番外編 湯煙温泉殺人事件
長いこと更新できず、申し訳ありません。
なかなか決戦が書けず、日々悶えている始末です。
ですので、番外編をお届けします。
ちなみにクーリングオフはききませんので。
あと、タイトルと内容は一切関係ありません。あしからず。
ここは温泉の町。
流れるお湯の川。たなびく湯気。
そう、誰もが一度は行ってみたい夢の街。
ここに勇者一行が辿り着いた。
具体的には、道を間違えてしまった。
「いい湯だにゃー」
「うむ。体がほぐされる」
「一仕事したあとは、とくにいいですわねー」
「まったくロクでもない連中だったわね」
ふー、と頭に手ぬぐいを乗せながらくつろぐ従者一行。
彼女たちがくつろげばくつろぐほど、湯煙さんが頑張ってお仕事しますので、あしからず。
「これで勇者様さえいれば…」
「言うな。勇者様は、勇者様は…」
ぐっと拳を握り、涙をこらえる女騎士。
ぶつぶつと魔術師も呟く。
「ふふふ。研究のしがいがあるわ。今日はダメでも、いつかきっと、勇者様と一緒に…」
「うにゃー」
弛緩しまくった布団猫が顔だけ湯の上に出して、ぷかぷかと浮かんでいる。
平和であった。そう、ほんの1時間前の狂騒が嘘のように…。
時間を少々巻き戻そう。
「ていへんだ、てーへんだ。女将さん、一大事だ」
泡を食いまくりながらドタドタと廊下を駆ける半裸の従業員。
鍛えまくった肉体をフンドシで引き締め、非常に見苦しい。
ましてやフロントに駆け込んでくる。お客様の前で、それはいただけない。
「ふんっ!」
ぺしっと叩き潰される従業員。
「お見苦しいところをお見せしました。ほほほ…」
ズルズルと引きずると、さっさと裏に引っ込む。
「で、なにが大変なんだい」
「へ、へい。それが、湯煙温泉殺人事件です」
「なんだって」
女将さんが慌てて飛び出す。
よく磨かれた廊下を滑り、ドリフト走行で角を曲がり、運悪く通行していた湯治客に運動エネルギーを押し付けて停止する。
つまり跳ね飛ばされた湯治客が湯船に頭から突っ込む。
ざぽーん。
勢い良く上がる水柱。しかし、非常に冷たい。
「これは…」
「へい、源泉の温度が下がりやした」
そう、温泉が温泉でなくなっていたのだ。
これでは水風呂でしかない。
とても入れやしないし、仮に入ったら心臓がショック死しかねない冷たさだ。
現にいまも、頭から突っ込んだ湯治客が生死の境を彷徨っている!
「こいつは一大事だね。男衆を集めな」
「へい、直ちに」
大広間には、すぐにこの街の屈強な男臭が間違い男衆が集った。
みな真剣な顔つきだ。
なにしろこのままでは、大変なことになるのだから。
えっちらほっちらと、対策本部の看板が運ばれてくる。
そこには達筆で、“湯煙温泉殺人事件対策本部”と書かれていた。
「…なんなんですの、これは…?」
ちょうど通りかかった勇者一行が、呆然と見つめる。
「おっ、早いな。もう来たのか」
「え、違いますわ。なんですの?」
誰と間違えたかしらないが、大広間に連れ込まれてしまう。
誤解ですと言おうとした所で集会が始まってしまい、機会を逃してしまった。
「皆の衆。よく集まってくれた」
男衆の前に立ったのは、巨漢にして筋肉の壁といってもよいほどの厚みを誇る若者だった。
むせ返る筋肉臭、威圧感凄まじい筋肉存在感…以下略、うぷ。
「知ってのとおり、温泉が冷えてしまった。すなわち、源泉に異変が起こったのだ」
うんうんと頷く男衆。
「つまり、湯煙温泉殺人事件だ」
うんうんと頷く男衆。え?と首を傾げる勇者様一行。
「よってここに、温泉海獣討伐舞台の結成を宣言する」
うおおおおーと燃え上がる男衆。えーとと距離をとる勇者様一行。
