第5章 魔術師訪問
どこまでも続くかのような草原を、勇者を担いだ女騎士と布団猫と僧侶が歩いていた。
言わずと知れた、勇者様ご一行である。
一行は元魔界四天王たる布団猫の案内で、近道をしながら魔王城を目指していたのだ。
「ふむ、本当にこの草原には、魔物一匹いないのだな」
「そうにゃ。魔界四天王専用だにゃ」
「専用? なんでそんなものがあるのだ?」
「四天王は力が強すぎるにゃ。だから味方が近くにいると巻き込んで被害を拡大させるにゃ。だから四天王が普段いる場所や使う道は誰も近寄らないにゃ」
「なるほど。ということは、出会うのは他の四天王以外にはいないということか」
「いや、誰にも会わないにゃ」
「ん、どういうことだ?」
「1人は魔王城から出ることはないにゃ。1人は引き篭もりの上に、海底が住処にゃ。あと1人は死んでるにゃ」
「そうか。ならば魔王城まで誰にも会わずに辿り着けるということだな。これは旅がはかどる」
「あのー」
それまで黙って勇者様をくんかくんか…もとい、勇者様の後をそっと付いてきた僧侶が、遠慮がちに口を挟む。
指差す先には、1軒の家が見える。
「だとしたら、あれは何でしょうか?」
「たぶんヒトだにゃ。近寄らないのは魔物だけで、人間とかには意味が無いにゃ。というか、人間たちが専用道のことを知っていたら、大変にゃ」
「まあこんなところに1軒だけで住んでいるのだ。世捨て人か何かだろう。ちょうど良い。食料などを分けてもらおう」
「なによアンタたち。いきなりやってきて食料をよこせですって。冗談じゃないわよ」
「なにもタダで譲れというのではない。代価なら充分に支払おう」
「そういうことじゃないわ。いい、私は俗世間とは縁を切ったの。関係を持ちたくないの。だからお金なんかもらっても使い道はないし、使いに行く気もないのよ」
「しかし、勇者様が魔王を倒さなければ、結局そなたも困るのではないか」
「困らないわよ。魔王なんてアタシの魔術でイチコロよ。そんな枕とかを勇者なんて呼ぶなんて、アンタたち頭おかしいんじゃないの」
あまりの暴言に、怒気を募らせる女達。
しかし幼女にしか見えない魔術師が鼻を鳴らしながら魔術を行使すると、あっという間に光り輝くロープで拘束されてしまった。
「な、なんだこれは」
「そうですよ。私を縛ってよいのは勇者様だけですよ」
「黙れ、話がそれる。貴様、こんなことをしてただで済むと思うのか」
「はっ、そういうセリフは自由になってから言うのね」
布団猫がうにゃんと鳴いて、魔術のロープを引き千切る。
「へえ、やるじゃない」
「にゃめてもらってはこまるにゃ。これでも魔界四天王最強にゃ」
「じゃ、引きちぎられたロープの先を結んで、これでどう?」
「う、うにゃにゃにゃにゃ。ひ、卑怯だにゃ」
即席ネコジャラシに反応してしまう布団猫。
更に他の切れ端でボールを作られると、もう本能には逆らえない。
「さ、それじゃお仕置きしてあげましょうか」
魔術師はきゅぽんとマジックペンを抜くと、ニヤニヤ笑いながら近づいてくる。
「や、やめろ。何をする気だ」
「もちろん顔に落書きしてやるに決まってるじゃない。さぞかし面白いことになりそうね」
「そんな、いけませんわ。ああ、勇者様。私を見ないでください」
「ふーん、勇者様、ねえ」
魔術師はニヤリと笑うと、枕を手にとった。
「ま、まさか。お前…」
「だ、ダメェ。おやめになって」
「やっぱりこっちのほうが堪えるようだな。よーし、そこの猫とお揃いのヒゲを書いてやろう」
きゅっきゅっきゅっと落書きされていく。
女騎士と僧侶の悲鳴が響く中、まず勇者に3本の線が…。
「お前、凄い不器用なんだな」
「信じられませんわ」
三本線は“三”の形になるどころか、“-_-”となっていた。
なんだか勇者様も呆れているようだ。
「な、なによバカにして。仕方がないじゃない。手がちっちゃくって、ちゃんと持てないんだから」
「いや、関係ないと思うぞ」
「ええ、関係ありませんわ」
ううっと涙目になる魔術師。
ジタバタ手を振り回す。
「このっこのっこのっ。この枕がいけないんだ。こんな枕なんか」
そういって枕を手に取り。両端で持つ。
その時、枕が、両端から、押されて、形が、歪んで、しまった! ! !
