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異世界珍道中  作者: 十夜
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旅立ち(強制的に)決定

というわけで無事()旅立ちは決定しました。

だがそもそもの話としてそのアルスレート王国が所有する機動兵器はメギロード帝国から購入したものなのだ。


「うん、なんとなく考えてること分かるけどそれ違うよ。アルスレート国王はね、ただの鍛錬オタク」

「…は?」

「自分を鍛え部下を鍛えるのが好きなの。それはもうドMが入ってるんじゃないかなー、あれでも部下を鍛える時はドS?なんて思うくらい。

 だからあの人は青藍の過酷な環境が欲しいのであって別に領土が欲しいわけじゃないんだ」

「そんな理由なんですか…」

「うん、そんな理由なんだ。国王にも困ったものだよね」

「そしてそんな理由であなたは北へ行くんですか…」

「仕方ないな、俺とて勇者と言われようがしょせんは宮仕えの身だ、君命には逆らえん」


己の王を鍛錬オタクと笑顔で言い放ち困ったものだよねと言うルーイの語尾に感じ取れたのは「あの脳筋」だった。

このルーイと言う男、笑顔でさらっととんでもない事を言っている気がしてならない。

最も一番とんでもない事を言い放っているのは言うまでもなく自称勇者様、カインなのだが。


「……とりあえずあなた、自分の言動が世の勇者のイメージをことごとく破壊している事を自覚して下さい」

「知らん。勇者と呼ばれようがただの騎士だろうが俺は俺だ。が、利用できるものはなんでも利用する」

「勇者と言えば人助けをする救世主の様な存在でしょう!?今まさにあなたのせいで困っている私を助けて下さいよ!」

「人助け?してもかまわんぞ。なんなら魔物退治だろうとするが。ただし」

「ただし?」

「報酬はしっかり貰うが。ああ、報酬はお前でいいぞ」

「…っ、だからそういう言動が勇者のイメージを壊すと言っているんですっ!!」

「あれやこれやとうるさい女だな…お前、何が気にくわないんだ」


溜息をつきながらグッタリと告げればカインはふふんとサラの言葉を鼻で笑う。

もはやカインが口を開くたびに世の、少なくともサラの中の勇者と言うイメージはガラガラと瓦解していく。

そりゃまあ日本にいた頃は正直サラだって思ったものだ。

『Dぴーっ!』とかいうゲームの勇者を操作しながら「そんな善人で疲れませんか?」とか。

王様に命令されたらあなたは誰も勝てないと言われる○王を倒す旅に出ちゃうんですか、と。

まあ、まさに全く同じ理由で悪名高いわけではないが魔王討伐の旅に出ている者がまさに目の前にいるのだが。

にしてもこれはあんまりではないだろうか。もはやただの俺様でしかない。

あまつさえ「お前いい加減にしろよ」と言わんばかりにうんざりと告げられた言葉に頬が引きつるというものだ。

何が気にいらないかなんて、まるでサラが悪いような言い方ではないか。

そもそもサラは「行かない、行きたくない」と始めから一貫して告げているのだ。

延々と食いさがっているのはあくまでカイン達であって彼らが諦めれば言うまでもなくこの話は「はい、おしまい」である。

もはや立派な営業妨害をこれ以上受ける事もなく、サラは平穏穏やかな日常に戻れる。

まあ、元の世界に帰ると言う本来の目的を考えると全くもって平穏ではないのだが。


「あ、えっとね。ちゃんと仕事として依頼します。だからね」

「ああ、給料は出すぞ。それも決して悪くない額を出すぞ…国費から」

「うん、旅においしい食事は大事だよね。それでなくても野宿も多いんだし必要経費だよね」

「ちゃんと危険手当も出すぞ、国費から」

「安全とは言い切れない旅に同行してもらうんだから必要手当だよね」


ああ、とポンと両手を叩いたルーイの言葉になんの話だと眉を顰めれば、続く言葉にガタリと椅子から転げ落ちそうになった。

というか、あちこちからガタガタと人が転げ落ちる音がしている。

彼らの言う国費とは言うまでもなくアルスレートの税金だろう。

まあ、万が一くらいの確率でアルスレート国王のポケットマネーと言う可能性もあるが…恐らく違うだろう。

どちらにせよ彼らの財布からではない以上少なくともそんなポンポンと出すものではないはずだ。

アルスレート国民はカインとルーイの快適な食生活※ただし野宿時限定 のために税を納めているわけではないはずなのだから。


(なんとていうか物凄くアルスレートの方々が…気の毒です)


きっと彼等は知らないのだろう。

自国から旅立った勇者(仮)がこんな人間だなんて。

ましてや魔王討伐の目的がまさか国王命令による騎士団鍛錬所取得のためだなんて。

知らぬが花、とはまさにこのことか。

無論サラとしては知りたくもなければ関わりたくもなかったのだけれど。


「騒がしいぞ、何事だ」

「あ、オーナー…すみません、すぐに叩きだしますから。むしろ営業妨害でやっぱり警吏を」

「えっと、オーナーさんですか?騒がせてしまったようで申し訳ないです…」

「口先だけの謝罪ならいらん。何事だ」


堂々と現れたオーナーの姿に思わず拍手をしたくなった。

そしてルーイの言葉をばっさりと切り捨てる姿にいっそ涙を流したくなった。

その調子でこの傍迷惑な連中を追いだしてください、と思っていれば。


「オーナーということは彼女の上司、ということだよな」

「無論そうなるが」

「わかった…サラさんを俺にください」


そう告げながら頭を下げたのはカインだったわけだが。

その言葉に思わず手にしていたメニューでフルスイングをかましたのは仕方が無い事だろう。

むしろ当然の権利だろう。

今カインが告げた言葉は大きく間違っている。

色々と足りないを通り越し、意味合いが大きく間違っている。

恐らくカインが言いたいのは『旅のために』サラさんを俺にくださいである。

が、この言い方では一般的にはサラさんを俺に『嫁に』くださいになる。


(ああ、やっぱりオーナー勘違いしています!!)


恐る恐る振り返った先には驚愕に瞳を見開いたオーナーの姿。

時折聞こえるのは。

「でもサラがいないと夜の営業が成り立たんよな…いや、でもサラの幸せのためにはここは…」とか。

「女としては結婚も一つの幸せの形だよな」とか。

不穏極まりなく、そして勘違いこの上ない。

というか、彼らと会って間もないけれどこれだけは言える。


(こんなのはゴメンです)


ここで婚期を逃がすと生涯独身、なんてある意味究極の選択を迫られでもしたらちょっと悩む。

だが悩みはしても「じゃあお願いします」と即答できない時点でカインへの印象は察するべし。

なんて思った所で言葉にしていない以上、当然オーナーに通じるはずもないのだが。

むしろ通じないどころか勘違い続行中である。


「よし、そこまで堂々と言ってくれるならきっとサラも幸せになれるだろう!」

「何勝手に決めてるんですか!?むしろ不幸になります、オーナー私の親でもなんでもないですよね!?」

「ありがとうございます、オーナー」

「そもそも前提からして勘違いこの上ないですから、違いますから!そしてそこ、勝手に話しをまとめないでください!!」


そんなサラの悲壮な訴えも届くことなく着々と、肝心の当人を蚊帳の外に置いたまま話しは勝手に進んでいき。

これっぽっちの同意もないままに、サラの魔王討伐の旅への同行は決まってしまったのだった。

『オーナー、見捨てないでえええええっ』という悲痛な叫びに返されたのは。

『幸せになるんだぞっ』という、成立していない会話だった。

これで旅立ち編はおしまい。

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