第2話 [大きい代償]
「爆発音が大きくなった。待っててねニビル・・・・・・」
ステラが全力疾走しながら森の中を進んで行くと、まるで狩りでもしているのかと思うような感じの声が耳に入ってきた。
「大事な生き物だ。殺さずに生け捕りにしろっ!」
「はい、隊長。ウィンドショック!!クソッ!外れた・・・・・・そっちに行ったぞ!」
「アクアシュート!!当った!?」
ステラが現場に着いた時には、ニビルは地面に倒れている状態だった。
(ニビル!?敵の数が多いわね、ここは救出出来る隙を窺いながら・・・・・・)
「バインド!」
兵士達は倒れているニビルを光の鎖で拘束する。広場に居た黒髪を束ねた男がニビルの前まで行くと立ち止まった。
「小娘が手間を取らせおって、躾ののなってない犬には少し躾が必要だな・・・・・・」
『エレクトリック!』
「いやぁぁぁぁぁッ!!」
男はバインドによって抵抗出来ないニビルに向って電気を流した。
ニビルは悲鳴を上げると、その場に倒れ込んだ。
「あいつら・・・・・・もう我慢出来ない!」
『ファイヤーボール!!』
「うわぁぁぁっ!」
ステラは魔法でバインドをかけていた兵士を倒すと、男とニビルの間に割って入った。
「誰だお前は!?」
「抵抗出来ない女の子をいじめるなんて、男としても人としても最低なんだからっ!」
ステラが男に向ってビシッと指を差して言った。
男は急に顔を手で押さえて笑い出す。
「フフフ・・・・・・ハッハッハッハ」
「何がおかしいの?」
「いや、失礼。お嬢さんは、何か大きな勘違いをしていると思ったので」
「・・・・・・勘違い?」
ステラは目を細めると男の顔を睨みつけた。
「そうです。そこに倒れているのは殺人犯なんですよ?それも逃亡の為にどこからか服を盗んだみたいでして、窃盗も犯しています。国王が指定した第一級指名手配犯。見た目は幼女でも凶悪犯なのですよ?」
「殺人犯?私には、幼い女の子1人に寄ってたかっていじめているあなた達の方がよっぽど危ない人に見えるけど?」
「フフフッ。ご冗談を・・・・・・申し遅れました。私は王直属の部隊。センチュリオンの6番隊。隊長のアデルと申します」
男は名前を言うと深く頭を下げた。
「あなた達が誰かなんて関係無い・・・・・・私の友達なの、もうこの子に関わらないでっ!今すぐに此処から立ち去って!でないと・・・・・・」
「でないと?・・・・・・どうなさるおつもりで?」
「あなた達を倒す事になるわっ」
「私達を倒す?・・・・・・とても、良い判断とは言えませんね、この人数を相手にあなた1人では無理がありますね。あなたはまだ若い、今すぐにこの場所から立ち去って頂ければ、私達に攻撃をしてきた事は忘れて差し上げましょう。さぁ、その娘から離れてこちらへ・・・・・・」
そういうとアデルはステラに向かって手を差しのべてきた。
「・・・・・・お断りよ!」
ステラはその手を勢いよく叩くと、両手を前に出して、いつでも魔法を使えるように身構えた。
アデルは払われた手を見て開いたり閉じたりを繰り返すと、ステラを鋭く睨んだ。
「交渉決裂。というわけですか・・・・・・ならば、生かして返すわけにはいきませんね。お前達!この娘を先に片付けなさい!」
アデルの命令で、周りの兵士達が一斉にステラ目掛けて襲い掛かる。
「えっ!?いっぺんになんて卑怯よ!」
『タイムスロー!!』
魔法によって、ステラに向かってきた兵士達の動きがゆっくりになる。
「この声は・・・・・・ルド!?」
「まったく、お前はたまに、こうした無茶をするから目が離せないんだよな・・・・・・」
「なによ・・・・・・バカ」
ステラは頬を膨らませながら俺の顔を睨んでいる。
「お、お前はオーフィス家の・・・・・・」
「あなたは、王様の部隊の隊長さんですよね?御引き取りになるようにと、先程言ったはずですよ?」
俺はそう言ってアデルの顔を鋭く睨みつける。
「死ね小僧!」
魔法に掛かっていなかった兵士の1人が、俺に向って剣を振りかざしてくる。
「話しの邪魔だ!ゾーンバインド!!」
俺は魔法で周りの兵士、全てを光の鎖で拘束した。