“-_-” -> “^_^”
「枕が…勇者様…ぽっ」
「ま、待て。気の迷いだ」
「そうですわ。貴女、人嫌いなのでしょう?!」
「違う。勇者様は違う…。こう頬をぷにぷにすると、とっても素敵に微笑んでくれる」
「それは枕が弾力的なだけだ。ただの線じゃないか」
「違いますわ。邪悪な魔術師が力尽くでいうことをきかせているだけですわ。ああ、勇者様はお優しくておいたわしい。私たちが人質にさえ取られていなければ、残酷な真実を突きつけてやりますものを…」
「しかも寝間着姿でアタシを誘うなんて…。いけない・ひ・と」
「それは私のですわ。横取りしないでください!」
「いや、お前のじゃない。私のものだ」
「勇者様に頭を預ければ、すぐそばでニコリと微笑んでくださる…。し・あ・わ・せ」
「だからそこは、私専用ですわ!」
「確かに寝涎たらしまくってるもんなぁ。とてもそこに頭を預けたくはないかな…」
「勇者様に見つめられるだけで、こんなに胸がドキドキする。ここまで大きく高鳴ったからには、運命の人」
「小さい小さい小さいですわ! 運命がスルーでストーンでかすりもしませんわ」
「い、いや、私のような、理想的な体型のほうがピッタリだと思うぞ」
「ああ、それにアタシの体型に合わせて形を変えてくれる。勇者様はアタシ専用ということね」
「勇者様は博愛なのですわ。ならばこそ、勇者様同様、相手に合わせて形を変える枕を持つ私こそがふさわしいのですわ!」
「だから私も…。しくしく。これが中間の悲劇なのか…?」
「それにアタシが勇者様のことを一番わかるわ。伊達に解析魔法や透視魔法を修めてはいないわよ」
「そ、そんな。勇者様の裸を見るなんて。う、うらやま、いえいえ。私は聖職者。そんなことを言ってはいけないワ。そう、寝室で剥いてしまえば良いだけの話よ。そう、だって、夫婦ですもの。それが当たり前ですわ」
「ちょっと待て。それはさすがに聞き逃せないぞ。いつ誰が結婚したって?」
「あら。勇者様の素晴らしさを一番わかっているのは、この私ですわ。ならば…」
「さっきから言っているだろう。アタシが魔法で全部調べるって」
「そもそも調べるだのわかっているだの、問題はそこじゃないだろう。勇者様のパートナーとして魔王を倒すという使命を受けた私こそが…」
「神の啓示を直感しました私こそが…」
言い争う3人に気付かれないよう、こっそり勇者様の懐に潜り込む布団猫。
んー、ゴロゴロと喉を鳴らして、静かに眠りにつく。
ここは魔界四天王専用の通り道。
魔物は近づかず、獣は布団猫の気配を察したか息を潜めている。
誰にも邪魔されることのない言い争いは続き、にゃんこは昼寝する。
平和であった。
《ステータス》
レベル:30
職業:勇者
副業:カリスマ寝具・ヒモ・男の娘?(Unknown!)
弾力:0.5
耐久:1000
敏捷:0
知力:0
魔力:0
運:???
装備:白色の衣・ピンクのフリル・ハートの仮面・レースの下着
スキル:剣術レベル0・魔術レベル0・受け身レベル9999
特性:主人公補正・ニコポナデポ・秘められた覚醒・姫プレイ(Upgrade!!)
仲間:女騎士
布団猫
大山脈の僧侶
大平原で小さな魔術師(New!)
戦果:騎士見習いの少年の淡い恋心
魔界四天王無条件降伏
魔界四天王一方的撃破