第1話 [謎の幼い少女]
俺の名前はルドル・オーフィス。オーフィスが姓でルドルが名前。前から読んでも後ろから読んでもルドル。オーフィス家は、代々ここアルバトリアの領主の家系で、何でも俺の曾御祖父様が王家の末裔とか。成績優秀。スポーツ万能。魔法も万能。金も有るし。ルックスも良い。非の打ち所も無い御坊ちゃま。まぁ、俺は三食昼寝付き、優雅な暮らしが出来れば良いんだけど・・・・・・。
「ルドル御坊ちゃまー。ステラ様が御坊ちゃまの事をお探しになられておられましたぞー!」
「分かった。下がれ!セバスチャン」
さっきのはオーフィス家に仕えている、執事のセバスチャン。口うるさくて融通の利かない頑固じじいだ。
アルバトリアの街は人や建物でごちゃごちゃしていて、あまり好きになれないが、アルバトリアの空は良い、透き通っていて、どこまでも吸い込まれそうな感覚がある。
「ルド!どこに居るの?」
「うぇー。この声は・・・・・・ここに居るよっ!どうしたんだ?ステラ」
俺は屋根からヒョコッと顔を出し下を見た。
「あっ!また授業サボって屋根の上に登ってる。もうっ!ステルマン先生かんかんだよ!?」
今、下でうるさいく叫んでるのが俺の幼馴染のステラ・エイミス。綺麗でつややかな金髪のロングヘアーで瞳の色はまるで空のような綺麗な青色をしている。エイミス家のお嬢様だ。
エイミス家はアルバトリアでも有数の貴族で、何でも俺の曾御祖父様の側近だったらしい。それにさっきステラの言っていたステルマンってのが、俺の通うアトリア学園の魔法学の先生だ。火の魔法をメインに教えている、どうにもうさんくさい男だ。
「もう!ルドが居ないと授業が進まないでしょ!!」
「どうせ、俺に見本を見せろって言うんだろ?」
「それが分かってるなら早く来てよね!私が先生に怒られちゃうんだからっ!」
ステラは頬を膨らませて怒っているようだ。ステルマは楽しようとしてるんだろう、いつも俺に皆の為にとか言って、魔法使わせる、気に食わない奴だ。
「分かったよっ、ステルマンにすぐに行くって伝えてくれっ!」
「もう、私と一緒に行くんだからねっ!」
「分かってるっ!」
俺は屋根に空いてる窓から部屋に戻ると、下で待つステラの所に行く。
「さて、行くかっ!」
「うんっ!」
俺とステラは顔を見合わせると、急いで学園の魔法用の校庭へと向って走った。校庭といっても魔法用防護壁に囲まれたドームなんだけど、ここアルバトリアは魔法と科学が融合した都市で、どちらの研究も日夜進められている。科学より魔法の方が歴史は古く、科学は魔法と共存する為に生み出されたもの。魔法資質の高い人は抑制し、弱い人は増幅させてくれる技術だ。人によって魔力量、個人で資質が高かったり低かったりする。低い人でも生活になに不自由しないようにする為の技術、それが科学なのだ。
「ステルマン先生。ルドを連れてきましたっ!」
「おぉ、ステラ君。連れて来てくれたかっ」
ステラがニコニコして話しかけている、痩せててメガネをかけた、黒髪で瞳が緑、眼つきの鋭いこの男が噂のステルマンだ。
「呼ばれて来ました。ルドルです。何をすればよろしいので?」
俺は少し不機嫌そうに言った。それもそうだ、昼寝の邪魔をされて気分のいい奴はいない。
「ルドル君。君はもう魔法学はコンプリートしているね?それを彼等に見せてあげて欲しい」
「だから何をすればいいんだ?」
「ルド!先生だよ?敬語だよ、敬語っ!」
俺の後ろからステラの声が響く。ステラはあれで聞こえないように言ってるつもりなのだろうが、多分、皆に聞こえてると思う。
「ルドル君。君にはそこのロウソク10本に火を灯してもらいたい、出来るかね?」
「フッ、簡単ですよ。僕を誰だと思ってるんですか?ルドル・オーフィスですよ!?」
『イグナイテッド!!』
俺が呪文を唱えるとその瞬間。10本のローソク全てに火が灯った。その場にいた生徒達からは「おぉ~」っという歓声が上がっている。
「これでよろしいので?用が終わったんなら、俺は行きますよ?」
「ちょっと、ルド。どこに行くの!?待ってよ、私も行くっ!」