「隊長さん。あなたはこの術の効果は分かってるだろ?」
「クッ、周囲の敵を全てを一瞬で拘束する高等魔法・・・・・・」
「そう、良くご存知で・・・・・・しかもその効果範囲は術者の力量によって決まる」
俺はニヤッと不敵に笑うとアデルの顔を見た。
「あなたの引き連れた兵士の位置は全て把握済みだ、チェックメイトですよっ。隊長さん」
「くっそぉぉぉぉッ!小僧がっ!」
『ライトニング!!』
「この程度の魔法。片手で十分だ・・・・・・」
『ウィンドウォール!』
俺はアデルの出した魔法を魔法で防ぐ。そして素早くもう1つ魔法を唱えた。
『フルバインド!!』
アデルの背後に魔法陣が現れ、そこから出た4本の光の鎖でアデル手足を拘束する。
「その鎖にはいかなる魔法をも無効にする力がある。抵抗しても無駄ですよ?俺は、あなたと話しをしたいだけだ・・・・・・」
「くそッ!お前もあの小娘と同じだったか・・・・・・ルドル・オーフィス!!」
「・・・・・・どういう意味だッ!?」
俺はアデルの顔を鋭く睨み付けて尋ねた。
「お前も化け物っていう事だッ!」
「ば、化け物だと・・・・・・それはどういう意味だッ!!」
俺はアデルの胸ぐらを掴むと、アデルの顔を睨み付けた。
「そのままの意味だ・・・・・・その娘は、親を自分の魔法で吹っ飛ばして殺した化け物だ。そして、我等の仲間も数多く殺された。お前もその獣と同じだと言っているんだよ!ルドル・オーフィス!!」
「ニビルが・・・・・・親を殺した!?」
俺はステラの後ろに倒れている。ニビルをチラッと見た。
「そんなの嘘よ!ニビルはそんな事する子じゃない!それにこんな小さな子を、よってたかっていたぶる。あなた達の方がよっぽど獣よっ!」
ステラはニビルを倒れていた抱き起こすと、アデルを睨みながら言った。
「黙れ娘!何も知らない子供が・・・・・・危険な獣は、然るべき場所で折に入れて管理しておかないといけないのだ!そうしているからこそ、世界の平和は保たれている。これが現実なのだよ!!」
「黙るのはお前だっ!ステラの言う通りだ・・・・・・お前達の方が獣だッ!ここであった事は全て忘れろ!そしたらお前達が許可無く、山狩りをした事は水に流してやるよ・・・・・・」
俺はアデルと周りの兵士達を冷たい目で見ると、そう言ってまたアデルを睨みつけた。
「フンッ、何を今更。この事はしっかりと王様に報告しておく!お前もお前の一族も皆殺しにしてやる!覚悟しておくんだな!!」
アデルは鼻で笑ってそう言い放った。
「そうか・・・・・・なら仕方ない。ここは丁度、森の中だ・・・・・・お前達の死体は、魔物が全て綺麗に片付けてくれるだろう・・・・・・」
俺はアデルと周りの兵士達に向かって魔法を唱えた。
『アイススピア・・・・・・』
俺は敵の亡骸に背を向けると、ニビルを背負ってゆっくりと歩き出した。
「・・・・・・ルド」
「ステラ。街に戻るぞ・・・・・・」
「ごめんなさい。本当は私がしなきゃいけなかったのに・・・・・・」
「良いんだ、世の中に偶然はない。有るのは必然だけだ。ステラを追い駆けてきた時から、こうなるようになっていた・・・・・・そういう事だっ」
「うん」
「それよりニビルの手当てが先だ、早く戻ろう!」
「そうだね。急いで私の家に戻りましょう」
街に着くと、俺はステラの屋敷に着くとステラの部屋へとニビルを運び、傷の手当をしてベッドに寝かせる。
「ステラ、話しがある。少し話せないか?」
「分かった。なら外で話そう、ここだと・・・・・・」
ステラは寝ているニビルを見て言った。
「そうだな、なら外に行こう」
俺とステラは屋敷の庭園を歩いていた。
「ステラ覚えてるか?昔ここでよくかくれんぼをしてたよな」
「うん、そうだね・・・・・・」
ステラは少し緊張した様子で俺の横を歩いている。
「俺は何時もお前を見つけられなくて、夕食時にマイケルが迎えにきてたのを覚えているよ」
「ルド・・・・・・それで、話しって、なに?」
ステラは真面目な顔をして俺の顔を見て聞いた。
「俺は王様の直属の部隊。しかもその隊長を殺してしまった。多分、あいつがこの街に向った事は王様はもう知ってると思う・・・・・・」
