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異世界珍道中  作者: 十夜
9/25

料理人として同行しているけれど、正直やることが…

今日も今日とててくてくと歩き、とっぷり日も暮れて野宿の準備をするカイン達を横目にサラはせっせと料理の支度を進めて行く。

なにせそのためにサラはこの旅に同行しているのだから。

同意はしていないし、全くもって不本意極まりないけれど。

それでも成すべき事も成さぬのでは本当になんのためにここにいるのかわからない。

とはいえ正直、やる事はあまりない。というよりもできることが限られている。

なにせ先にも言った通り野宿である。

水は川などで確保し、材料は途中の街などで調達したものである。

当然黒猫亭で調理していたような調理場があるわけでも調理道具があるわけでもない。

材料に至っては言うまでもない。

店で出していた料理と同じ物を要求されても困るだけだ。

結局干し肉でスープを作ったり、香辛料などで硬さを誤魔化したりパン粉をつけてどうにか料理らしくしたり、現地調達した魚や果実を調理するとその程度なのだ。

正直な所、これくらい誰でもできるだろうと言いたい。

そうして街につけば無論街の規模にもよるが。

料理など選びたい放題、とまでは言わずともそれなりに選択肢もあるはずだ。

食堂と酒場程度ならばある程度の規模を持った街ならば1つや2つはあるだろう。


(私、なんのためにここにいるんでしたっけ…)


そりゃ遠くを見つめて独り笑いたくもなる。

無論楽しくて笑っているわけではない。

現状に関して思う事は多々あるが、それでもカイン達は確かに約束を破っているわけではないだろう。

旅を始めて早々にサラはカイン達に戦闘はできないと告げ、彼等は戦闘に関わらせるつもりはないと言った。

確かにサラは戦闘には参加していない。

ただなぜか気付くと遭遇した魔物だの通りかかった動物がことごとく、本当に大小種族問わずにことごとくサラに向かってくるだけで。

気付けばサラのいる場所こそが戦場になっているだけなのだ。

だから確かに嘘は言っていない。

というよりも余程穿った見方をしない限り、恐らくこの事態はカイン達にも想定外だったはずなのだ。

まあ彼の事だ「知っていたぞ、実は」と言われても違和感はないし驚きもしないが。


(ただまあ、鬼畜評価は上がりますけど)


それでも一応最初の数回は彼等も驚きサラを助けようとしてくれていたのだから。

まあ、そこはもう鬼畜とさえ呼んでも良いカインの事だ。

本当に最初の数回だけだったのだが。

なんだかわからないがさすがに同じ事が何度も続けばそれらはサラに引き寄せられていると発覚する。

『やっぱり帰ります、私は街でつつましく生活しています』と引き返そうとしたサラを笑顔で。

『ははっ、良いではないか良いではないか』と。

どこの悪代官だと言いたくる口調と笑みで引き摺って連行してくれたのだが。

ちなみにその後「で、悪代官とはなんだ?」と真顔で返された点から少なくともクラン連邦に代官は存在しないらしい。

そしてこれはまさかの街を出て半日もたたない間の事だった。

無論引き返そうと思えばサラでも余裕で街まで引き返せる場所だったからのこその発言でもあった。

思えば最初の半日の旅で後のサラの受難はそれなりに見えていたわけで。

つまり回避しようとしていたサラを受難まっただ中に放りこんだのが勇者だと言うのだからまったく酷い話もあった物だ。

だがそれでも1月も共に旅をしていれば慣れるというものだ。


(諦める、とも言いますけどね…なんていうか、もう言うだけ無駄なんです、きっとあの俺様には)


それでなくても魔物だの動物だのに日々追いかけられては必死になって逃げている身だ。

正直な所、身体的にも精神的にも無駄に疲れたくはない。

しかも言ったところで無駄とわかっているのならば尚の事だ。

かくしてサラのブラックノート、通称閻魔帳には「いつか覚えてろよコノヤロウ」な事項が着々と増えている。

ちなみに隠すことなく堂々と持っているのは至極簡単な理由だ。

ノートを目にした時の『これなんて書いてあるの?』というルーイ。

そうしてノートの表紙にでかでかと書いている文字を読みあげれば今度は

『エンマチョウ…ってなに?』というルーイの問いかけと興味深そうにひょい、と片眉をあげたカインの反応。

つまりこの世界に閻魔さまは存在しない、あるいは認知されていないらしい。


(まあ実在しているのかは私も知りませんけど)


サラには閻魔さまに会った事もなければそもそも会う予定もないのだから。

ついでに言うなら普通にサラは自分の知る文字でそれらを書き記した。

結果、表紙を見た時のルーイの言葉もあるが「なんだこの文字は」という発言も引き出せた。

ここが異世界である事を考えればある意味当然だが、彼らに日本語は読めない。

もう一度言うが、サラはこの世界の文字を読めても彼らに日本語は読めない。


(つまり罵詈雑言なんでも書き放題ですね)


人を貶めるのはよくない、なんてわかっているが文句を書くくらい良いではないか。

それもネットに公開したりするわけでもないのだから。まあ、この世界にネットなど存在しないが。

むしろ文句くらい素直に書かせろと言いたい位だ。

かくしてサラの閻魔帳は誰にばれても中身がばれないために罵詈雑言どころか声に出せば放送禁止用語も連発される危険物となり果てた。

まあ、ここまでケチョンケチョンに言ってはいるが彼らとて悪い人間ではない事はサラもそれなりにこの1月で理解したつもりだ。

ただ悪い人ではない=良い人では決してないとも主張するが。

彼らを良い人と言うなら世の人間の大半は善良人だ。

もっと別の良い方をするなら「またまた御冗談を」である。

そもそも最初の出会いから旅の始まりを思いだしただけでも「あ、この人たち面倒な人だ」という予感と言うには強すぎるものはあった。

そしてその予感が確信に変わった、というよりも証明されたのは旅が始まって早々のことだった。

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