足早にその場を離れた俺の後をステラが小走りでついて来る。
「チッ!クソガキが・・・・・・」
ステルマンはボソッと呟いて、背を向けて歩いていくルドルを嫌悪した目で見送った。
「ついて来るなよ、お前も先生に白い目で見られるぞ?」
「そんな、誰もルドをそんなふうに見てないよ?」
「・・・・・・どうだろうな?」
そう、俺は学園でも浮いている。魔法の力が強すぎて、科学の力で制御出来ないからだ、大人はどこか俺の事を怖がっていように見える。気を使っているのもすぐに分かっていた。人より秀でた力を持つ者は恐れられ、妬まれる。それは世の中の摂理だ。
「普通の奴には分からないっ!俺の苦しみは・・・・・・」
「ルド、待ちなよっ。ルドったら!」
俺がボソッと呟いくと、また歩き出した。その時、突如として東の山が光った。光が収まると、少し遅れて今度は爆発音が聞こえてくる。その音の方に目をやると、そこに有ったはずの山が消えている。俺の記憶が正しければ街の東、アルード鉱山があった場所だ。
「ステラ、行ってみよう!」
「ルド、止めた方が良いよ・・・・・・」
「どうして!?」
「だって、ドカ~ンって山が1つ吹っ飛んだんだよ?ねぇ・・・・・・大人の人を呼んでこようよ・・・・・・」
ステラは怖いのか体を震わせながらそう言った。
「分かった。なら、ステラはここに居ろよ。俺が行って様子を見てくるっ!」
俺はステラを置いて、光が発生したアルード鉱山へと向う。アルード鉱山は昔、魔法石の採掘が盛んに行われていた場所だ。
魔法石とは地中から採掘される鉱石で、別名アースの恵み。大地の精霊アースが人に力を与えてくれるという神話からきているらしい、魔法力を一時的に2倍以上に強化する事が出来る為に昔は多く使われていた。しかし、科学が発達したのと同時にその鉱石も役目を終え、今は使用を禁止され化石と化してる。
「強い魔物が暴れている可能性も有る。リミッターを切った方が良いか・・・・・・」
俺はポケットから四角い機械を取り出すと、じっとそれを見つめる。リミッターとは、力が強い者の魔法力を極端に弱める。今手に持っているこの装置の事だ、俺は小さい頃からこれを持たされて育ってきた。生まれつき魔力が強かったからだ。アルード鉱山があった場所に着くと、あったはずの山がもう殆ど跡形も無く吹っ飛んでしまっていた。何が何だったのか原型も止めていない状態だった。
「酷い有様だな、これは・・・・・・」
「そうだね~」
突然、後ろから声がして驚き慌てて振り返ると、そこにはステラの姿があった。
「ステラ!?待ってろって言ったろ?」
「だって、ルドが心配だったんだもん・・・・・・」
「それにルドったら私がいなかったら、どこまでも突っ走るでしょ?俺はルドル・オーフィスだぞ~って、私はルドのリミッターってわけ」
俺はステラのちょっと馬鹿にしたような言い方に怒ろうとしたが、ステラの体はさっきより震えていて表情も少し引きつってる。多分、無理をして笑っているのだろう。
「まったく、怖いんだろ?・・・・・・俺から離れるなよ?」
「う、うん・・・・・・」
ステラが俺の腕にしっかり掴まったのを確認してから、辺りを見渡しながら歩き始める。あの規模の爆発だ、木や岩も吹き飛んでしまっていて、所々、残骸が道を塞いでいる状況だった。
「ねぇ、あれ見て」
ステラが何かに気が付いたのか、俺はステラが指を指している所を見る。
「動物?いや、子供だっ!」
「子供!?」
俺とステラは、子供が倒れている場所まで急いで向った。そこにはまだ幼い女の子が倒れていた。
「早く街に連れて行きましょ!」
「いや・・・・・・ステラ!その子に近づくな!」
倒れている女の子に駆け寄ろうとしたサリスを止める。
「どうして?」
ステラは不思議そうな顔をして俺の顔を見た。
「その子、おかしいと思わないか?あれだけの爆発に巻き込まれたにしては、あまりに外傷が少ない・・・・・・」
「そ、そういえばそうね・・・・・・」
