たい目で見た。


「エルちゃんはこのままで良いの?人間は1人じゃ絶対に生きられないの。ね?だから、私達と一緒に行きましょう?エルちゃん」

「・・・・・・生きる?ふふっ、おかしな事言うんだね、お姉さん・・・・・・私には、もう帰る所もない。優しくしてくれる人も誰も居ない・・・・・・あぁ、当たり前か、化け物じゃ・・・・・・私、外の世界はもっとキラキラして楽しいと思ってた。でも違った・・・・・・大人はみんなうそばっかり、もう誰も信じない、信じたくない!!もう一度だけ忠告するわ・・・・・・私の事は放っておいて」

「嫌よ、今のエルちゃんを放ってはおけない。私は、信じてもらえなくてもいい。だから・・・・・・」

「エルラエル!!」

  エルは空に向かって叫ぶと、けたたましい鳴き声とともに、白い竜がエルの後ろへと舞い降りてきた。


「やはり、人間は信用出来ん。きっとこうなると思っていた。エル、お前は俺が守る。この命にかえても!!」

「うん。エルラエル・・・・・・」

 そう言ってエルラエルはエルを自分の背中に乗せると、いずこかへと飛びさっていってしまった。



「おい、ステラ、いい加減機嫌直せよ?」

「別に怒ってないわよっ。行こっニビル・・・・・・」

「えっ?あ、はい」

 ステラはそう言ってニビルの手を引くと、すたすたと足早に俺の前を歩いていった。


「思いっきり怒ってるじゃねえかよ・・・・・・」

 俺はそうボソッと呟くと、ステラの背中を見つめる。あの後、エルを追いかけたステラがしょんぼりした様子で俺とニビルの前に戻ってきてからというもの、ずっとステラはこの調子だ、きっとエルに対してきちんと謝らなかった俺に頭にきているんだろう。だが、あの時はあれが最善の策だったのは言うまでも無い。幼い子供2人を連れての山越えは厳しいし、なにより普段の2倍以上の時間が掛かる。ニビルは元から逃亡生活で鍛えられているから良いとしても、2年間も部屋の中に閉じ込められていた。エルにとって、山越えはまさに地獄のような苦しみになっただろう。それを早めに見抜き、俺はそれに対処した。人としては間違っているのは分かってはいるが、それ以上に今はニビルを無事、安全な場所に逃がすのが最優先なのだ。

 俺達が森の中をひたすら進んでいくと、切り立った崖の上に出た。そこから辺りを一望出来る。


「あそこに小さな町が見えるな・・・・・・」

 俺はそういうとバックの中から双眼鏡を取り出し、その町の様子をうかがう。

「よし、軍はいないようだ、今日はあそこで宿をとろうっ!」

「そう、なら早く行きましょ。行くわよニビル・・・・・・」

「あ、はい・・・・・・」

 ステラはそういうとニビルの手を強引に引いて、また足早に町に向って歩き始めた。


 俺達は町に着くと、町は小さいながらも活気にあふれている。道には様々な物が売られている店舗が軒を連ね、町の中心の広場には小さいながらも噴水があり、その事から水にも豊かな町だという事も容易に推測出来る。

「さて、早めに宿を押さえよう、野宿はさすがにもう懲り懲りだからな・・・・・・」

「そうね、私もその方が良いと思う。なら私はニビルと一緒に広場の噴水の前で待ってるから、ルドが宿を探してきて?」

「どうして俺だけなんだよ!?」

「それは3人で行っても効率が悪いでしょ?ねっ?だからお願いねっ!」

 ステラはそう言ってニコッと笑った、ように見える。だが、俺には分かる。これはエルの事で俺に対する仕返しなのだと・・・・・・。

「分かった。ならここで待ってろよ?良いなっ!!」「頑張ってね。ルド♪」

「お気をつけて・・・・・・・」

 俺がそう言い残してその場を離れると、2人は手を振って笑顔で見送った。

(ステラめ、後で覚えてろよ・・・・・・)

 俺はいつか必ずステラに仕返ししてやると心に誓うと、宿を取りに町中を走り回った。俺はやっとの思いで3軒目の宿屋を取るとそこで物騒な話を耳にした。最近、軍の動きと同じくしてあるカルト教団の活動が活発化しているらしい。その宗教では、どうやら女神クレスティアを信仰しているらしく、ニビルもクレスティアという姓を隠しているとはいえ油断出来ないとそう思った俺は急いで2人の待つ広場の噴水のある場所へと戻った。

