第6話 [旅立ち]
昨晩は色々考えてしまって、結局殆ど眠れなかった。俺がふと気が付いて窓を見ると、カーテンの隙間から光が差していた。
「もう朝か・・・・・・」
俺はぼーっとしながら部屋のカーテンを開けて外の景色を見る。
「この街とも少しの間、お別れだな・・・・・・」
俺はいつもと変わらない景色を見つめながら、色々な事を思い出していた。大好きだった屋根から見た空、鬱陶しいと思っていた学校、そういうものの一つ一つが、今となっては懐かしく思えて仕方なかった。
「ルドルお坊っちゃま。旅の支度が整いました」
俺の後ろから、執事のセバスチャンの声が聞こえた。
「分かった。今行く・・・・・・」 返事をした俺はセバスチャンが支度してくれた荷物とお金を持って、ドアに向って歩きだした。
「今まで世話になったな、ありがとう。セバスチャン・・・・・・」
俺はすれ違いざまに、セバスチャンに小さな声で言った。
「ルドルお坊っちゃまっ!!」
「・・・・・・」
「このセバスチャン。いつまでも、お坊っちゃまの帰りを待っておりますっ!いってらっしゃいませ・・・・・・」
俺がチラッとセバスチャンの方をふりかかえると、セバスチャンは深く頭を下げていた、床には涙がポタポタとこぼれている。その姿を見て、俺も目頭が熱くなるのを感じた。その時、今までの想い出がまるで走馬灯のように俺の頭の中に甦ってくる。「セバスチャン!心配するなっ。俺はルドル・オーフィスだっ!必ず、必ず戻ってくるさっ!!」
俺はセバスチャンに背を向けたまま、腕を大きく突き上げた。
家を出た俺は、ステラ達と合流する予定になっている街の広場にある噴水の前へとやって来た。平日という事もあり人はまばらで数えられる程度しか居ない。
「俺の方が早かったか・・・・・・」
俺は辺りを見渡し、ステラ達が居ないのを確認すると、噴水の前の椅子に腰掛ける。
「なんだか、あっという間だったな・・・・・・」
(今、考えてみると不思議な感じがするな、廃坑でニビルを見つけてから、2日でここまで物の見方が変わるなんて思ってもみなかった。まるで夢でも見ているかのようだ・・・・・・。[環境が変われば、人の心も変わる。結果を求めるならば、まずは行動せよ]有名な魔法学者。アストル・デメキスの言葉だ・・・・・・。昔の人のいう事に間違いは無いっていうけど、本当だな・・・・・・)
俺がそんな事を考えながら、街を忙しく歩き回る人々を眺めていた。そんな時、前からステラがニビルの手を握り、手を振って小走りで向かって来るのが見えた。
「ルド〜。お待たせぇ〜♪」
「お前、凄い荷物だな・・・・・・」
「旅に行くならこれくらい当然でしょ?」
俺はステラの持っている荷物を見て、呆然とした。
大きめのリュックサックが、今にも破裂しそうな程パンパンに膨れ上がっている。「ニビルと2人分だもん。これぐらい普通よ、普通。それより、どうしてルドはそれしか荷物を持ってないの?」
「とりあえず、数日分の着替えと金を持っていけば何とかなるだろ?」
「はぁ~。ルドは小さい頃からそうだよね。もう少し、色々考えて持って行った方がと思う。もし急な雨が降ってきたらどうするの?」
ステラはリュックの中から傘を3本出して、俺に見せた。
「その時はバリアを貼ってしのぐだろ?」
「な、なら!これは?テント!着替えの時とか寝る時とか便利だよ!?」
「そんなの、要らないだろ。かさばるし、着替えはそこら辺の木の陰とかですれば良いだろうし、
寝る時は地面に寝ればいいだけだろ?」
「えぇっ。信じられない!女の子にそこら辺の木陰で着替えろなんて・・・・・・。あっ、分かった。ルドは私達が着替えるのこっそり覗くつもりなんでしょ!?ルド最低!!」
ステラはニビルと目を合わせると、そう言って、俺を疑惑の目で見る。