「皆の者。温泉海獣は手強い。強大だ。討伐には命の危険も伴う。しかし、俺達はやらねばならない」
「「「おう! おう! おう!」」」
「温泉海獣が源泉に居座り、呑兵衛になっているのは間違いない。ヤツは酒と源泉の区別もつかない」
「「「ない! ない! ない!」」」
「しかーし、我らは怯まない。なぜなら、温泉こそが、我らがオアシス!」
「「「おあ! おあ! おあ!」」」
「ならば、幾多もの屍を越えて行こうではないか。我らが理想郷、ユガルタに!」
「「「湯が! 湯が! 湯が!」」」
もはや狂信的に盛り上がる男衆。こっそり脱出しようにも、なぜかフスマを開けられずに涙目になる勇者一行。
「諸君、辛く厳しい戦いに参加してくれたありがとう。しかし嘆くことはない。既に褒美を用意してある」
そう言って勇者一行を指差す。大広間中の視線がずざざっと向いた。
思わず縮こまる勇者一行。この時ばかりは、普通の女の子たちみたいに怯えてしまっていた。
雰囲気に飲まれた…というより、なんか凄く邪な視線を感じたからだ。
「すばらしい」
「びゅーてぃほー」
「わんだる…いや、にゃんだふる…」
「ロリっロリっロリっ」
それぞれを見つめ、不穏当なことを口ずさむ。
そして演説する筋肉が導火線に火を付けた。
「さあ、想像し給え。彼女らがバスタオルをまとったところを。手ぬぐいを頭に乗せた姿を。そして、温泉に入る姿を。その時我らがすることはなんだ?!」
「「「それはもちろん、『お客さーん、湯船にタオルを付けないでくださーい』と注意しに行きます。ああ、合法的に客入り女湯に入れるー!!!」」」
「「「「アホかー(にゃー)!!!」」」」
女騎士が殴り蹴り上げ、男衆を宙に浮かす。
布団猫が見事なトスで繋ぐ。
魔術師が炎弾をぶちかまし、玉突きのごとく遠くの山に飛んでいく。
最後に僧侶が祈った。「天罰召喚」
どごどーん。
遠くの山で、なんだか大量の雷が落ちたような音が聞こえました。
あまりに遠く、あまりに大きな音だったので、悲鳴とか助けてとか謝罪の懺悔とかはまったく聞こえませんでした。
「ふー、いい湯ね」
一汗かいた従者たちは、なぜか復活した温泉に浸かり、疲れを癒していました。
ちなみに湯煙さんが頑張っているので、バスタオルをしているかどうかもわかりません。
「そういや結局、事件はどうなったんでしょうねー」
僧侶の疑問に、布団猫(温泉猫にジョブチェンジしそうだなー)が答える。
「あの山を見るにゃ」
そこには山の残骸がかすかに見えた。
男弾が次々と命中した上に、凄まじい落雷が襲ったのだ。無事であるほうがおかしい。
「人間のとは違う悲鳴がかすかに聞こえたのにゃ。多分原因も一緒に吹っ飛んだにゃ」
「なるほど、事件解決で、温泉再開か」
うんうんと頷く女騎士。
と、大事なことに気がついた。
「魔術師は何処だ?」
「あらー? さっきまでここにいましたけどー」
嫌な予感に襲われる。「いかん」とざばーと立ち上がる。水柱さんもいい仕事しています。
「うにゃにゃ」と布団猫(ジョブチェンジしそこねました)がまっさきにかけ出す。湯煙さん、お仕事忘れていますよー。
「そういえば、ネコさんは服着たまま入ったことになるのかしら?」
見事な毛並みの毛皮に見とれた僧侶。どうなんでしょう?
まあ、湯煙さんがお仕事できなかった、サービスシーンとして、どうぞです。
ちなみに湯煙さんは名誉挽回とばかりに、今度は頑張ってお仕事しました。
僧侶さんがバスタオルをしていたかどうかも、わかりませんでしたねー。
ばたばたばた、がらっ。
勇者様を泊めていた布団部屋のフスマを開けると、そこには怪しい人影が!