俺はいつでも魔法を撃てるように身構えつつ、倒れている女の子にジワジワと近づいて行く。その女の子は着ている服もボロボロで髪も泥だらけの状態だった。
「うぅ・・・・・・」
女の子の瞼が少しだけ動いた。どうやら意識が戻ろうとしているらしい。
「目を覚ましそうだ・・・・・・気をつけろよ?」
「う、うん」
「リミッター解除」
俺は、もしもの時に備えてリミッター解除する。この子が何者か分からない以上、対策はしておいた方がいい、もしかすると、あの爆発の首謀者かもしれない。
「・・・・・・ひっ!」
綺麗な純白で透き通った白くて長い髪に瞳は綺麗な紫色をしている。見た感じ、まだ幼く見える。しかし、俺とステラを見るなり、女の子は体を小刻みに震わせて、脅えた様子で2人を見た。
「ん?脅えている?」
「ステラ!俺の後ろにっ!」
「・・・・・・えっ?」
女の子が手を前に突き出した。魔法発動の合図かもしれないと感じた俺は、咄嗟にステラを自分の後ろに下げる。
『ギガ・シエルクロイツ!!』
『ホーリーシールド!!』
俺の嫌な予感は的中した。術発動と同時に、大きな地響きと共に、俺は空に大きな十字架が上がのが見えた。辛うじて、その攻撃を防ぎ切ると、目の前には女の子が力を使い果たしたのか、その場にぐったりして倒れていた。
「はぁ、はぁ、はぁ。俺の、最大の防御魔法と相殺するこの子の魔法は一体・・・・・・」
「ルド、大丈夫!?今のなに!?あの子は!?」
「あぁ、今ので力を使い果たしたらしい、そこに倒れてるよ・・・・・・」
ステラは倒れている女の子に駆け寄ると、俺の方を向く。
「なら私の家に連れて帰ろ、ルド!家まで運んでっ!」
「ちょ、ちょっと待てっ!こんな危ない奴を街に入れるっていうのか!?」
「だって!ほっとけないでしょ!?」
「でも、俺の魔法と互角以上の力を持ってるんだぞ!?」
「ならいいよ!自分で運ぶっ!」
俺の説得もむなしく、ステラは俺の忠告を聞こうともしない。それどころか自分で運んで行こうとしているようだ。
「そんなんじゃ、日が暮れるぞ!?その子は俺が運ぶっ!」
「私ルドのそういう所、好き・・・・・・」
「なに冗談言ってるんだっ!行くぞ!?」
俺は女の子を背負うと、ステラの屋敷へと運んで行った。
ステラの家は洋風の大きな屋敷だ。庭には庭園とプールがあって、小さい事は良くここでかくれんぼをやったのを覚えている。そんな事を考えていると、エイミス家の執事。マイケルが血相を変えてステラに駆け寄って来た。
「お嬢様!先程近くの山で爆発音が、危険ですのでお屋敷の自室に居るようにと、旦那様から仰せつかっておりますっ!」
「えぇ、マイケル。ルドも一緒だから2人で大丈夫。それと、私の部屋には誰も入れない様に」
ステラはそう言うと、俺に背負われた女の子が、マイケルに見えないように隠しながら歩いてステラの自室へと向った。
「ここまで来れば大丈夫っ!」
「あぁ、とりあえずこの子をベッドに寝かせよう・・・・・・」
「そうね」
俺はそういうと女の子をステラのベッドの上に寝かせた。
「なんだか外が騒がしいな・・・・・・」
「えっ?」
「ちょっと様子を見てくる。ステラお前はその子の事を頼むっ」
「うん。気を付けてね・・・・・・」
俺はそういうとステラと女の子を部屋に残し、屋敷の外に出た。
「おい、聞いたか?今、広場に王直属の部隊が来てるらしいぞ?」
「マジかよ?王直属の部隊が動いてるっていう事はこの街も、危ないんじゃないか?」
俺が騒ぎが起きている場所に行く途中。前から男2人がそう言って歩いて来た。
「おい!それはどういう事だ!?」
「あぁ、オーフィスさんのところの・・・・・・今、街の広場に王直属の部隊が来ているらしい、何故かは知らないが写真を持って、色々と聞きまわってたな・・・・・・」
「ありがとうっ!」
俺は男に礼を言って、急いで広場へと向った。広場に着くと、護身用の棒を持った兵士達が広場に集まっていた。
「この街に、この写真の娘は来てないか?」
兵士達は、その写真を見せ、街の人達に聞きまわっている。
(あの子は!?アールド鉱山で見つけた子だ!!)