「ちょ!ちょっと待てよっ!お前の裸なんて見たって、俺は別になんとも・・・・・・」
「ちょっと!なにそれ!!私には女の魅力が無いって言いたいわけ!?」
「だから、そうじゃなくって・・・・・・」
「ルドの変態!童貞!!」
「な、なにッ!?お前だってそういう事を、した事ないだろ!」「うるさい!それ、セクハラだよ!?最低!変態セクハラ童貞!!」
「なっ、なにぃぃぃッ!?」
2人が言い争いをしているのを、ずっと見ていたニビルが、2人の間に割って入った。
「け、けんかは・・・・・・だめです」
ニビルは瞳を潤ませながら、ケンカしている2人を見上げている。
「ごめんね、ニビル。お姉ちゃんが悪かったわ・・・・・・」
「うぅ・・・・・・」
ステラはそう言って、俯いているニビルの頭を撫でた。
「お、お姉ちゃん!?」
「あぁ、ルドには言ってなかったわね。私とニビルは姉妹になったのよ?もうお父様の許可も取ってあるものっ、ねぇ〜♪ニビル」 そう言ってステラはニビルと顔を見合わせてニッコリと微笑んだ。
「はぁ~。お前は相変わらずだなぁ・・・・・・行動が早いというかなんというか・・・・・・」
「いいの、いいの!ほら行こっ、ニビル。しゅっぱ~つ♪」
「この先が思いやられるな・・・・・・」
ステラはニビルの手を引いて歩き出す。俺もその後を追い駆けるように歩き始めた。
街を出て森に入ると、少し歩き始めると、ステラが弱音を吐き始めた。
「ねぇ~。ルド、重いよ~。荷物持ってぇ~」
「まだ、そんなに歩いてないだろ?」
「もう足痛い!疲れたぁ~!大体どうして森を行くのよ!普通に道を歩けばいいでしょ!?」
「だから言っただろ?ニビルは指名手配されてるから、森を抜けた方が安全なんだよっ!はぁ〜。仕方ないなぁ・・・・・・荷物をそこに置けよ、魔法で運んでやるから」
「うんっ♪」
「ウィンドバブル!」
ルドルが呪文を唱えると風が荷物を包み、シャボン玉状に変化した。
「おぉ~。そんな便利な魔法があったんなら、最初から使ってよッ!!」
ステラは怒りながら言ってきた。疲れからか相当イライラしているんだろう、無理もない、ステラは旅はおろか街から出た事もあまりないお嬢様なのだ。それとは対照的にニビルは、にこにこしながら足取りも軽く、楽しそうに見える。
「ニビル。なんだか楽しそうに見えるけど何か良い事あったの?」
ステラは不思議そうな顔をしてニビルに聞いた。
「えっ?あ・・・・・・こういうの、は、はじめてなので・・・・・・」
ニビルはモジモジしながらそういうと、顔を赤くして俯いてしまった。
「そっか、ニビルが一緒だから私も楽しいよ♪」
「ほんとですか?」
「うんっ♪もう少しで、多分街が見えると思うから頑張ろうね!ニビル」
「はいっ」
ステラとニビルにそう言ってニコリと微笑みかけた。
「ステラは小さい頃から、自分より幼い子にいい顔をしたがるからなぁ・・・・・・」
その様子を見ていた俺はステラに聞こえない様にボソッと呟いた。
「ファイアーボール!!」
「なっ!?ウィンドウォール!」
ステラは俺の小さな声で言った事が聞こえていたのか、俺を鋭く睨みつけて魔法を撃ってきた。俺もそれをとっさに何とか防いだ。
「お、お前危ないだろっ!お前の炎系の魔法は攻撃速度が他の奴の魔法とは違うんだぞ!?」
「ふんッ!行こうニビル」
「は、はいっ」
ステラは俺を睨みつけると、そっぽを向いて、また歩き始めた。
魔法の発動までの時間、威力は術者の力量により上下する。簡単に説明すると、勉強に得意な科目と不得意な科目でテストの点数が違うのと少し似ている。
魔法にも得意な魔法と不得意な魔法があって。俺のようにどんな魔法でも最高クラスで使える人間はそうはいない。ステラは炎系の魔法が得意で、雷系の魔法が苦手なのだ。ステラは料理が得意だから火の扱いに優れているけど、雷が苦手という、ステラの性格が魔法にも現れているのだろう・・・・・・。
