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異世界勇者テンプラ召喚  作者: 壊れた風見鶏
異世界勇者テンピュール召喚
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第2章 勇者と女騎士

 国王が退席した後の謁見の間は、非常にだらけた空気が蔓延していた。

なにしろ勇者を召喚したつもりが、寝具が出てきたのである。

しかも次の召喚が成功するまで、これを勇者として扱うしかない。

はっきり言って、無言で押し付け合いと牽制を行うのに終始していた。


 やがて渋々、王国宰相が口火を切る。


「さて、勇者に対する意見があれば、忌憚なく述べていただきたい」


 全員無言である。考えるふりをして視線をそらすのは良い方である。

中には意見を求められては困るとばかりに頭を抱えて何も思いつかないふりをしたり、果ては出てきた意見にとにかく賛成しようと待ち構えていたりする。


 仕方がないと、宰相は腹をくくった。


「では騎士団長殿。確か娘がおりましたな」


「はっ、おりますが…。親が言うのもなんですが、ガサツすぎて勇者様の接待には向かないかと」


「いやいや、そうではない。ほれ、伝承の勇者も女騎士を伴って旅立ったであろう。あれにあやかろうというのじゃ」


「なるほど。承知しました」


 そう言うと、早速飛び出して行ってしまった。

さすが軍人、行動が早いと頷くと、次々に指示を出していく。


「そなたらは勇者が旅立ったと発表しろ。なに行く先などは機密だと言ってしまえばよい。それから…」


「失礼します! 勇者様をお迎えに上がりました!」


 突然威勢のよい声が響き渡る。騎士団長の娘が到着したのだ。

父親から勇者のことを聞いていたのだろう、迷うことなく勇者の元へ歩んでいく。


「では、これからよろしくお願いします」


 そう言うと、勇者を持ち上げる。自己紹介とか色々すっ飛ばして旅立とうとする辺り、非常に親の血を色濃く受け継いでいるものと思われる。

そのまま謁見の間を出て行こうとするが、呼び止める声がした。


「お待ちください」

「御慈悲を」

「肩凝りが取れるのです」


 次々に勇者(と女騎士)にしがみつく宮廷魔術師たち。

気持よく眠っていたのに布団からめくり落とされて、とっても辛そうだ。


 しかし魔術師が騎士に接近戦で(かな)うはずがない。

おまけに疲労困憊である。あっという間に蹴散らされてしまった。


「ああ」「そんな」「しくしく」

「「「かくなる上は」」」


 魔術師たちは決意した。それはもう、燃えるようであった。


「「「再び異世界産の寝具…いえ勇者を召喚してみせる!!!」」」


 果たして1ヶ月後に、ちゃんと次の勇者が召喚されるかどうかは定かではない。






 さて次の日の朝、女騎士は意気揚々と出立しようとしていた。

足取りは軽く、顔には生気がみなぎっている。

体には生命の躍動感が溢れ、道行きすれ違う男たちは思わず視線を奪われるほどだ。


「これは騎士様、おはようございます」

「うむ。開門してくれ」


 城下街の大門を守る兵士に挨拶した時、年下の少年から声をかけられる。


「せ、先輩」

「む、キミは…」


 それは騎士見習いの少年であった。

とても優秀なだけでなく、素直で慕ってくれて、まるで子犬のように扱っていた。


「あ、あの。ボク、待っていたんです。その、先輩が魔王退治に出かけると聞いて…」

「そうか、見送りに来てくれたか。ありがとう」


「い、いえ、あの、そうではなくて。その、…ぼ、ボクも…その…」

 後半の声が小さくなってしまったため、女騎士は独自解釈で答えを出した。


「そうか、そういえばそうだな。私がすぐに出ると思って、一晩中此処( ここ )で待っていてくれたのだな。それは申し訳ないことをした」

「あ、いえ、そうなんですけど、そうじゃなくて…」


「しかしそれなら、私の屋敷に来てくれればよかったものを。キミは妙な所で生真面目だな」

「せ、先輩のお屋敷…。だ、ダメです。年頃の男女が、その…」

 少年は恥ずかしさのため、とても声が出ない。なんとか雰囲気を変えようと、話題変換を試みる。


「そ、そういえば、勇者様は…」

「ああ、素晴らしいぞ!」


 思わぬ賛辞に、一瞬頭が真っ白になる。

「(そんな、知り合ってまだ1日にもならないのに。そ、それになんで、そんなに悶えているんですか?)」


 女騎士はほうっと頬を染め、両腕を交差するように両手で肩を抱き、体をくねらせる。


「魔術師どもが(勇者様の)体にすがりつくので、つい勇者様を試してみたくなったのだ」

「ええっ!」


「最初は半信半疑だったが、寝間着で体を預けてみると、なんとも言われぬ弾力的な優しさで受け止めてくれたのだ」

「ね、寝間着…。優しく体を受け止められた…だ、男性的に…」


「そして頭を預けると、もう心地よくてな。まるで天国に沈み込むような安心感があった」

「ひ、膝枕ですか…。しかも、安心できる…天国…警戒感なし…」


「特に枕が良かった。とてもいい角度に収まったので、長年の肩()りが解消されたほどだ」

「肩凝り解消…水枕…良い角度でもみほぐされる…ぐすっ…」

 なんだか涙ぐんできた。しかもこんなに朗らかな先輩は見たこともない。


「さらに体を伸ばすとだな。尻は沈み込むのに背中がしっかり支えられる感じで、体型に合わせてくれたのだ。おかげで良い感じで脱力できて、腰に負担がかからないのだ」

「こ、腰に負担が…」

 もう殆ど何も聞こえない。聞きたくない。


「いや、勇者様は最高だな。魔王退治の旅が終わってからも、ずっと一緒にいたいと思う」

「そ、そんなぁ。うわあーーーーーーーんっ」


 少年はもう耐え切れず、泣き出しながら走って逃げてしまった。

それをワケが分からず、首をひねってしまう女騎士。


「どうしたというのだろうな?」


 だいたいを察した門番が、おせっかいかなと思いつつ少年のフォローを頑張ってみる。


「騎士様。きっとあの方は、あなたのお役に立ちたいと頑張ってきたのですよ」

「なるほど。私がよく、筋肉が()るとか腰が痛いとか言っていたから、気を使ってマッサージの勉強をしてくれていたのだな。なのに私が勇者様のことばかり褒める上に、体を預けて解消してしまったといってしまったのだ。気落ちしてしまうのも無理は無い。この旅から帰ってきたら、あやつの成果をこの体で試させ、良いアドバイスをしてやろう」


 門番は思わず天を仰いだ。

蒼穹に半透明のシルエットがきらーんと光ったような気がした。思わず合掌。


「あー、騎士様。あなたの体を触らせるというのは、なんというか残酷というか…」

「む、そうだな。私は勇者様によって最高の快楽を知ってしまったのだ。これと比べては失礼というものだな」


「(ごめん、少年。キミにとどめを刺しちまったみたいだ)」

 もう一度、心のなかで合掌する。


 こうして勇者は旅立った。

1人の少年の、大切ななにかを犠牲にして。


ぴろりろりーん。

勇者はレベルが上った。



《ステータス》

レベル:3(Up! 1->3)

職業:勇者

副業:カリスマ寝具(Discover!)

弾力:0.5

耐久:105(Up! 100->105)

敏捷:0

知力:0

魔力:0

運:???


装備:白色の衣


スキル:剣術レベル0・魔術レベル0・受け身レベル9999


特性:主人公補正・ニコポナデポ・秘められた覚醒


仲間:女騎士(New!)


戦果:騎士見習いの少年の淡い恋心(New!)


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