「どうして、その子を探しているんだ?」
俺は民衆を掻き分け、前に出た。
「お前はなんだ!?」
「質問したのはこっちが先だ、まずそれに答えてもらおうか?」
「はっはっはっ!よいっ。気に入ったぞ小僧、なら教えてやろうっ!」
兵士の中でも一際目立つ、服を着た黒髪を後ろに束ねた。青い瞳の男が前に出てきた。
「この娘は、私達の研究施設の破壊。そして、殺人だっ!!」
その男の言葉に周りの民衆からは悲鳴に似た声が上がる。
「殺人って、こんな小さな女の子に人を殺せるとでも?」
俺はそう言って男の顔を見た。
「言うだろう?人は見かけに寄らないとねっ!さて、約束だっ。君の名前を教えてもらおうか?」
「俺の名前はルドル・オーフィス。このアルバトリアの領主。オーフィス家の者だ!」
「オーフィス!?」
男は驚いた様子で俺の顔を見ている。
「貴方方が王直属の者であっても、ここでは我々オーフィス家がルールですよ?こういう事はしっかり許可を取って頂かないと困りますね・・・・・・」
俺は睨みながら男と周り兵士を見る。兵士達は動揺している様子で男を見つめている。
「失礼。オーフィス家の方だとは知らずにとんだ失礼を致しました。また、改めて許可を取った後に、行わせて頂きます・・・・・・行くぞッ!撤退だ!」
「分かって頂けたのなら次から気を付けて頂ければ良いんです。それでは、俺は用事があるので失礼します」
俺はそう言ってステラの屋敷に歩き始めた。
「よろしいのですか?隊長!?あんな子供に」
「子供といえど、オーフィスの人間だ。仕方あるまい・・・・・・」
兵士達が、不満そうに男を見て言った。
「しかし、この街の外でなら別に許可は要るまい・・・・・・お前達ッ!この街を見張っておけ!ネズミ一匹通すなッ!!」
「ハッ!隊長!」
俺がステラの部屋に戻ると、ステラが笑顔で出迎えてくれた。
「ルド。外の様子はどうだった?」
「あぁ・・・・・・」
(こんな小さな子が王の研究施設の破壊と殺人を・・・・・・)
俺はそんな事を考えながら、ベッドでぐっすり眠った女の子を見た。
「ステラ。お前はちょっと、この子の体を拭くものを持ってきてくれ、このままじゃ可哀相だろ?」
「うん、分かった。すぐ取ってくるね!」
ステラが部屋を出た事を確認すると、俺は女の子の体を調べた。しかし、何も怪しい物などは持ってないし別に、特徴があるようにも見えない。よく考えてみたら、いくら魔法力が強いっていってもまだ子供だ、魔法力が暴走して、とてつもない力を発揮してもおかしくないだろう、この歳の子は魔法力が成長しやすい。しかし、ちゃんと教えてやれば自分である程度は魔法の制御も出来るはず、それに王直属の部隊までもがこの子を血眼になって探している。
「何か裏がありそうだな・・・・・・」
「お待たせ!さぁ~。ルドはこの子の体を綺麗に拭いてあげるまで、外で待ってて、終わったら呼ぶからっ!」
「あぁ、分かった・・・・・・気を付けろよ?」
「ん?なんで?」
ステラは不思議そうに首を傾げた。
「いや、なんでもない。なら終わったら呼んでくれっ」
俺はそう言って部屋を出た。とりあえず、あの子が目を覚まさないと、何故追われているのか詳しい事情は聴けないだろうし、このままでは俺も手の打ちようがない。
「目を覚ますのを待つしかないか・・・・・・」
俺はそう呟くと、少し考え込んでいた。少ししてステラの声が響く。
「ルド終わったよっ。もう入って来ても大丈夫♪」
「あぁ、ステラ。少し、話しておかないといけない事があるんだ・・・・・・」
「えっ!?」
俺は真面目な顔をしてステラを見つめた。ステラは少し戸惑った様子で俺の顔を見た。
「実は、その子の事で、少し気になる情報を街で聞いたんだ」
俺は街であった事の一部始終を全てステラに話した。
「そうだったんだ・・・・・・でも、私はこの子が人殺しなんてありえないと思うなぁ~」
「どうしてそう思うんだよ、今日会ったばかりだし、良い奴か悪い奴かなんて分からないだろ?」
「分かるよ、だって、この子。寝言でお母さんごめんなさいって、何度もうなされてるんだもの・・・・・・そんな子が人殺しなんて出来るわけないじゃない」