「「きゃぁぁぁッ!!」」
「なっ!どうしたっ!!」
2人の悲鳴が聞こえ、俺が急いで向かいと植物系の魔物の触手が体に絡み付いた状態で2人は宙を舞っていた。
「2人とも今、助ける!」
(こいつはオーバープラント、こいつの体液は確か・・・・・・)
「ステラ!魔法は絶対使うなよッ!!」
俺がステラに魔法を使うなと言ったのには意味がある。オーバープラントの体液には引火性の強い物質が含まれていて、少しでも火を近づけると引火し、一瞬で辺りは火の海になる。
「この状態じゃ使えないよっ!あっ、ルド。こっち見たら丸焼けにするからねっ!きゃぁぁぁぁッ!!」
「そんな状況でそんな事。言ってる場合かッ!!」
「ステラさんを放せッ!!」
ステラはスカートを両手で押さえならが触手に振り回されている。俺がつっこみを入れると、ニビルは両手を前に出して魔法を使おうとしている。
「待てダメだ!ニビル。そこからじゃステラに当る。俺に任せろッ!」
(とは言ったものの、どうする?触手を狙うにしても動きが速すぎて狙いが定まらない。なら本体を攻撃するしかないか・・・・・・)
俺は顎の下に手を置いて考え込んでいた。
「ルド。考えてる暇があるなら、早く助けてぇぇぇぇッ!!」
触手に振り回されているステラが俺を見て必死に訴えている。
「まっ、考えててもらちがあかないか・・・・・・とりあえず、考えるのは正面に飛び込んでからだッ!!」
俺は襲ってくる触手をかわしながらオーバープラントの正面に走り込んだ。
「アイススピア!!」
俺の放った氷の槍がオーバープラントの目に直撃した。その直後にオーバープラントは暴れだし、ステラとニビルを放り投げるた。
「ウィンド!」
俺はそれを見て、咄嗟に風で2人をゆっくり地面へと降ろした。それを確認して俺はほっと胸を撫で下ろす。
「ルド!後ろッ!!」
ステラの声が聞こえた時には俺はもう触手につかまっていた。つかまれた俺はそのまま、ブンブンと振り回された。
「くッ!いい加減に・・・・・・しろッ!!」
俺はそう言って両手を前に突き出す。
「ステラ!ニビルの近くで炎の壁を張れ!!」
「は、はいッ!!」
俺にそういわれたステラは急いでニビルの元に駆け寄ると、魔法を使った。
「ファイアーウォール!!」
ステラが手を前に出すと、目の前に炎の壁が現れる。
「ルド。準備OKだよっ!」
「おうッ!アブソリュートゼロ!!」
俺が魔法を使うと、辺りが徐々に凍り始め、あっという間にオーバープラントは凍り漬けになった。
「うわぁ~。ルドルさんって、すごいんですねっ!」
「そうだよ、魔法を使う時だけ。だけどねぇ~♪」
ニビルが目を丸くして驚いた顔でステラを見上げた。ステラはニビルの顔を見るとニコッと微笑み親指を立てる。
「まったく、魔法使う時だけっていうのは余計だっ。それより2人とも、怪我はないか?」
「うん。不満はあるけど怪我はないよ。ニビルは大丈夫?」
「はいっ」
「なら良かった。ここからは魔物が多そうだ、気を抜かずに進んで行こう・・・・・・」
俺のその言葉に2人は頷くと、また森の中を進み始めた。
俺達はこの後。襲ってくる数々の魔物を倒し、やっとの思いで次の街、ラルティアの近くまでやって来た。ラルティアは海に面した街で貿易などで栄えている都市だ。
「早く街の中に入って宿屋でお風呂に入ろうよ、私もうくたくた・・・・・・」
ステラはそう言って地面にへたり込んだ。ニビルも弱音は吐かないものの、相当疲れているのだろう、ふらふらしながらかろうじて真っ直ぐ歩いている状態だ。
「そうだな・・・・・・さすがにこう魔物が多いと辛いな・・・・・・」
「あっ・・・・・・あれはなんですか?」
ニビルが海の方を指差して言った。