「・・・・・・うん」
「だから、俺はこの街を出ようと思う、ニビルも一緒に」
「なら私も行く!ルドが人を殺めてしまったのは私の責任が大きいし・・・・・・」
ステラは悲しそうな顔をして俯いたままそう言った。
「ステラはこの街に残ってくれ、もしこの街に疑いが掛かった時にそれを解いてくれる人間が必要になる」
「それなら私じゃなくても・・・・・・」
「ダメだ!!」
俺は声を荒げてステラの顔を見つめる。
「お前は俺達とは違う・・・・・・普通の人間には俺達と一緒には旅は出来ないだろう?」
「普通の人間ってなに?ルドだって普通の人間でしょ?」
「俺は、あいつが言ってた通り。化け物なんだよ・・・・・・」
俺は空を見上げて、そう呟いた。
そう、アデルが言った通り、俺達は化け物なのだ、俺も小さい頃から力を制限されてここまで生きてきた。今考えてみれば、それも大人達が俺の力を恐れての事だろう。俺自身もどこかで分かっていたんだ、人より優れて生まれてきた者には孤独しかないと・・・・・・だけど、ステラが、こいつがそれを感じさせないようにしてくれていた。そう、俺がステラと始めて出会ったのは幼稚園の時だった・・・・・・。
俺はその時から、他の子とは違って魔法資質が高かった為、強制的にリミッターを付けられ、日常生活を送っていた。それもあってか親が子供に俺にはあまり近づかないようにと言い付けていたのだろう。いつも俺の周りには同い年の子は殆ど必要以上の事意外は近寄って来る事はなかった。そんな時、声を掛けてきたのがステラだ。ステラはその頃から今と変わらない。
「あなたは何故誰とも遊ばないの?」
「ほっとけ、お前こそ俺に話し掛けたりしたらお母様に叱られるぞ?」
「・・・・・・ん?どうして?」
「どうしてって・・・・・・知るかよそんな事!」
「あぁ、分かった。あなた。ひ・と・み・し・り?なんでしょ!」
「!?・・・・・・ち、違う!!」
「恥ずかしがらなくてもいいよ。私が友達になってあげるっ。その代わり、あなたは今日から私のひつじね!」
「それを言うなら執事だろ?」
「あはははは~」
「笑ってごまかそうとするな!」
俺は空を見ながら、小さい時の事を思い出していた。
「ルド。なにをぼ?っとしてるのよ、話しの途中で・・・・・・アデルに言われた事を気にしてるの?」
ステラは俺の顔を覗き込んでそう言うと、少し不安そうな表情をしていた。
「と、とにかく!お前はこの街で待ってろ!!・・・・・・良いな?」
俺はステラを見て、念を押すように指を差して言った。
「私はルドよりニビルが心配なのよっ!ルドが年端もいかない女の子に手を出さないか見張ってないと・・・・・・」
「それは、どういう意味だよ!俺がニビルに何かすると思ってるのか!?」
「どうかしらねぇ~、お母様が言ってたし、小さい頃。ルドが私の着替えを見て、よく鼻血を出してたって・・・・・・」
「おい!それは見るなってお前が俺の顔を殴ってたからだろ!!」
「そ、そうだったかなぁ~」
ステラは俺から目を逸らしながら言った。
「とにかく!疑惑がある以上、私も同行するからねっ!」
「ダメだって言ってるだろ!」
「なら、ゼラの叔父様にこの事、話しちゃうよ?」
「そ、それは・・・・・・」
ゼラとは俺の叔父さんで、父親の兄弟でとても固い事で有名な人で、例えるなら侍みたいな人だ。俺もよく小さい頃に悪さをして叔父さんの部屋で一週間正座させられ説教をされた事が今でも、トラウマとして残っている。
「ゼラ叔父さんに言うのだけは・・・・・・」
「なら、私も行くけど良い?」
「・・・・・・はい」
俺は仕方なくステラの要求をのんだ。
「なら決まりね!明日のお昼に街の広場の噴水前で待ち合わせしましょう。ニビルには私から伝えておくわね♪」
「はい。仰せのままに・・・・・・」
「ならまた明日。広場の噴水の前でね♪」
「了解。とほほ・・・・・・」
ステラはそう言い残して笑顔で屋敷の中へと戻っていった。
俺は大きな溜め息をつくと自分の家に戻った。家に着くとセバスチャンが血相を掻いて俺の方に走って来た。
