旅立ちそうそう、まずは愚痴
私の名前はサラ・レイナスといいます、今は。
元は日本のごく普通の社会人だった…はずです。
なぜ「はず」なのかというと困ったことにいきなり異世界に飛ばされたかと思えば記憶がぼんやりと曖昧になっているからです。
それも時間がたつごとに記憶が更に曖昧になって行くようで、正直に言うなら早く帰らねばと焦る次第です。
とりあえず元の名前は思い出せませんので今の名前しか名乗れません、あしからず。
というわけで異世界召喚なんて非常識なことに巻き込まれはしましたが、『あなたこそ選ばれし○○で!』なんてこともなく。
あえて言うならモブ、または一般人としてある意味平穏穏やかに暮らしていました。
だというのになぜか私はカイン・サイラス、自称勇者の旅に同行させられることとなってしまいました。
なぜ自称かと言うと・・・なんと言いますか、彼を勇者と認めることを私の意識が全力で拒否しているんです。
能力はともかくとして人格的にあんな俺様を勇者とは認めたくありません・・・
それはさておき、私の役割は料理人です。
理由はと言えばカイル曰く、「魔王討伐の旅に快適な食生活は必須だ」だそうです。
ルーイ曰く「癒しは大事だよね。可愛い女の子においしいご飯、癒されるなあ」だそうです。
可愛いなんておだててもサービスなんてしませんけど。
だいたいおだてるならもっとバレないようにおだてるべきですよね。
あとここ大事なんですけど…別に私料理が得意ではないんですけどね。
一応日本では社会人1人暮らしだったので自炊はできますけど、趣味ってほどでもないですし。
正直どうして黒猫亭であんなに評判になったのか未だに理解ができません。
世界が違えば好みも違うのでしょうか。
ちなみに旅の同行に当たり私の同意はほとんどありませんでした、ここは強調しておきます。
戦闘?無理ですよ、無理無理。
そりゃまあ、(体が)生まれた国柄、法術は使えます。
残念ながら『法術使えるよ、やったね!これぞファンタジー世界!』なんて
可愛らしい性格ではないので。
そんなもの使えなくてもいいから私を元の世界に返してくださいと言いたいですが。
ああ、法術と言うのは便宜上の呼び方で、分類すると「召喚術や精霊魔法などの自分の魔力を媒介に他者の力の働きかけを持って発動する術式全般」だそうです。
ようするに一口に法術と言っても種類は大量にあります。
これに対して魔術と呼ばれるものは術の発威力から発動、制御まで全て己の魔力だけで行う物の事を言います。
なんて一般論はさておき…ええ、一般論です。私の知っていた一般論ではありませんが、残念ながらこの世界では子供も知っている常識レベルです。
便利な事に一般常識だけは最初から私の中にありました、これだけは感謝です…これ「だけ」は!
でも別にそれ以上は特に何もありませんからね。
異世界にいきなり飛ばされたと思ったらチート級の能力を持ってて私凄い!!とか、そんなご都合主義はこれっぽっちもありませんから。
うん・・・ない、はず?
何かこう・・・言い切ることに妙な違和感というか抵抗感があるんですけどね。
話しは戻りますが、今の私の故郷でもあるクラン連邦共和国の人間は大抵法術は使えます。
そもそも法術はセンスや魔力量などに影響は受けますが後天的に覚えられる物が多いですから、そこは本人のやる気次第とも言います。
というわけで私も一応精霊魔法や簡単な白魔法は使えます。
ええ、あくまで簡単なですから。
私の持っている魔力やセンスなんて人並みです。
可もなく不可もなく、いたって標準的なものですから。まさにモブ。
あんなアホみたいな魔力を持って人間の身でありながら魔術をぶっぱなす賢者のルーイさんとか。
そんなルーイさんに「魔力は下手すりゃ僕よりあるから覚えさえすれば有能な魔術師になれるんだろうけど、彼は脳筋だからね」と言われたり。
「ちまちま魔力の制御とかめんどくせえ、男なら剣で勝負」なんてわけのわからない理屈を言っては魔物の群れに突っ込んではやりたい放題のカインさん。
あんな連中に交じってレッツバトルなんて無理です、死にます。
って言うかあの人「剣で勝負」とか言ってる癖に結構手とか足が出てるのを見るんですがそこのところはどうなんでしょうね?
是非誰か突っ込んであげてください。ちなみに私は嫌です、めんどくさいので。
でも自己強化の魔術とか回復法術とか、まあ力的に覚えられそうなのに覚えないのはある意味潔いと思います、褒めてませんけど。
さすがルーイさん曰く脳筋、なんて思っていません。
だいたい不本意ながらも参加した(させられたとも言います)旅の条件は「戦闘への参加はなし」だったのですから。
私が戦闘に参加する理由なんてこれっぽっちもありませんよ。
だというのに。
「どういう事ですか、これはあああああっ!!」
何故私は魔物に毎度毎度追いかけまわされているのでしょうか。
これまた正確に言うなら魔物動物問わずなのですが。
追いかけてこないのはもう人間、獣人くらいですよ。
本当に、何故私はいきなり異世界に飛ばされているんですかと言う点から始まり疑問ばかり増えて行く次第です。
解決される疑問はほとんどない点も併せて雪だるま式に増えています。
利子だってつけますからね、あとで何かまとめて良い事でも起こしてくれるんでしょうか。
ですがとりあえず…そこの笑って見ている自称勇者、さっさと助けてください。
夕飯抜きにしますよ。毎度全力疾走してれば体力もなくなりますからね、あと私的な罰則で。
仕事放棄と言われようが背に腹は代えられないんですから。