「あれは、国の国旗が掲げられている王の軍艦!?いや、でもアルバトリアに来るのは一週間後だったはずだ・・・・・・」
「ルド。それはどういう事?」
「あぁ。お父様が一週間後、王直々にアルバトリアにニビルを探しに来るって書状を出してきたんだ。実物を見たから間違いない・・・・・・」
「なら、なんでもうラルティアに着くの?日程がずれたとか?早く着き過ぎたとか?」
ステラは不安そうな顔をして俺の顔を見てきた。
「・・・・・・分からない。でも、向こうの方にも色々と事情が有りそうだな・・・・・・とりあえず、ラルティアから船を使って移動する作戦はどうやら無理そうだ・・・・・・」
「なら、お風呂もお預けかぁ~。とほほ・・・・・・」
がっかりしているステラの肩を叩きニビルが励ましている。これではどちらが姉か分からない。
「ニビル。お困りのようですね・・・・・・」
「うん。シルフィまちに行けなくなっちゃて・・・・・・」
「そうですか、なら私が近くに街が無いか探してあげましょう」
「ほんと!?おねがいします・・・・・・」
ニビルがシルフィと話をしていると、ステラが心配そうな顔を話しかけてきた。
「ニビル?誰と話してるの?」
「えっ?あ、あの・・・・・・ひみつです」
ニビルは顔を真っ赤にして俯いてしまった。ステラは不思議そうな顔でニビルの顔を覗き込む。
「ニビル。街では無いけど村を見つけましたよ。どうしますか?」
「あ、ありがとう。シルフィ・・・・・・」
ニビルはシルフィにお礼を言うと、ステラの袖を引っ張った。
「あ、あの。もし行くあてがないなら・・・・・・わたしについてきてもらえませんか?」
「ニビル。ここら辺の地理に詳しいの?」
「い、いえ・・・・・・」
「何を2人を話してるんだ?」
俺がこそこそ話をしていた、ステラとニビルの方に近づいていった。
「あぁ、ルド。ニビルがついてきてほしいんだって」
「・・・・・・ニビルが?」
俺がニビルの顔を見るとニビルはぷいっと俺から目を逸らした。
「・・・・・・ニビルはどうして俺達についてきてほしいんだ?この辺りに詳しいのか?」
「い、いえ・・・・・・でも、だいじょうぶですっ」
「大丈夫って言われてもなぁ~」
ニビルは俺の顔を見て言った。俺は頭を押さえて、困り果てる。その様子を見ていたステラが口を開く。
「いいじゃない。ニビルについて行ってみようよっ。ニビルがこんなに自信満々に言う事なんて珍しいし、ねっ♪ニビル」
ステラはそういうとニビルの頭を優しく撫でる。ニビルも嬉しそうにニコッと笑った。
「そうだな。当てもないし、ニビルについていってみるか!」
「は、はいっ♪」
ニビルはパァーっと表情を明るくすると、トコトコと歩き出した。俺達はニビルの後をついていくと洞窟の前でニビルの足が止った。
「こ、この中・・・・・・です」
ニビルは洞窟の中を指差して言った。
「えぇ!?もしかしてニビル。今日此処に泊るつもりなの!?」
ステラが驚いてニビルに聞くと、ニビルは首を横に振って否定した。
「えっと、このおくに抜けあながあります・・・・・・」
「抜け穴があるのか?ニビル。道案内を頼むよっ」
「はいっ!」
ニビルは元気良く返事をすると、俺達の前をてくてくと歩き始めた。
奥に進んで行くと、ニビルはある壁の前で立ち止まる。
「ここです・・・・・」
「ここですって・・・・・・ただの壁だぞ?」
「あ、あの・・・・・・ステラさん。ここに魔法を・・・・・・」
「OK任せてっ!ファイアーボール!!」
ステラが魔法を使うと、壁が崩れ落ちる。その崩れ落ちた壁の先から道が現れた。
「こんな所に隠し通路が!?」
「ニビルのお手柄だなっ!」
壁に隠されていた道を進んで行くと、小さな村が見えてきた。
「ルド。ニビル。村だよ!村が見える!!」
「これでひとまず初日から野宿は回避されたわけだ・・・・・・ステラ。ニビルに感謝しないとなっ」
