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異世界珍道中  作者: 十夜
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番外編:サラ・レイナスという人間について

サラが旅だってしばらくした頃の話です

それは最近街に越してきたため黒猫亭の夜の営業を知らない一人の青年の言葉から始まった。

無論それはタダの好奇心だったのだろう。

周囲の人間が惜しむ黒猫亭の夜の営業、それを支えていたというサラ・レイナスという女性についてに対しての。


「サラについて、か?まあ一言で言うなら不思議な子、かな。まあ成人しているのに子もないだろうが」


男はそういってカラリと笑った。

男は黒猫亭のオーナーである。

サラが夜の営業を文字通り切り盛りしていたため、彼女がいなくなては夜の営業は成り立たない。

商売人として彼は極めて迅速に判断を下し夜の営業を打ち切った。

オーナー曰く『できんもんはできん。そもそもできるならサラが来る前からやっている』と言う凄まじく男らしく、けれど至極もっともな言葉で。

無論惜しむ声はあったが、なにせサラがいないのだからオーナーとしてもどうにもできない。

ある意味で元通りに戻っただけでもある。


「亜麻色の髪に薄茶の瞳、まあ普通だ。容姿も普通だな。可もなく不可もなく・・・文字通り平凡」

「オーナー、看板娘にひでぇな!!」

「うるさい、愛のある言葉だ文句あるか!」


その言葉にランチを楽しんでいた客達が軽口を叩いている。

黒猫亭は決して狭くはないが広くもない店だ。

そのためかアットホーム的な感じ、もっというなら客と店員が親しげな雰囲気を持つ。

そして彼らの間に容赦や遠慮と言う言葉もない。

客の一人の言葉にオーナーはスパン!とメニューを投げつけていた。

余談だがかつてサラがカインにかましたメニューによるフルスイングはオーナー直伝だった。

『不逞のやからがいたら容赦なくやれ。かまわん、オーナーである俺が許す』の台詞はこの店では有名だった。

『客商売だろうが!』なんて軽口も当然飛んだ。

が、その言葉を批難するものはいなかった。つまりは受け入れられていたということだ。

そして酔ってサラに触れようとしたりする連中に実際にサラは容赦なくその腕も振るっていた。


「なんていうかなあ・・・美人ではない。んだが・・・可愛いっていうかな。目が離せないって程でもないんだが」

「容姿が特別良いわけじゃないのになあ・・・なんていうか、雰囲気的な感じが?」

「ああ、なんか落ち着くって言うか・・・時々面白い子だよな」

「服装も普通だったよな。でもあの丈の長いスカートがふわっと揺れるのはなんかこう・・・良かった」


言っている事はまちまちだがその内容はほぼ同じだった。

美人じゃないのに何かいい、と。

言っている言葉は酷くはないが決して褒めてもいないのに嫌味にも貶しているようにも聞こえないのはその表情のおかげだろう。

誰もが皆穏やかに、そして懐かしそうに語っている。


「でも時々なんか・・・寂しそうだったよな」

「ああ。いつもじゃないけど時々なあ」


その言葉にオーナーは苦虫をかみつぶしたような顔をし、他の者は困ったように笑う。

誰もが気付きながら、けれどサラは誰にもそれ以上踏み込ませなかったのだ。

まるで何かを諦めたように小さく笑い、そしていつも通りに笑っていた。


「なんて言うか…瞳の色がちょっと沈んだ風になっててな」

「あ、でも前に俺見たけどサラちゃんの目、光加減によっては金色だったぞ」

「あ?」

「見間違えとかじゃないのか?」


その言葉にオーナーをはじめ、周囲の人間がことごとく首を傾げた。

理由は簡単なことで「ありえない」からだ。

金色の瞳、と言う意味ではありえないことはない。

ただしそれが人間ならば限りなく「ありえない」に近くはなるが。

金色の瞳は巨大な魔力を持つものの証で、世界に数人いるかいないかというレベルの話となる。

これはあくまで人間の話でありエルフや獣人などとなるとまた別の話なのだが。

少なくともサラはれっきとした人間である。

そしてサラの魔力を知るものは揃って首を横に振るだろう。

彼女の魔力は自称他称合わせて「人並み」だ。

ない、低いということはないがお世辞にも高い、優秀ということもない。


「見間違えたんじゃないのか?」

「そうだよ、なあ・・・?」


言った本人も首を捻っているあたり半信半疑なのだろう。

彼女の魔力からはありえない話であり、人間ならば悪戯だろうと自らの瞳を金に偽ることなどしない。

金色の瞳はそれだけで強力な魔道具となる。

力づくでも、それこそ抉ってでも手に入れようと思うものが後を絶たないほどに。

そこまでの危険を冒してまで瞳の色を偽るメリットなどそうは思いつかない。


「気のせいだろ、さすがに」

「だよな」

「今頃何しているんだろうなあ、サラちゃん」


そうしてそれぞれ思い思いに、件の人物のことを思い出すのだった。

まさかその人物が今まさにモンスターに追い掛け回されて必死に走っているなんて欠片も思うこともなく。

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