「あっ!帰ってきた。ルド〜遅いよ!何してたの?」「・・・・・・おかえりなさい」

 そこには行きと変わらない2人の姿があってホッとし胸を撫で下ろした。

「ステラ、俺が居ない間に何か変わった事とかなかったか?」

「えっ?別に無かったけど・・・・・・ねっ♪ニビル」

「はいっ」

「でも、急にどうしたの?」

 俺の質問にステラは不思議そうな顔をして首を傾げて聞いてきた。


「いや、なんでもない・・・・・・それより宿が取れたぞ?早く行って風呂に入ろう」


 俺はそういうと2人を宿屋まで案内した。


その日の夜、ニビルは隣に寝ているはずのステラの姿が消えている事に気がつき、宿屋の中を探すと宿屋の食堂のバルコニーに1人佇んで月を見上げているステラに気がついた。


「ステラさん?」

 ニビルはそう言ってステラの顔を見上げると不思議そうな顔をして首を傾げた。

「あっ、ごめんねっ、ニビル。起こしちゃった?」

「いえ・・・・・・」

「ちょっとエルちゃんの事を考えてて・・・・・・ニビル?ちょっと質問していい?」「はい?」

「ニビルはさっ、1人の時って毎日どういう気持ちだった?」

「あ・・・・・・その・・・・・・」


 ステラはそんなニビルの様子を見て慌てて、また口を開いた。


「もちろん、言いたくなかったら言わなくて良いからねっ!ちょっと気になっただけだから・・・・・・」ステラはそういうとニビルにニコッと微笑んだ。しかし、ニビルにはステラがいつもと違いその笑みのぎこちなさに気がついていた。

「私は・・・・・・つらかった・・・・・・です。毎日生きる事だけに必死で、回りは・・・・・・回りには、敵しかいない。誰も、しんじちゃいけないんだってじぶんに言い聞かせていました・・・・・・」

 そういうとニビルの瞳からは涙が止めどなく溢れてきた。ステラはそんなニビルを優しく抱きしめると、耳元でささやいた。

「ごめんね・・・・・・悪いお姉ちゃんだよね。辛かったに決まってるよね・・・・・・分かってたのに・・・・・・嫌な事を思い出させちゃって本当にごめんね。お姉ちゃん・・・・・・ニビルの気持ち考えて無かった。エルちゃんの事が気になっててそれで・・・・・・」

 ニビルはそう言って謝るステラの頭を優しく撫でた。

「・・・・・・あやまらないでください。もし、ステラさんとルドルさんに出会わなければ、私はもっと多くの人を殺していました・・・・・・あなたは私を暗い闇の中からすくい出してくれた。私に居場所をくれた。私を・・・・・・私を、人として扱ってくれた。本当にありがとございます。ステラさん」

「ニビル・・・・・・もう、お姉ちゃんを泣かせるなんて、いつからそんなに悪い子になったの?」

 ステラは大粒の涙を流しながら、もう一度ニビルの顔を見つめると、さっきより

も強く抱きしめた。

「ニビル?誰がなんて言っても、あなたは私の可愛い妹だからね?分かった?」「はいっ。お姉ちゃん・・・・・・」

 2人はしばらく抱きしめ合いながら時間を忘れた。


 その時、ふと2人の前にマントを着た大柄の男が2人現れた。


「なに!?あなた達・・・・・・」

「お姉ちゃん・・・・・・」

「大丈夫。あなたは私が守るから」


 そういうとステラは怯えているニビルを自分の背中に隠すと、手を前に突き出して男達を睨みつけた。


「クレスティア様。私達の大いなる主よ、御迎えに上がりました・・・・・・」

「あなた達。ニビルに手を出したら殺すわよ?」


「小娘、お前には用はない。ウィンドボール!」


男はステラに向かって右手を前に突き出すと、呪文を唱えた。


「きゃあッ!!」


 ステラの体は勢い良く吹き飛ばされ、背中を強くバルコニーの端の木の太い柱に叩きつけられた。


「お姉ちゃん!?・・・・・・ゆるしません。わたしの家族を・・・・・・ぜったいにゆるしません!!」


 ニビルはそういうと手を前に出したて呪文を唱えようとしたその時。ニビルは口を背後から何者かによって塞がれてしまった。


「んー!んんー!」

(声が出せない・・・・・・)


 ニビルは焦ってなんとか声を出そうと首を振って男の手を振りほどこうとしたが、子供の力では悪あがきにもなるはずがない。


「クレスティア様。少しの間眠っていて下さい」


「スリープ!」


 男が呪文を唱える。


(だめ・・・・・・今寝たらお姉ちゃんも・・・・・・わたしも・・・・・・帰れなく、なっちゃう)

ニビルはそう考えながらも徐々に意識は遠退いていった。

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