「そうだねっ!ありがとう♪」
「いえ・・・・・・」
ニビルは恥ずかしいのか頬を赤く染めた。
俺達は村に入ると、まずは宿を探すことにした。
「すみません。この村に宿屋はありませんか?」
俺は前を通りかかったお婆さんを止めて聞いた。
「あんた達見かけない顔だけど、どこの家の人だい?」
「いえ、私達はこの村の者ではないんです。私達は旅をしていて、今晩泊まれる場所を探しているのですが、お婆さんどこか知りませんか?」
「あなた方、この村の者じゃないのかい?」
「はい。私達は旅をしているんですが、森の中で迷ってしまって・・・・・・」
俺はお婆さんにこの村に来るまでの経緯を説明した。
「そうでしたか、魔物に・・・・・・」
「なら、村長にわしが掛け合ってあげよう。この村には宿屋はなくての〜。旅の人にはいつも、村長の家で休んでもらっておりますのじゃ」
そういうと、お婆さんはニッコリと微笑み、俺達を村長の家まで案内してくれた。3人が村長の家の前に着くと、驚いたようにその家を見上げた。あまり大きくない家だが、家全体的は木で作られており、屋根には瓦が乗っていて、この世界では珍しい造りになっている。勿論ルドルのいた街、アルバトリアではこのような造りの建物はない。
「こんな建物。私、見たこと無いよ・・・・・・」
「俺もこれは始めてみる建築物だ・・・・・・・」
俺とステラははじめて見る建物に驚き口を開けたまま、その場に立ち尽くしていた。すると、家の中から中年の男性が出てきた。
「こんにちは、バルテスタさん。おや?そちらの方々はどちら様ですかな?」
家の中から出てきた男性は不思議そうな顔をして首を傾げた。
「この方は旅の人でな、この村に宿が無いからここに連れて来たんじゃよ」
「そうだったんですか、どうぞお入り下さい。と言っても大したおもてなしも出来ませが・・・・・・」
(あれ?2階の窓から誰か見てる?)
俺が窓を見ている事に気が付いたのか、その人影は急にカーテンを閉めて姿を隠した。
「いえ、雨風が凌げれば充分ですよっ。ねっ!ルド」
「あ、はい。お世話になります・・・・・・」
(今、誰か2階の窓から覗いてた気がしたんだけど・・・・・・)
「すみません。誰か2階からこちらを覗いてるように思ったんですがご家族は?」
俺はどうしてもその事が気になり、家主の男性に聞いた。すると、男性は慌てた様子でそれを否定すると俺達を家の中へと招き入れた。
中に入ると、俺達は一斉に天井を見ると驚いた様子で顔を見合わせる。家の中は意外と広く解放的な感じだ。しかし、1つ不安があるとすれば天井も木の柱で支えられていて事だ。崩れて来ないのかと心配になる。だがレンガ造りの家と違って通気性、保温性に優れているようだし、それに何よりも家の至るところから木の香りが漂ってきて、何だか心が安らぐ感じもする。
「皆さん。そんな所にいないでこちらに座って待ってて下さい。今、お茶の用意をしますから」
「そ、そんな悪いですよ!お茶なんて、私達は今晩泊めて頂けるだけで充分ですよ!?」
「いえ、この村では数少ないお客様ですから、それくらいはやらせて下さい」
そういうと男は俺達をリビングに残し、キッチンへと向かっていった。俺がチラッとステラとニビルの方を向くと、2人は小さな声で話をしている。
「何だか珍しい家だね♪」
キョロキョロと家の中を見て落ち着かない様子のニビルに、ステラはニッコリと微笑みながらそう言うと、ニビルは頷いてステラの顔を見てニコッと笑った。俺は2人のその微笑ましいやりとりを見て心が暖かくなる。最初は見た目よりずっと大人びて見えていたニビルがステラと話している時だけは年相応に見えてきた
からか少しだけ安心した。俺達よりずっと年下なのに、たまに俺達よりずっと大人に感じてしまう・・・・・・。俺はそんなニビルに知らず知らずのうちに違和感を抱いていたのかもしれない。
