最終章
ガギギィィィィィィ!
軋むような音を立てて、魔王城の魔王の間の大扉が開かれる。
玉座に腰掛ける魔王の前に、勇者一行が歩み出る。
先頭は盗賊。彼女は王都のスラム街で(以下本編に何も関係ないお涙頂戴者の自己紹介が入るので、中略)命を捨てても惜しくはなかった。
それに続くは戦士。もともとは近衛隊で騎士長候補とまで(以下本編に何も関係ないので中略)いまこそ忠義と友情を示す時だった。
さらに僧侶と魔法使いが(以下ウザいので略)。
彼女らに囲まれて、勇者が姿を現す。
金色の衣をまとい、おしりからぷりっと出た真っ赤な尻尾。
白く磨かれた銀食器の上に堂々と乗ったエビフライである。
魔王は勇者一向に、嘲笑うかのような口調で声をかける。
「よくぞ参ったな、勇者一行よ。我が繰り出した刺客らはどうだったかね」
僧侶が応える。
「あのような卑劣な行い、魔性のものとはいえ仮にも王を名乗るもののなす事ですか。恥を知りなさい」
「いやいや、魔王だからこそだよ。やはりこういう勇者とのやり取りは、楽しまねばいけないではないか」
そう、いままでの勇者の試練は、魔王の遊びに付き合っていたと言っても過言ではないものであった。
襲いかかる敵という敵は全て、魔王の奸計によって敵対せざるを得なかった(略)であった。
「その余裕もここまでよ。ステータス、オン」
魔法使いが禁術を使う。
弱点を看破しうる魔法を受けても、魔王は抵抗しなかった。
いな、必要なかったのだ。
《ステータス》
レベル:9999
職業:魔王
筋力:999999
耐久:999999
敏捷:999999
知力:999999
魔力:999999
運:99
装備:魔王の衣(ドクロ棘付き)
スキル:剣術レベル999・魔術レベル999・悪徳レベル999
特性:悪役補正・悪のカリスマ・変身残り5段階・毒物無効・麻痺無効・即死無効・ニコポナデポ無効・他色々耐性あり
魔王のステータスを目の当たりにして、衝撃を受ける魔法使いたち。
「そ、そんな」
「バカな。桁が、違う…」
「神よ…」
「さて、もう心折れるとはな。では、さっさと片付けてやろう」
魔王はそう言うと、がしりと勇者の乗った皿をつかむ。
そのまま持ち上げ、ぺろりと食べてしまった。
「ああっ、勇者!」
「そんな、いちげ…一口で!」
あっさりと勇者がやられてしまったことに動揺する一行。
魔王は愉快な気分で笑う。
そしてぐふっとゲップならぬ断末の息を吐き、そのまま倒れてしまう。
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
ピロリロリーン、ピロリロリーンとレベルアップの効果音が鳴り続ける中、ぐへぇーっと魔王の口から半溶けの勇者が吐き出される。
慌てて黒子が万能トングで救い上げ、予備のお皿に移し替える。
「えっと、どうなったんだ?」
「さぁ…」
戦士が尋ねるも、叡智を誇る魔法使いも僧侶も答えを返せない。
なにしろ勝手に死んでしまったのだ。わけが判るはずがない。
「勇者が腹を食い破った…とか」
「そんなわけないでしょ。ただのテンプラなんだから。第一吐き出されてきているのよ。胃に穴が開いているわけないでしょ」
「魔王様ーっ」
一行が悩んでいると、隠し扉から一体の魔物が飛び出てきた。
駆け寄ると脈拍やら瞳孔やらを確認して、厳かに告げる。
「ご臨終にございます。死因は食い合せですな」
「「「マテイ!!!」」」
思わず突っ込む勇者一行。
「なんだよそれ」
「ご存じないのですか。一種の食物アレルギーですよ」
「いや、違うだろ。第一魔王は毒とかそういうのが効かねーじゃねーかよ」
「だから、食合せなのでございますよ。誰もピーナッツやそば粉を毒物指定などしないでしょう」
「いや、そりゃそうだけどさ。こんな終わり方ってあるかよ」
「そうは申しましても、もう死んじゃいましたし…」
魔王を見やる一行と主治医。
舌をベロンと伸ばし、目が上を向いちゃってる間抜けな死に顔。
ようやく気付いて、目を口を閉じて、なんとか威厳を回復させようとする魔物。
けどやっぱり、締まらなかった。
否、レベルとかが高すぎて、硬直した筋力100万をどうすることもできず、閉まらない目蓋と唇。
こうして勇者と魔王の決戦は、静かに幕を下ろした。
異世界テンプラ勇者:指一本も動かさず、魔王を倒して世界を救う。
カンスト魔王:勇者をボロボロにするも、隠された弱点を突かれて死亡。
世界は救われ、物語は伝説として捏造された。
格好良く仕上がった名文を前に、魔界四天王は涙したという。
「我ら魔族の名誉は守られた」と。
魔王城が広すぎて、勇者とうっかりエンカウントできなかったという、誰が聞いても嬉しくない真実が隠されたからね。
そして勇者は帰還した後、密かに王族用の陵墓の最奥に葬られたという。
勇者を利用しようという愚か者から遠ざけられるために。
なにせ魔王の遺産は…胃酸は強力すぎたため、放置しておくと人間にとって有害な毒ガスとなるから。
まぁそれ以前に、半溶けがちょっと外見的に、アレで問題あったから。
帰還した勇者を見た国王の失言は、丁寧に秘匿された。
「うわ、気持ち悪。よく噛んで食べなかったんだな」とかなんとか。
それから魔族は魔界におとなしく帰り、以後住み分けが破られることはなかった。
また異世界から勇者が召喚されてはたまったものではないのだから。
人族も二度と、勇者を召喚しようとはしなかった。
勇者の物語とか正体とかをねつぞ…偽装するのは、とてもとても苦労しすぎる羽目になったからである。
それはそんな、異世界勇者テンプラ召喚な物語。
(おしまい)