俺の顔を見つめると、ステラは真剣な顔で言った。
「・・・・・・うぅ」
「ルド!この子、目を覚ましそうだよ!?」
「本当か!?ステラ。俺の後ろに隠れてろ!!」
「何で!?大丈夫よ!この子は安全だよ?」
「お前の言ってる事は分からないでもないけど、でも、俺の魔法と互角以上に渡り合える奴だ!用心に越したことはない!!」
そう言って、ステラを俺の後ろに隠すと、俺は女の子に腕を前に出していつでも魔法を撃てるように身構えた。
「うん?こ、ここは?」
女の子はキョロキョロと辺りを見渡す。
「ひっ!あ、あの・・・・・・」
女の子は俺達に気が付くと急におどおどしだして脅えたように俺の顔を見つめている。
「あ、あの・・・・・・えっと・・・・・・」
「君に聞きたいことがある。良いかな?」
「は、はい!?・・・・・・な、なんでしょう・・・・・・」
「君は昨日の事を覚えてるか?」
「えっ?あ、あの・・・・・・その・・・・・・」
女の子は俯いて、言葉を詰まらせながら話している。俺はそのおどおどした歯切れの悪い様子にだんだんイライラしはじめた。
「あぁ~。もう、お前っ!しっかり喋れよ!話にならないだろっ!?」
「ひっ!!す、すみません・・・・・・」
女の子は今にも泣き出しそうな顔で体を震わせながら俯いている。
「ちょっとルド!そんなに大きな声で責めたって仕方ないでしょ?この子、脅えてるじゃない!」
ステラはそう言って俺を押し退けると、女の子の目線になって話し掛けた。
「ごめんね?ルドはあまりにこういうの得意じゃないの、許してあげてね?あなたが良ければ、お姉さんに少し話しを聞かせてくれない?」
ステラが優しく話し掛けると女の子はコクンと頷いた。
「あなたはどうして、あんな所に居たの?」
「・・・・・・あんな所?」
女の子はキョトンとした顔をしてステラを見ている。
「覚えてないの?あなたは鉱山に倒れてたのよ?」
「覚えてない?覚えてないわけないだろっ!あんなに強力な魔法使って忘れたくても忘れられるわけないだろ!?」
俺は声を荒げると俯いたままの女の子を睨み付ける。
「ご、ごめんなさい・・・・・・ほんとに・・・・・・なにも覚えてなくって・・・・・・」
「ルドは黙っててっ!ゆっくりで良いから、私達の質問に答えてもらえないかな?ねっ?」
「は、はい・・・・・・」
ステラは瞳を涙で潤ませ、震えている女の子に優しく問いかけた。
「まずは自己紹介から、始めよっか。私はステラ・エイミスよろしくね、さぁ~。あなたも」
そう言ってステラは女の子にニッコリと微笑んだ。
「わ、わたしはニビル・クレスティアです」
「うん!良くできました。えらい、えらい♪」
そういうと、 ステラは優しく女の子の頭を撫でた。女の子もまんざらでもない様子で嬉しそうにしている。
「ならさっそく質問ね?ニビル、あなた、さっき覚えてないって言ってたけど、なにか覚えてる事ない?なんでもいいの」
ニビルは考える仕草をして、目を閉じた。
「あ、あの・・・・・・暗い洞窟の中で、その・・・・・・男の人に追いかけられたとこまで・・・・・・です」
「どうして追われたの?」
ステラは不思議な顔をして聞いた。
「わからない・・・・・・何も思い出せない・・・・・・」
「話しにならないな・・・・・・ステラ。この子に話しを聞いても無駄みたいだ。それより、街の事もある。この子を軍に引き渡そう、あいつら血眼になって、その子を探してる。ここでいつまで匿っていられるか・・・・・・領主の息子として身元も何も分からない危険な人間をいつまでもこの街においてはおけない・・・・・・お前だって分かるだろ?」
俺は冷たくニビルを見ると諭すようにステラに言った。
「なら、ルドはこの子を見捨てろって言うの?」
「そうだ・・・・・・こいつは俺達となんの関わりもない。それをかばう理由がないだろ?それに王直属の軍が動いている以上。見つかるのは時間の問題だって言ってるんだ!他の街の人間を見捨ててまで、こいつを守る意味がないだろ?」
「・・・・・・うぅ」
ステラは俯いて黙ると、少し考えて話し出した。
「分かった。ならルド。こうしよう。ニビルを他のところに逃がす、それならいいでしょ?それと、ニビルに服をあげたいの・・・・・・少し時間をくれない?ぼろぼろの服じゃこの先大変だと思うから」