「はぁ、はぁ。坊ちゃま!大変でございます。旦那様が坊ちゃまを呼んでおります!」
「それでお父様はなんと?」
「分かりません。ただ、ルドル坊ちゃまが帰ったら、旦那様の部屋に来るようにとの事でした」
(お父様は何を・・・・・・まさか、あの事がばれたのか?とりあえず、行ってみるしかないか・・・・・・)
「分かったから、とりあえず落ち着け。セバスチャン」
そんな事を考えながら、息を切らせているセバスチャンにそういうとお父様の居る書斎へと向った。
お父様の書斎の前まで行くと、俺は一度深く深呼吸をしてから覚悟を決めて扉をノックする。
「誰だ?」
部屋の中からお父様の声が聞こえた。俺はもう一度深呼吸をしてから返事をした。
「ルドルです。セバスチャンからお父様が私を呼んでいると言われて参りました」
「ルドルか、入りなさい・・・・・・」
「失礼します!」
扉を開けると書斎の椅子に座っている。赤い髪に鋭い赤い目の体格の良い、無精髭を生やした男性が椅子にどっしりと座ったままルドルをその鋭い眼光でじっと見つめていた。
「ルドル。お前は王の兵士を殺したらしいな・・・・・・」
「お父様何故それを!?」
俺はあまりの衝撃に開いた口が塞がらない。
「そんな事はどうでも良いのだ。それより気になったのが、お前と共にいた少女の事だ・・・・・・」
「・・・・・・何の事でしょうか?」
俺が目を逸らしてとぼけたようにそうそういうと、お父様は椅子から立ち上がり、本棚の本を並べ替え始めた。
すると、本棚は床へと下がり、本棚の裏から古い鉄製の扉が現れた。お父様はゆっくりと扉を開けると、その中へと入ってゆく。俺もお父様の後をついて扉の中に入った。
「お父様どこへ向っているのですか?」
薄暗い階段をお父様の手から生み出した光だけが道を照らしていく。
「すぐに分かる」
少しいくと一番奥に到着したのか、真っ暗な広い空間に俺とお父様は立っていた。
『イグナイテッド!』
お父様が魔法を使うと1つ1つロウソクに火が灯っていく。
その場所にあった物に俺は言葉を失った。
「こ、これは!?」
ロウソクの灯りが辺りを優しい光で包む、その暗闇の中に出てきたものは一枚の大きな絵だった。
そこにはニビルと同じ容姿をした1人の少女の姿が写し出されていた。
「お父様。これはいったいどこで!誰が描いたものですか!?」
俺は震えた声で絵を指差し、お父様の顔を見た。
「お前も驚いたか?しかし、私も驚いた。この絵に描かれている少女はお前の曾御祖父様が描かれたものだ・・・・・・」
「・・・・・・曾御祖父様が!?」
「そうだ、私の御祖父様。お前の曾御祖父様は元はこの国の国王だった御方だ。書物にはこう残されておる。この絵に描かれた少女は女神クレスティアと・・・・・・」
「女神クレスティア!?」
クレスティアと聞いて、俺は一番最初にニビルが自己紹介をした時の事を思い出した。
俺はニビルの名前を思い出した。「わ、わたしはニビル・クレスティアです」そういえばニビルもクレスティアと名乗っていた。ならここに描かれている少女と同一人物。つまりあの子は女神クレスティアという事なのか・・・・・・。
しかし、そうなれば、曾御祖父様の生きていた時代から今まで容姿がまったく変わらない事になる。
俺の頭の中に[不老不死]その言葉が浮かんできた。
「そんなはずが・・・・・・お父様!この絵は曾御祖父様が何歳くらいの時に描かれたものなのですか!?」
「この絵は曾御祖父様がお前と同じくらいの歳に描かれたものだ。あの子を見た時にまさかと思ってはいたが、まさかお前が本当に予言の子だとは・・・・・・」
「予言の子?予言の子とはどういう事ですか!?」
俺はお父様のその言葉に慌てて聞き返した。
「書物にはこう書かれている。女神クレスティアは戦争を終結させ、この世の悪を憎み、そして天に昇った。また悪、はびこる時。もう一度この世に転生するであろう。その時、オーフィス家の男児と共に、この世を悪から救済すると・・・・・・」
「悪から救済!?」
お父様は話し終わると絵の方へと歩いて行く、壁の前まで行くと、レンガの1つを壁の奥に押し込んだ。すると、その横のレンガが開き、そのレンガの窪みから1つの指輪を取り出した。