なんと、ビニールを勇者様に押し付けている魔術師が。
「待て、何をしている!」
女騎士に問いただされて、ビクリと見を震わす魔術師。
とっさに誤魔化そうとするも、手に持ったものを見られてしまっては仕方ない。
「思い出したのだ。密封型布団圧縮袋を持っていたことを…」
その言葉が意味するところを正確に察するのは容易だった。
「貴様、さては1人だけ、勇者様と一緒に風呂に入ろうとしたな」
「そんな、ひどいですわ。勇者様の体の為を思って、みんなで我慢しようと誓いましたのに」
「むぅ、勇者様の中に潜り込んでいると、窒息してしまうにゃ…」
三人三様の批難に、うなだれる魔術師。
その沈鬱な雰囲気を察したのか、勇者様が光り輝く!!
「な、なに…」
「これは、勇者様のスキルですか…?」
解析魔術を持つ魔術師が驚く。
「“秘められた覚醒”が発動した?! 何が起こるっていうの?」
そして光が収まった時、そこにはウォーターベッドに変身した勇者様が!!
なんと、テンピュール外皮に水袋内臓の、誰も見たことのない寝具に変身してのけたのです。
寝心地がどうだったかはともかく、温泉を詰めて暖かくぽわんぽわんな勇者様は、いつもとはまた違った快感を与えてくれましたとさ。
~そのころ、魔界四天王筆頭~
「ふーふーふー、まーおーうーさーまー。仕事を放り出して温泉湯治とは、いいゴミぶんDETHことー」
最近絶滅のオーラっぽいものを出せるようになった筆頭は、温泉街からちょっと離れた山に辿り着いていました。
なんだか源泉っぽいものを発見したのですが…。
ひゅるるるるー、どこどこどこどこーん。
突然降ってきた肉弾に潰されてしまいました。
~そのころ、魔王様~
「ガチガチガチガチ、ブルブルブルブル」
仕事をサボった罰か、温泉に入ろうと扉を開ける寸前にいきなり腹に肘打ちを喰らい、運悪く冷泉に突っ込んだようで、非常に冷たい思いをしていました。
どうやら打ちどころが悪かったらしく、お腹が痛くてたまりません。
また冷泉は底が浅かったようで、まともに頭を打ち付けて首の骨がこきゅっといってしまい、体を動かすことができません。
「うううー。ガチガチガチガチ、ブルブルブルブル」
しかも何故か、男湯には誰もやって来ません。
なぜか周りの冷泉が暖かくなり、湯気がホカホカ出るようになっても、男湯は静かなままです。
隣の女湯は誰かが入ってきたのか、ちょっと賑やかです。寂しくて涙が出ちゃいます。
ちなみに何故か垣根があちこち不自然な形です。
そう、ちょうど、男湯からしか女湯が覗けないような…。
といっても、湯煙さんが頑張っているので、何も見えないのですけどね。
こうして魔王様は、お忍びの温泉旅行で却って体調を悪くして戻って来ました。
そして魔王城で、予想より遥かに機嫌の悪い魔界四天王筆頭に散々叱られましたとさ。
なんじゃこりゃと思われた方、申し訳ありません。
ええ、不満に思われるのはよく判ります。
湯煙さん、死んでるどころか頑張りすぎですよね、はい。
というか、著者自体、なんでこうなった、です。
おかしいなー、当初の予定では、湯煙満載のサービスカットで、突然湯煙さん殺害事件が起こり、「きゃー」と女の子が何故か立ち上がるサービスシーン満載のはずだったのに。
女湯に現われる(色んな意味での)魔王様という絶好のシチュエーションなのに。
タグを追加すべきでしょうか。
残念な執筆能力なり、とかなんとか。
というわけで、水着で海岸編(勇者様がオイルマット!?)
水着でプール編(勇者様がスライダーマット?!)
裏カジノ潜入編(勇者様がバニーコスチューム?!!)
天空城強風編(勇者様のシーツが強風でチラッ!?!!?)
最後の宿屋の夜で、翌朝亭主が「お楽しみでしたね」編などなど、
もろもろのエピソードをカットして、次回決戦編を強行したいと思います。
お楽しみに!!(していてくれてほしいなぁ…)