「分かった。なら、俺は外で待ってるから終わったら来いよ?」
そう言って二人を残し、俺は部屋を後にした。
「お待たせ!どう?可愛いでしょ!?」
「あ、あの・・・・・・ひらひらが・・・・・・」
ニビルはゴスロリ風のドレスを着せられ、顔を真っ赤にしてもじもじしている。それを見て、ステラは上機嫌でニビルの顔を覗き込んでニッコリと微笑んだ。
「うん!似合う似合う♪」
「あうう・・・・・・」
「さて、行くか・・・・・・」
「・・・・・・はい」
俺はそう言ってニビルの手を握ると、2人を連れて歩き出した。
俺はニビルをオーフィス家に連れて行った。屋敷の外に裏の森に通じている地下道があり、そこから街に出られるようになっていた。
「・・・・・・あの・・・・・・短い間ですけど、お世話にないました・・・・・・」
そう言ってニビルは2人に頭をペコッと下げた。
「君をこの街に連れて来といて、こんな形で追い出す事になってしまってごめん。後、最後に2つだけ頼みがあるんだ・・・・・・」
「・・・・・・あ、はい。分かりました・・・・・・お約束します・・・・・・」
俺は女の子の耳元でささやいた。女の子はコクンと頷いて俺の顔を見上げた。
「ステラ。お前はこの子と話しをしないのか?多分最後になるぞ?」
「私は良い。辛くなるから・・・・・・」
ステラは俯いたままの女の子の方を見ようともしない。女の子は何かを思い出したように、ニビルは服のポケットからリボンを取り出して髪を結んでニッコリとステラの方を向いて微笑んだ。
「ステラさん・・・・・・リボン。一生大事にします・・・・・・お世話になりました・・・・・・さようなら」
「ニビル・・・・・・またね!近くに着たらまた寄ってね!」
「は、はい・・・・・・また・・・・・・」
ステラとニビルはお互いの姿が見えなくなるまで、手を振って別れを惜しんでいるようだった。俺はそんな二人を見て、少し複雑な気持ちになった。
ニビルと別れ、ステラを屋敷に送り届けると、裏の森の方から爆発音が聞こえてきた。
「あれは!ニビルの向かった森の方角!」
「ニビル!?」
森の方に走って行こうとしているステラを俺は止めた。
「ステラ!ニビルは指名手配されてるんだ、どのみち王命じゃ、何処に逃げても捕まる運命だ。仕方ないんだ・・・・・・分かるだろ?」
「ルド・・・・・・仕方ないってどういう事?」
「俺達はニビルに出来る限りの事をしたし、それにお前も見ただろ?あの魔法力の高さを、近くに行けば必ず巻き込まれる。俺はお前を心配して・・・・・・」
俺が話している途中でステラは俺の頬を平手で叩いた。
「ルド・・・・・・見損なった。あの子の気持ちを、ルドが一番良く分かってると思ってたのに・・・・・・でも、違ったんだね。今のルドは街の大人達と何も変わらないじゃない!出来る限りの事をした?そんなの言い訳だよ!自分から遠ざけただけでしょ?危ない物を扱うように・・・・・・ニビルは、お母さんもお父さんも死んで、ずっと1人だったんだよ!?」
ステラはそういうと目尻に涙を浮かべながら俺を睨んだ。
「今もニビルは必死に1人で逃げてるんだよ?誰も助けてくれないって分かってるから、自分で何とかしないとって・・・・・・私ね、ルドが部屋を出て行ってから、ニビルと少し話しをしたの・・・・・・助けてあげられなくてごめんねって言ったらニビル。当たり前のように分かりましたってニコッて笑うんだよ?その時思ったの。ニビルはルドに似てるって、小さい頃、いつも1人でいて大人達に気を使っていたルドに・・・・・・どうして差別するの?同じ人間なんだもん、仲良くしたら良いじゃない」
ステラは流れてくる涙を必死に拭いながら話しを続けていた。
「・・・・・分かった。ルドはここの領主の息子だし、仕方ないよ・・・・・・でも私は1人でもニビルを助けに行く!あんな小さな子を1人で放っておいたら、魔物に襲われて間違いなく死んじゃうから!」
ステラはそう言って俺の手を振り払うと森に向って走って行った。俺はステラを止める事が出来なかった、ただ小さくなるステラの背中を見送る事しか出来なかった。