そうこうしてるうちに、男が4人分のティーカップをトレーに乗せて持って歩いて来た。
「この家がそんなにめずらしいかい?」
「えっ?いえ、少しめずらしい造りだと思ったもので・・・・・・」
「この家は私の兄の設計した家でね、世界に1つしかないんだよ・・・・・・」
「そうなんですか!?是非お会いして色々話を聞いてみたいです!」
ステラが目をキラキラさせながら聞いた。
「それは嬉しいんだけど、兄はもうこの世には居ないんだよ・・・・・・」
男は少し感慨深い表情でそういうと、俺達の前にティーカップを置いた。
「ごめんなさい。私、余計な事を・・・・・・」
「ははっ、良いんだよ。もう2年も前の話だから、気にしないでっ。それじゃ~。今ケーキを持ってくるから少し待ってて下さいねっ!」
男はそういうともう一度キッチンの方へと消えていった。それから俺達はケーキを食べ、森を越えるまでの話を少ししているうちに夜になり、夕食を食べ終わると男に案内され2階の部屋で眠りに付いた。
その夜。俺は隣の部屋からの異様な気配に目を覚ますと、俺は横のベッドで寝ているステラとニビルを起こさないように部屋を出て、その部屋の前までいった。その部屋は外から鍵がかけられており、中に入れなくなっている。
「やっぱり気になるよなぁ・・・・・・」
「ロックアウト」
俺が呪文を唱えると鍵がガチャっと開いた。
「よし開いた。さて、このドアの向こうから鬼が出るか蛇が出るか・・・・・・」
俺がドアをゆっくりと開くと、中にはふわふわしたピンク色のロングヘアーの小さな女の子がキョトンとした顔で椅子に座っていた。その子の後ろからは月の光が差し込み、青い瞳がまるで宝石のようにキラキラと輝いて見えた。
「あ・・・・・・あなたは誰?」
そのピンクの髪の女の子は少しおびえた様子で体を小刻みに震わせながら、じっとこっちを見つめている。
「大丈夫。別に変な事はしないから、それより昼間に俺の事見てたよね?そこの窓から」
「え?ごめんなさい。お客さんが着たから、どんな人か気になって・・・・・・」
「良いよ、でも君はどうしてここに閉じ込められてるんだ?良かったら聞かせてくれないか?」
「そ、その、私は他の人と違って、おかしいから・・・・・・この部屋にいなさいってニコルおじさんが・・・・・・」
ピンクの髪の女の子はそういうと悲しそうに俯いた。
「他の人と違うって!?どうして違うと閉じ込められないといけないんだよ!!」
「それは・・・・・・他の人の迷惑になるから」
「はぁ~。君は誰かに迷惑をかけたのか?」
俺が聞くとピンクの髪の女の子は俯いた。その瞳には薄っすらと涙を浮かべている。
「ごめん。いやな事を思い出させたか?」
「ううん。私が・・・・・・全て私のした事だから」
「もし良かったら俺に話してくれないか?そういう事は溜め込まずに人に話した方がすっきりするぞ?その前に君の名前を聞いても良いかな?」
俺はそう言ってピンクの髪の女の子の顔を覗き込むとニコッと微笑んだ。
「私はエル。エル・ミラードです・・・・・・あ、あなたは?」
エルは少し不安な表情で俺の顔を見て名前をたずねてきた。
「俺はルドル。ルドル・オーフィスだ。そうか、エルっていう名前なのか、綺麗な名前だね」
「・・・・・・」
俺がエルの名前を褒めると、エルは少し恥ずかしそうに頬を赤らめると、俯いてしまった。
「それで、エル?君は何をして、この部屋に閉じ込められてるの?」
俺のその直球な質問にエルは口を一の字に閉じたまま、開こうとしない。それからしばらくそのまま沈黙の時が続いた。その時、今まで閉じたまま開かなかったエルの口から衝撃的な一言が出てきた。
「私は・・・・・・父と母を殺したんです・・・・・・」