「これは御祖父様の遺言だ、もし、もう一度クレスティアが現れたら。この指輪をその者に、と・・・・・・」
俺はお父様の手に乗っている指輪を見て言った。
「これは魔法力を増幅させる指輪だ。お前に幼い頃より強いリミッターをかけていたのは魔力を抑える為ではない。魔法力を鍛える為だったのだ・・・・・・」
「な、何を言っているのか私には分かりません・・・・・・」
俺は驚き目を丸くさせる。それもそのはずだ、今まで強すぎる魔法力を制限されているだけだと思っていた。リミッターの本来の目的は俺の魔法力を鍛える為に付けさせられていたと聞かされれば、誰だって混乱するに決まっている。
「お前には辛い思いをさせたな、しかし、これもオーフィス家に生まれた者の定めなのだ。分かってほしい・・・・・・」
そう言ってお父様は俺の手に指輪を置いた。俺はその指輪をじっと見詰める。
そして、次の日の朝。ステラの声で目を覚ました。
「ルド!大変!大変なのッ!!」
俺が瞳を開くと目の前にはステラは泣きそうな顔で、俺を見詰めるステラの顔があった。
「どうしたんだ?まだ待ち合わせの時間には早いだろ?」
俺は眠い目を擦りながら言うと、今まで、泣くのを我慢していたステラが急に泣き出した。
「・・・・・・どうしよう、朝起きたらニビルが・・・・・・ニビルが居なくなってたの」
「なにぃぃぃッ!!ニビルが居なくなった!?」
俺はベッドから飛び起きると、両手でステラの肩を掴んでステラを問いただした。
「どうして?昨日何があったんだッ!?」
「ひくっ・・・・・・ぐすっ・・・・・・」
「泣いてたって分からないだろ?一体何があったんだ」
「ひくっ・・・・・・実は、昨日ルドが帰った後にニビルに旅に出るって伝えたの、そしたら、今朝起きたらこの書置きと、こんな物が私の机の上に置いてあったの・・・・・・」
そう言ってステラは俺に4つ折りにした紙とロケットを手渡した。俺はその手紙を読む。
「ルドルさん、ステラさんへ。このたびは、たいへんお世話になりました。いろいろ考えてみたのですが、これ以上、お2人にごめいわくを、おかけするわけにはいきません。わたしは今までどおり1人で行こうと思います。これは助けていただいたお礼です。わたしの持っている物の中では、いちばんこうかな物です。どうぞ、受け取ってください。お元気で・・・・・・。ニビル・クレスティア」
俺は手紙を読み終えるとニビルの置いていったロケットペンダントを開いた。
そこには赤ちゃんを抱いてニッコリと笑う金髪の女性の写真が入っていた。
「・・・・・・ニビル」
「ルド。どうしよう・・・・・・」
「どうしようって追い駆けるしかないだろ!行くぞステラ!!」
「う、うん!」
俺はそう言って机に置いていた荷物を持ってステラの手を握ると、そのまま家を飛び出した。
「よし。手分けしてニビルがどっち方面に向かったのか街中を聞き回るぞ!!」
「うん。分かった・・・・・・」
そう言って俺とステラは街中の人にニビルの事を聞き回って情報を集めた。すると、街の東口の鍛冶屋で有力な情報をを聞き出せた。鍛冶屋の店主の話によれば、昨晩、夜遅くに水色の髪の小さな女の子が何も持たずに出て行ったらしい。
俺は鍛冶屋の店主に「ありがとう!」と、お礼を言うと、急いでステラと合流した。
「ニビルは東の方角に向ったらしい・・・・・・」
「東って!大きな湖がある方角じゃない!あそこは強い魔物が多く住むエリアだよ!?」
ステラが言っている湖とはアルティア湖の事である。この湖の近くには洞窟があり。その洞窟の主がよくアルティア湖に水を飲みにやって来る。そ例外にも湖が魔物達の水飲み場になっている。強い魔物が一匹いれば他の魔物のレベルも必然的に高くなる。だから街の人間は、絶対にアルティア湖には近づかないのだ。
「昨晩に出て行ったなら、子供の足なら今頃、シルフィの森の近くか・・・・・・」
俺は顎の下に手を置きステラの顔を見てそう言った。
「ステラ急ぐぞっ!間に合わなくなる!!」
「うん!」
俺とステラは急いで街の東口からシルフィの森へと向って走り出した。